林業の「学びの場」とは
後継者不足の解消にむけて全国で林業学校が開校されていますが、林業を仕事にしたい人が知識や技術を学べる場として、どのようなタイプの学校があるのでしょうか。
どこで林業を学べる? 場所は?
森林・林業の学科などを設置している4年制大学
私立・国公立を合わせて現在29校あります(2019年4月時点、林野庁調べ)。学科やコースとして設置されており、各大学によって基礎から実践的な技術まで学べる内容もさまざまです。
林業大学校
府県などが運営する1~2年制の専修学校や研修機関です。長野林業大学校、岐阜県立森林文化アカデミー、ふくい林業カレッジなど、全国に18校あります(2019年4月時点、林野庁調べ)。社会人向けに短期講座を持つ学校も多くあります。
その他スクールなど
民間業者などが運営する林業のスクールもあります。釜石・大槌バークレイズ林業スクール、TOGA森の大学校など。
何を学べる?
即戦力で活躍できるよう、主に以下の知識や技術を専門の講師から学ぶことができます。
- 伐採や搬出などの作業技術
- 森林生態学
- 林業経営学
- 木造設計
- マーケティング
- 獣害対策 など
志願者増! 「高知県立林業大学校」
後継者不足の林業界において、年々入学志願者が増えている林業大学校があります。そのひとつが高知県立林業大学校です。
東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場など、数多くの建築物の設計を手掛ける世界的建築家の隈研吾(くま・けんご)氏が校長を務めることでも有名な同校。
基礎課程では林業分野に必要な12の修了証が取得できる特別教育・技能講習を受け、基礎課程からの進学者及び林業・木造建築関係業務の経験者などが入校できる専攻課程では森林管理、林業技術、木造設計の3コースに分かれ、より高度な専門技術が習得できます。
また、社会人でも短期間で学べる短期課程リカレントコースも設置するなど、幅広い層を受け入れる体制が整っています。
100%の就職率も人気の秘密です。高知県林業労働力確保支援センターと協力しての職業マッチングサポートや、在学中のインターンシップによる職業体験の支援など、心強いシステムがあります。
こうした独自の教育環境にひかれて県外から入校する人もいます。
森に学べ! 実習の内容とは
即戦力となる人材を養成するための基礎課程は、フィールドワークが7割を占める実践型のカリキュラムになります。山に入っての実習は危険と隣り合わせのため、講師の目が行き届くよう少人数の班に分けて実習が行われています。そして、数百キロにもなる大きな木を切って運ぶ集材作業をスムーズに行う上で欠かせないのがチームワーク。技術だけでなくコミュニケーションも必要とされるのが林業の現場です。
「効率、安全が各チームにかかっている。どんな場面でもチームの一員として最高の力が出せる現場のエキスパートになってもらいたい」と指導する講師のもと、チームで力を合わせ作業を行います。すると、自然と仲間意識が育ち、絆が生まれてくるのだそう。そして講師と研修生との距離も近くなり、独特の和気あいあいとした雰囲気に包まれます。厳しさの中にもそんなアットホームな雰囲気をもつ学校の様子を卒業生から聞いて、興味を持つ高校生も少なくありません。
基礎課程で架線集材実習を指導する濵口先生は、チェーンソーの達人であり、現場作業歴40年を超える林業の大ベテラン。高知の山の自然を熟知し、わな猟の免許も所有しています。
「安全第一で、実際の山で問題なく作業ができるようになってもらわんと。最初はギクシャク動いてた子も、作業を続けていくうちにスムーズに動けるようになる。現場作業はセンスもあるんやけど根性が大事やき。梅雨時の下草刈りはかなりキツイ作業ながやけど、それをリタイアせずにやれた子はものになるがよ」と濵口先生。
実習作業に携わる講師はほとんどが高知出身者。自分たちと同じように高知の自然に親しみ、山とともに生活できる技術を身に着けてほしいと、情熱を持って研修生たちを指導しています。
県土の84%を森林が占め、森林率日本一の高知県(2017年、林野庁調べ)。林業技術の実習は、西又地区の標高約1000メートルの山中にある演習林で行われています。
研修生たちはこの演習林で、伐木、造材、集材、架線技術、作業路網設計・開設技術、高性能林業機械操作実習など、第一線で働くための必要な技術を学び、林業現場のエキスパートを目指しています。
「大きな機械を思い通りに動かせる操作実習は面白いです。特にこのハーベスタは伐倒、枝払い、測尺、玉切り(丸太にすること)、積み込みや土場整理まで一台でできるので楽しいです。イメージした通りに木を動かして、丸太に仕上げられた時が特に楽しいですね。難しいのは他の木に当てないようにして、木を持ってくることでしょうか。この学校を選んだのは、大きな山を相手にする林業の仕事がカッコイイと思って。卒業後は民間の林業事業体を希望しています」と、ハーベスタを操作していた専攻課程林業技術コースの川竹賢太郎(かわたけ・けんたろう)さん(21歳)は話します。
取材日が高性能林業機械操作実習8日目という川竹君。スピーディーにハーベスタを操作する姿はカッコよく、木をどんどん丸太に変えていきました。
これからの林業界で求められる人とは
体力仕事と思われがちな林業ですが、林道整備や架線集材の作業など、緻密な計算や設計技術が求められます。
高知県立林業大学校でも、次世代の林業・木材産業をけん引する、技術と体力を備えた優秀な若い人材を現場に定着させるため、昔ながらの林業(山仕事)から、新しい林業(森の文化・技術の創造)へと現場の意識を改革しているそうです。
「山を見ただけで設計図が頭に浮かぶ、山のプロを育成したい」というのは、専攻課程森林管理コースの講師でもあり広報担当の福山先生。「木を観察することで山全体の材積(木の体積)を想像し、どんな機械が入ってどんな作業をすればよいのか収支計算ができる、山の全景写真や図面から地形を読み取り作業道の線形をひける、そういったプロフェッショナルを育てていきたいですね」と力がこもります。
「なぜこの場所にこの木があるんだろう?なぜこの木はこんな形をしているんだろう?と常に山に対して疑問を感じ、興味を持ち続けられる人はプロになっていきます」
長い時間をかけて育つ森林。探求心を持ち、長期的な視野で山と向き合っていける人材がこれからの林業界には求められています。