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農業の事業承継と世代間理解~水稲種子農家/事業承継士 伊東悠太郎氏から学ぶ~【農家の課題解決ゼミ開催レポート#07】

連載企画:農家の課題解決ゼミ開催レポート

農業の事業承継と世代間理解~水稲種子農家/事業承継士 伊東悠太郎氏から学ぶ~【農家の課題解決ゼミ開催レポート#07】

阿部梨園・FARMSIDE worksの佐川友彦(さがわ・ともひこ)さんとマイナビ農業が送る、生産者の悩みを解決する「農家の課題解決ゼミ」の第7回が、1月28日に東京・人形町のノウラボセミナールームで行われました。今回の特別講師は、富山県砺波市の水稲種子農家 兼 事業承継士の伊東悠太郎(いとう・ゆうたろう)さんです。伊東さんは、JA全農に在職中に作成した「事業承継ブック」が話題となり、全国で事業承継の啓発活動を行っています。今回のテーマは、「農業を次世代にバトンパス!事業承継と世代間理解」。多くの方にお越しいただいた当日の様子をレポートします。

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「事業承継」の定義とは?

第1部はゲストセッション。まずは特別講師である伊東悠太郎さんのトークからスタートしました。

伊東悠太郎さんは、水稲種子の県外向け受託生産量日本一の富山県で、種子生産の発祥の地でもある砺波市庄川町種田地区の農家の長男として生まれました。2009~13年度には、全農富山県本部(営農企画部)にて担い手対策や営農対策、園芸振興に従事。2014~17年度は全農本所(営農販売企画部)で、地域農家の担い手へ出向くJA担当者「TAC」の支援、Z-GIS(全農営農管理システム)の開発、JA青年部・4Hクラブ等の若手農業者対応他、数多くの活動を行っていました。2018年6月末に全農富山県本部(畜産部)を退職し、実家を継ぎ就農。現在は、本業の水稲種子農家の傍ら事業承継士として、全国で講演や個別支援を行うなど、現在も精力的に活躍されています。

「長男でもあり農家を継ぐことは意識していましたが、何をもって継ぐと言えるのかが曖昧だと感じていました。名義変更を行うことなのかコンバインの操作ができるようになることなのか明確な定義がなかったことに気づきました」と伊東さんは語ります。

当時全農にいた伊東さんは「同じ悩みを持つ農家はたくさんいる。せっかくならそのことを仕事にしたい」との思いが湧き上がり、2016年6月から事業承継ブック(親子版)の作成を開始。JA青年部、4Hクラブ員など100人以上にヒアリングを行い2017年1月に完成しました。現在は事業承継支援のツールおよびJA職員の“訪問ツール”として活用されています。

事業承継ブックは非売品です。入手はお近くのJAへ

伊東さんは、もし親や社長が明日いなくなってもきちんと経営できる状態であるかどうか=「現経営者に万が一の事態が発生した場合でも、現経営者以外の人材が円滑に農業経営を行うことができる状態にしておくための一連の取り組み」を事業承継と再定義しました。事業承継の取り組みは、すぐに何かが変わるものではないためつい後回しになりがちですが、一刻も早く意識をしていかないと手遅れになってしまうことも考えられます。
「親と子の関係性は、そもそもきちんと話をするということ自体がまれなことと思います。事業承継ブックを入り口として使ってもらい、気持ちを伝えるなどの思いの面から名義変更などの手続き的なことまでワークシートに書き込むことから始めることです。」と伊東さんは語ってくれました。伊東さんのゲストトークの後は、佐川さんとの対談および質疑応答の時間となりました。

対談:スムーズな事業承継を行うために

佐川:まずは、世代交代ということで、ベストな事例をご紹介いただければと思います。

伊東:上皇陛下の生前退位です。日付を決めたことでカウントダウンが始まりやるべきことが決まっていきました。従来の天皇陛下の即位は、天皇の崩御後に行われていましたので自粛ムードでしたが、今回は生前退位でした。元気なうちに退位を行うと周りもハッピーですし話し合いもしやすかったのではないかと思います。

農業の事業承継はなぜ進まないのか?

佐川:農業界の事業承継はなぜ進まないのでしょうか?
農業者の年齢分布もただただ上がる一方で、若い担い手が不足しているということはみなさんご存じの通りです。いったい何がボトルネックになっているのでしょうか?

