「人と関わりたくない」引きこもり農家が全国と繋がるまで

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「人と関わりたくない」引きこもり農家が全国と繋がるまで

「人と関わりたくない」引きこもり農家が全国と繋がるまで
最終更新日:2020年02月14日

代々繋いできた土地や作物を受け継ぐ農家の息子にとって、周囲の目がプレッシャーに感じることもあります。青森県鯵ヶ沢町でリンゴ農家を営む木村将瑛(きむら・しょうえい)さんもその一人。就農して10年以上周囲との交流を一切断ち、無心に仕事をしていたそうです。現在は青森県の若手農家の代表として全国の若手農家と繋がっている木村さん。その心境にはどのような変化があったのでしょうか。

農家を継ぐという負い目

――木村さんは高校卒業と同時に就農されたそうですね。

卒業したらすぐに農業を手伝って欲しい、という両親の言葉もあり、行きたかった専門学校のオープンキャンパスに行くまでもなく就農しました。就農と言っても家族経営なので、仕事は「見て覚えろ」。研修なんて当然なく、当時は家の手伝いをしている、という感覚でした。

――本当はやりたかった仕事とかあるんですか?

それが無いんですよね。進路を考える頃には家業が忙しくて、他の選択肢を考える余地がありませんでした。キャンパスライフを過ごしたり一般企業に就職する友人を見ては、「自分は進学や就職が出来なかった」という負い目を感じていました。
ちなみにアルバイトもしたことがないので、金銭感覚は高校時代から大して変わっていません。いまだに3千円のCDを買おうか結構悩む(笑)!

――堅実なんですね。

農家の息子の中には、高校の卒業祝いに新車を買って貰って一気に散財の扉が開いちゃう人もいるけれど、私は幸いそういうこともありませんでした。お金はあるけど使い方が分からない、という方が正しいですね。

就農して今年で19年目を迎える

――仕事を覚えるうえで苦労したことはありますか?「見て覚えろ」だと理解するまで時間もかかりそうです。

仕事を覚える苦労はそれ程ありませんでした。なんせ就農して10年以上、遊びや外部との交流を断って仕事しかしていなかったので。いわば「仕事をする引きこもり」です。
もちろん剪定など“答えとゴールがない”と言われている作業は今でも勉強会に参加して試行錯誤を繰り返しています。

――自分の部屋じゃなくて畑に引きこもっていたんですね!農業経営に支障はなかったのでしょうか。

うちは祖父の代から地元の市場や農協には出荷をせず、関東に出荷をしていました。そのため農協との付き合いがなく、青年部などにも所属していませんでした。
出荷スタイルも独特で、11月に収穫すると貯蔵庫に保管をして、1月~3月の間に出荷をするんです。そのため冬の間も梱包に出荷作業にと忙しく、農閑期にアルバイトで外に出ていく、なんて機会もありませんでした。

リンゴの農作業で必要な搭乗型機械は一通り揃っているし、資材や農薬は指定業者から購入すればいい。外から情報を取らないといけないと思うこともありませんでした。
今思えば、農業をする環境が整い過ぎていたんだと思います。

店頭でリンゴが品薄になる時期にずらして一気に出荷する

――何故そこまで周囲を遮断していたのでしょう?

田舎は狭い世界なので、どんな集まりに行ってもどこの息子か分かるんです。ちょっとうまくいかなかったら「あそこの息子が失敗したぞ」なんて噂がたつ。逆にうまくいっても親の力だと言われる。そういう雑音と、どう関わらずに生活できるかを考えていました。

一人黙々と農作業に励むことが好きだった木村さん

師匠は1000人

――現在は若手農家の青森県代表として全国の農家さんと繋がっていますね。外部と接しようと思ったきっかけは何だったんですか?

就農して13年間くらい無心に仕事を続けて、リンゴの栽培も覚えてお金も稼げるようになりました。でもなんというか、自身を律するもの……例えば「師匠の教え」みたいなものが無かったんですよ。一人でやっていたので。
両親から農作業は教えてもらいましたが、基本的には私のやり方を尊重してくれたので意見を言われることもありませんでした。

「自分は何の為に仕事をしているのか?」「何を目指しているのか?」この答えがなくて、稼いでいても哲学の無い自分が薄っぺらく感じてきました。そして、いくらやっても無味乾燥な日々に疑問を持ち始めたんです。

そんな時、昔入った地元の若手農業者クラブの存在を思い出しました。久しぶりに足を運んでみると、他の農家の取り組みが面白く思えて、地元の集まりから青森県、東北6県、全国の集まりへと参加するようになりました。
見知らぬコミュニティに行くと、自分が何処の誰の息子かを知る人もいないので、一人の人間として対峙してもらえるんです。次第に周囲の目を気にすることもなくなりました。

青森県農業青年者クラブの会長として若手を表彰する木村さん

――木村さんの師匠、そして哲学は見つかりましたか?

唯一無二の師匠は見つかっていません。ですが最近、1000人から1000分の1ずつ教えてもらったことを繋ぎ合わせたものが、自分にとっての師匠なんじゃないかと思ってきています。
例えば、お客様の「おいしかったよ」。
その一言も私の目指すべきことのひとつだし、1人のお客様の考え方やご意見も“1000分の1の師匠”として大切にしていきたいと思うようになりました。

――それが木村さんにとって、最もしっくりくる師匠なのだと思います。ご自身と仕事にとことん向き合ったからこその答えではないでしょうか。では最後に、これから目指していること教えて下さい。

私は仕事や経済面で恵まれていると思います。だからこそ短期的な結果ではなく、その過程にある見失いがちなものに価値をつけていきたいです。一つの作物に時間をかけて取り組む充実感や尊さ……そんな数字に表せない価値を「感動」として伝えていきたいと思います。

――これからのご活躍を期待しています。ありがとうございました!

【参考リンク】
全国農業者青年クラブ(日本4Hクラブ)

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