ナシの品種
ナシの品種はたくさんありますが、大きく分けて西洋ナシと和ナシの2種類があります。どうしてもラ・フランスやル・レクチェをつくりたい!と強い思いがある方でなければ、日本において作りやすい和ナシをおすすめします。
何を植えれば良いのか分からない場合は迷わず幸水と豊水の2品種を植えましょう。
ナシの品種の中では圧倒的なシェアを誇る王道品種で、作りやすさ、おいしさに加え、収穫時期がちょうどズレて幸水の収穫が終わったころに豊水がとれ始めるという、プログラムされているかのようなタイミングの良さ、更にはお互いの花粉でお互いが授粉し合えるという相性の良さから、これ以上におすすめできるものが見当たらないというのが本音です。
ネット上には、豊水と幸水を接ぎ木して一本の木に両品種が実るようになっている苗も流通していますので、スペースに余裕がない場合はそういった苗を入手すると良いでしょう。
ナシの植え付け
ナシの栽培カレンダーはこのようになります。
ナシの植え付け時期は11月から3月の間の葉が落ちている時期に行います。50センチ穴を掘り、堆肥(たいひ)20キロと肥料1キロ程度(窒素-リン酸-カリが8-8-8の場合)をよく混和して埋め戻します。深植えにならないように気を付けて、根をできるだけ四方に伸ばして植え付けましょう。
鉢植えの場合は、市販されている花木用の土(なければ野菜用の培養土でもかまいません)7割に、鹿沼土を3割混和して植え付けます。
添え木にゆるく結び、根元から50センチくらいまで切り詰めます。
ナシの肥料
ナシの肥料散布時期は、木の生育や、果実の食味に強く反映されます。
年間必要量のほとんどを12月に散布します。栽培カレンダーにあるように、12月からはナシの木は葉も落ちて休眠期に入るのですが、12月に土の上にばらまいた肥料は、2月中旬以降の根の伸張の際に吸収され、6月頃にその肥料効果を終えます。
それだけ長い期間にわたって肥料を効かせたいので、速効性の化成肥料ではなく、ホームセンター等でも置いてある、有機配合肥料を使用しましょう。約3~4キロ(窒素成分が8の場合)を12月に施します。鉢植えの場合は鉢の大きさに応じて減量してください。
6月で肥効が切れるのですが、地植えの場合、土壌中の成分がゼロになることはあり得ませんので、あとは収穫まで肥料を与える必要はありません。むしろ7~8月に肥効が長引くことで、果実の甘みが低下する恐れがあるので注意しましょう。
鉢植えの場合は逆に、5月下旬に、今度は速効性の化成肥料を一握り与えます。実肥と言って、果実を大きくするための肥料です。
そして収穫後の9月に、“お礼肥(おれいごえ、おれいひ)”として12月に与えたものと同じ有機配合肥料を約1~2キロ散布します。カレンダーにある9月中旬から発生する秋根に吸わせて来年の養分を蓄えるための肥料となり、とても重要です。
ナシの剪定(せんてい)
ナシの剪定について調べようと思うと、どこもかしこも棚栽培における剪定方法ばかりだと思いますが、普通の立ち木でも栽培できます。ただ、棚を作ってはわせることで安定して高品質な果実を収穫できるようになることは請け合いですので、余裕があれば挑戦してみてください。かくいうこの記事の写真も棚栽培なのですが、共通する点を解説していきます。
この記事にたどり着くまでに見たナシ剪定の方法は、きっとどれもが“いかに樹勢を強く保つか”に重点を置いた内容だったと思います。それは、本来立ち木のナシを無理やり棚に押さえつけて弱らせる栽培方法がプロ農家では主流であるためです。
家庭果樹のみなさんは木の形にはあまりこだわらず、とにかく太陽の光が全体に当たりやすいように、日陰をつくる邪魔な枝を切除していきましょう。
最初はピンピンと真上に立ち上がった強い枝を全部切り落としてやると、随分すっきりするはずです。
どうしても実がならない場合は、ひもで枝を引っ張って下げてやると実がなるようになります。ナシの枝は半分以上裂けても大丈夫ですので思い切って引き下げましょう。