伊東:一つには、定年がないこと。年齢を重ねても元気なお父さんが社長だと生涯現役ということも多いです。また、事業承継は人生に一度きりなので、経験値を積みにくい。まずは、第三者が入った話し合いを重ね、個々で定義付けをし、曖昧な部分を形にしていく必要があります。事業承継は影響が見えにくいのも進まない要因かもしれません。

佐川:例えば、事業承継を親が何歳で行うのかによって、その後の農園のシナリオは変わってくると思います。キャッシュメリットなどのモデルを作り、何歳で事業承継するとその後の利益が増えるのか見せてあげられるといいのかもしれません。

伊東家の事業承継はどのように進んだか?

伊東:時系列にしてみると、本格的に農業を始めたのは、2017年の6月です。東京・大手町に勤務しつつ、週末は富山に行く生活が始まりました。終電で東京を出発し土日に農業を行い、月曜日の朝5時に富山の実家を出て、9時に大手町のJAビルに出勤する過酷な生活を半年行いました。父親しか分からないことが多くあり、例えば、工具の場所が分からずに聞いても「倉庫の後ろの方にある棚の3段目くらいに箱があって、そこに入ってないか?」と言われ、いざ行っても見あたらない。「あの辺にないか?」「この辺にないか?」の繰り返しでした。そこで、今まで口伝だったものを「見える化」し、絵や文字にし、色分けをしました。すると、自分だけでなく母親も作業ができるようになりました。この経験が全国で同じようなことで困っている人の役に立ち、それによって救われる人もいるのではと、現在はSNSにアップして共有するようにしています。

佐川:業務も段取りが決まっていて、仕上がり日や確認事項含め、誰がやっても同じになるのが望ましいですね。モノづくりの世界ではすすめられてきた話ですが、事業承継をしていくためにも業務の標準化は大切ですね。

参加者との質疑応答から

──身につまされるお話、ありがとうございます。事業承継のバトンを渡す側に向けてお話をする機会はあるのでしょうか? もしあれば親世代はどんな思いなのかお聞きしたいです。

伊東:親世代からすると、引退せよと言われている気持ちになるのか、残念ながら余計なお世話だと言われてしまうこともあります。やはり、寂しいのかもしれません。あくまで引退をネガティブなものからハッピーでスムーズなものにすることが大事です。

佐川:例えば、親世代の事業承継の旗振りをする専門家と伊東さんがペアで組むと、親に対応する役と子供を励ます役で講演をうまく進められるのかなと思います。

事業承継をテーマにしたワークショップ

第二部は、事業承継をテーマにしたお芝居「伊東悠太郎一家」からスタートしました。

伊東さん佐川さんおよびマイナビスタッフによるお芝居に会場も沸いていました

シーンは全部で4つ。幼少期から反抗期、出戻り期、破綻期に分かれています。登場人物は父親、息子、その嫁の3人(父親役:伊東さん、息子役:佐川さん、息子の嫁役:マイナビスタッフ)。3人の熱演に参加者からは時折笑い声も聞こえてきました。その後、このお芝居をもとに、登場人物に対する感想や問題点についてのグループディスカッションを行いました。
最後に、各グループの発表および伊東さん、佐川さんによる講評の時間となりました。セリフにはない親の思いなどの行間をくみ取る参加者もいたり、自由な発想や考えが共有されました。当事者にとっては時に重いテーマになりがちな事業承継も、ユーモアあふれる内容のお芝居を通すことで、客観的に考えるヒントになったかもしれません。参加者のみなさんも帰り際には充実の笑顔を見せていました。

ヨシさんのグラフィックレコード。今回の事業承継もわかりやすくまとめてくれました

▼第8回は2月28日(金)13:30~18:00、テーマは「本家から学ぶ!農業で実践できるトヨタ式現場改善と課題解決」。数々のカイゼンを重ねて作り上げられた「トヨタ生産方式」。この経営思想は、2014年から農業IT管理ツール「豊作計画」として農業界でも応用されています。トヨタ社にて豊作計画を運営しているアグリバイオ事業部農業支援室をゲスト講師にお迎えし、トヨタ生産方式の全体像と本質、ならびに誰でも実践できる農業現場の改善と課題解決の方法について学びます。なかなか聞けない答えを指南していただきます。どうぞお楽しみに!
お申し込みはこちらから。

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