なぜ「農mers」? 選んだ理由はココ

とねぎファームのネギ畑
【応募者】脱サラ就農に向けて一日体験したい
「“就農”、“農業体験”というワードで検索したら『農mers』を見つけました」
そう話すのは千葉県柏市在住の田中元樹(たなか・げんき)さん。普段は会社員で、プログラミングの専門職。実家は農家ですが、成人してからは農業とは無縁の生活を送っており、スキルはほぼゼロ。しかし最近になって農業への興味が湧き始め、将来的には就農を考えています。
その足掛かりとして、実際の農家で農業体験をしたいという希望を持っていました。そこで、これは面白いかもしれないと思い「農mers」に登録し利用してみたところ、1週間ほどで後藤貴一(ごとう・きいち)さん経営の株式会社とねぎファームの求人を見つけました。
【募集者】スキルは要らない。スポットで手伝ってほしい
後藤さんはSNS(フェイスブック)上の知人を通して「農mers」を知りました。自身も就農して1年足らず。人を雇う余裕はまだありませんが、スポット(単発)で誰か手伝ってくれる人がいればありがたい。そう考えて登録しました。
「手伝ってほしいのは機械を使う単純作業なので、誰でも簡単にできます。スキルはなくてもオーケー、勤務時間も相手の都合のいい時間でオーケー。従来の求人では応募してこないような人と出会えるかも、と思って始めました」
後藤さんが登録したのは2020年1月半ば。暖冬の影響で作物の生育が早まり、予想外に早く繁忙期が来そうなため、少し早めに手伝ってくれる人を確保しておきたいと考えたのです。そして登録から1週間ほどして田中さんがメッセージを送ってきました。
当日までは気軽にチャットでやりとり
「そちらで働かせてほしい」と直球のメッセージ
登録欄には「農スキルを登録してアピール」という項目があり、農機具が使える、定植の経験があるといった農作業スキルから、営業や広報、マーケティングなど一般企業で経験できる知識・ノウハウまで15のアピール項目、また、自由記入欄も用意されています。
しかし田中さんはそこには何も書かず、チャットで後藤さんに「働かせていただけますか」とダイレクトにメッセージを送りました。
密度の高い情報交換

田中さんからのメッセージへの後藤さんの返信
こうしたメッセージのやりとりこそ「農mers」の活用のしどころです。十分に情報を交換し、そこでお互いの希望が合えば両者の間で契約が成立します。後藤さんと田中さんの場合、このやりとりは2日間、3往復で完了しました。ただし、それぞれのメッセージはかなり密度の高いものでした。
マッチングのポイント

田中さんから後藤さんへの返信。交通手段について聞くなど具体的な相談ができるのもチャットならでは
「農業体験をしたい。週末だけお手伝いしたい。同じ市内にあって近い。私の条件に後藤さんの募集内容はぴったりでした」と田中さん。
「丁寧な文面から農業に対する興味とやる気がしっかり伝わってきました。私自身がつい最近就農したばかりなので、自分の経験をもとにいろいろ相談に乗れるなど、田中さんがメリットを感じてくれるだろうと思って決めました」と後藤さん。最初の仕事は2月1日の土曜日、朝10時からです。
初対面でもスムーズに協働作業が可能
とねぎファームの事情

機械の使い方を指導する後藤さん
とねぎファームは現在、畑と水田を合わせて約3ヘクタールの圃場(ほじょう)を持っており、ネギを主体にホウレンソウ、米(コシヒカリ)を栽培しています。従業員は基本的に後藤さん一人。状況に合わせて随時、家族が手伝うというスタイルで経営しています。2019年2月から農業法人としてスタートした後、同年4月から12月までの出荷量は約4トンです。
後藤さんは当面の目標として圃場面積を6ヘクタールまで増やし、増産体制を確立したいと計画しています。そして、繁忙期にはスポットで人手を確保できればありがたいと考えています。
ネギの根葉切り、皮むき作業

作業をする田中さん
当日朝、田中さんは後藤さんからチャットで送った服装・持ち物に関する注意を確認し、作業用の手袋と長靴を持参して到着しました。30分程度の面談後、後藤さんが手伝ってもらったのは、ネギの根葉切り、皮むき、および、ホウレンソウの仕分け作業です。
畑から収穫したばかりのネギはそのままでは商品に不向きなため、一本一本機械に差し込んで根と青い葉の部分、そして表皮を取り除いてきれいにし、出荷できる状態に仕上げます。
スキルはないに等しいという田中さんでしたが、後藤さんが機械の使い方を指導したところ、すぐに問題なく作業を行うことができました。
お礼にネギとホウレンソウ
作業はとても和やかな雰囲気の中で順調にはかどり、夕方5時過ぎまで続きました。終了後、田中さんは手伝った報酬を受け取り、さらに仕分けをしたホウレンソウまでお土産に受け取りました。
人付き合いはあまり得意じゃないという田中さんですが、終始リラックスして取り組めたと言います。
マッチングを通して
【応募者】農作業体験以上の収穫が得られた
一日を通しての農作業体験。それとともに働きながらの、いわゆる「就農講座」。後藤さんから就農体験談、就農支援制度、および就農のメリット・デメリットについてなど、貴重な話をマンツーマンで聞けたのは大きな収穫だったと言う田中さん。
「農業に関して、まったく素人の私に快く農業体験をさせてくれた後藤さんと、出会いのきっかけになった『農mers』に感謝しています」
【募集者】希望に沿った人手の確保にプラス付加価値も
一方の後藤さんは「見ず知らずの方にいきなり会うのは少し緊張しましたが、事前のやり取りでとても丁寧な印象を受けたので、大きな不安はありませんでした。当社での就労を通じて農業への理解を深めてもらえたならうれしいです」と話しました。
そして、田中さんにはまた土日に手伝ってもらえる約束をしたとのこと。繁忙期の人手を確保でき、農業に興味がある人とつながれたことは大きいと言います。
「今後も『農mers』を活用して労働力の確保と人脈を広げていきたいと思います」
「農mers」から大きな実りへ
二人とも利用するのに特に面倒とは感じなかったと言います。スマートフォン一つあればチャットで気軽に情報交換でき、それぞれのニーズ、リクエストを的確につかめる「農mers」は、農業に関わる人たちの間で、とても有効なツールとして活用されているようです。
会社員のため、土日のみ働くことを希望する田中さんと、それで十分ありがたいと言う後藤さん。この日の小さな出会いが、今後、お互いの大きな実りに成長していくかもしれません。