では、ナシの結果習性(花と実の付き方)について見ていきましょう。
植え付けた苗は、最初の2年間は骨格づくりに専念し、果実は実っても落とします。
ナシは、下画像のような1年目の若い枝にはあまり果実をつけません。つけてもあまり良い実に成長しません。
しかし、この1年目の枝の先端を少し切り詰めておくことで、次の年は下画像のように、
短い枝がたくさんつき、充実した芽がたくさん現れます。こういった2年目、3年目の枝をたくさん配置させるのがナシの剪定の大きな目的と思ってください。
棚栽培の場合は、1年目の枝を棚に引っ張っておけば勝手にこのような芽になりますが、立ち木の場合、前述したように幹の背面から立ち上がるような枝は切り落とし、斜めや横から発生した枝を残しましょう。
4年目、5年目と同じ枝に実をならせ続けていると、このように花芽がたくさんついた“ショウガ芽”と呼ばれる状態になります。大分枝自体が弱ってきているので、早く枝の更新をしてあげたいところ。
ナシの摘果
ナシの摘果作業は、甘く大きな果実をとるための大切な作業です。あまりに遅れすぎると小さく甘さの足りないナシになってしまうので、時期をしっかりと守りましょう。
プロの栽培現場では、摘蕾(てきらい)と言って、花が咲く前からつぼみの数を減らす作業をして少しでも残った果実に栄養がまわるようにしますが、家庭果樹では「満開後20日」を目安に摘果を開始してください。地域にもよりますが、おおよそ5月中旬頃です。
満開日から20日経つと、ある程度授粉の成否結果が目に見えて判断できます。
ナシは1カ所に何個も実がつきますが、1カ所1個だけを残して、他は全てハサミで切り落とします。
1回目の摘果の10~20日後くらいになると2回目の摘果の時期です。摘果の効果が歴然と分かると思います。時期を守った摘果は効果抜群です。
2回目の摘果では、3カ所に1果を目安に残して、他は落としてしまいます。厳密に言うと、一つの果実を太らせるのに大体25枚くらいの葉っぱが必要になります。
ナシの芽かき
摘果時期に、同時に幹の背面から立ち上がった強い枝を、手で外してあげましょう。この時期なら手でもぎって外すことができます。真上に立ち上がった強い枝は、将来も花がつかず、冬の剪定でどうせ落とす上に、どうせ要らない枝が上の方で展葉して、果実の栄養を生み出すための果実付近の葉っぱが日陰になるなど、良いことはありません。今のうちに落としておきましょう。
ナシの袋かけ
ナシの袋かけは早ければ早いほど防除効果が高いです。2回目の摘果が終わり次第、できるだけ早めに薬剤散布をおこない、病原菌を閉じ込めないようにして、乾いたらすぐに袋をかけてしまいましょう。
無農薬でつくる場合でも、袋をかけておけば、物理的に虫が入ってこられないため非常に有効です。
ナシの病害虫防除
ナシの病気は、家庭果樹の場合、ほぼ以下の二つに悩まされることになります。
赤星病:葉に黄色い斑点ができ、徐々に進行していくと紫色の糸状の物体が密集して発生する。2~3キロ圏内に存在するビャクシン類の植物に寄生しており、4月からナシに寄生する。発生が止まったと思ってもビャクシン類に戻っただけで、翌年も同じように発生する。
黒星病:葉や果実の軸部分に黒いすすのような物体が付着するが、徐々に葉そのもの、果実そのものに進行し、多発した場合、果実が全て割れてしまう。最も被害の多い病害。
これらの病害を防除するためには、4月からの定期的な薬剤散布が最も有効です。ホームセンターにもあるような安価な薬であれば、“オーソサイド水和剤”や“ベンレート水和剤”などが一応本病害への登録があります。
しかし、毎年出る場合や、どうしても止めたい場合は、最寄りの大きな園芸店やJAの資材センターへ行って“ストロビードライフロアブル”や“スコア水和剤”などを購入して使用しましょう。
以上がナシの栽培になります。完熟したナシはびっくりするくらい甘いですよ! ぜひ育ててみてください。