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農家が情報発信する時のポイントは? 現役農家兼農業YouTuberに聞いてきた!

千田 一徳

ライター:

農家が情報発信する時のポイントは? 現役農家兼農業YouTuberに聞いてきた!

静岡県伊豆の国市地域おこし協力隊、農家志し中のちだです。農業素人の僕、何をするにもいちいち調べながらチャレンジしています。最近ではYouTubeの動画を参考にすることも多くなりました。そこで発見したのが愛知県にある松本自然農園さん。このチャンネルが役立つ上に面白い! しっかし、一人で農業やってて忙しいのに動画も撮るってすごくないですか? 興味津々なので取材してきました!

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「自分と同じ苦労をしてほしくない。」

農業の傍らYouTuberとしても活動し、2020年2月時点のチャンネル登録者数約9000人、動画数330本以上、総視聴回数約100万回を数えるチャンネル「農Tube委員会」を運営する、松本自然農園の松本直之(まつもと・なおゆき)さんは言いました。

非農家出身、脱サラして農家になり、一人農家として10年で年間売り上げ700万円、所得500万円にまで伸ばせた理由とYouTuberとして活動する思いには、新規就農者へのヒントがたっぷり詰まってましたよ!

松本自然農園さんの紹介

【松本自然農園・松本直之さん プロフィール】
1976年富山県生まれ。大学卒業後、愛知県内の自動車関連会社にエンジニアとして就職。3年後に退社し自転車日本一周を敢行。その旅の途中で有機農業に出会い、2005年に新規就農。
現在は化学肥料と農薬を使わない農法で年間60品目ほどの野菜を栽培し販売は100%個別宅配。
畑の面積は1ヘクタール。一人で年間売り上げ700万円、所得500万円を稼ぐ一方、作業の効率化などで年間労働時間1300時間、所得に対する時給換算で3800円を達成している。


松本自然農園さんのYouTubeによる発信に触れる前に、僕はどうしても聞きたいことがありました。
それは、松本さんが運営する「最強の脱サラ新規就農」というホームページの圧倒的な情報量です。

そのページは2年ほど前、僕が

  • 有機農業に興味あるな
  • 農家出身じゃないんだけど有機農業の農家になるってどうすればいいのかわからないな

と思って何気なく検索しているとヒットしたページでした。

ちだ

「非農家出身者が農家になって稼ぐまでに必要な知識や情報」が体系的にまとめられているページでびっくりしたのを覚えています!
「新規就農を志す人に役立つ情報」が一元的に集約されているページがほとんどなかったので、コツコツ作りました。

松本さん

松本自然農園さんの情報発信に対する思い

取材日は2月の端境期。1〜3畝ごとに作る作物が違う。

松本さんは、エンジニアをやっていたというバックグラウンドを生かして就農当初からホームページでの情報発信をしていたそうです。
それは、農業を始めるタイミングで役所の人から言われたあることがきっかけになったとのこと。
当初、「農業で稼ぐ」というよりは「生活できるだけの収入を得つつ、田舎暮らしを楽しみたいな」という思いが強かった松本さん。
研修等を終えて就農準備ができた松本さんは、役所に行って有機農業をやりたい旨を伝えました。

役所の方に言われたんですよ。市内で有機農業やってる人がいて、10年くらい経つけどその人の売り上げ年間100万円だよ?って。そこで、就農前に見ていた幻想的なものはすっぱり消えましたね。

松本さん

さすがに売り上げが100万円では家族は養えない。
また、今後有機農業を志す人に「有機農業でも稼ぐことができる」ということを理解してほしい。

という思いから、松本さんは稼げる有機農業を自ら実践することにしたそうです。

就農前から
「無化学肥料、無農薬」で野菜を作る
「多品種の野菜詰め合わせセットを、個別宅配」で収入を得る
ということは決めていました。逆に、これしか決めていなかったので多少遠回りをしたかなと思っています。

松本さん

個別宅配で契約してもらうには「ファン」を獲得することがポイントだと考えた松本さんは、野菜の栽培記録などの農園の情報、自分の農業や野菜に対する考え方などさまざまな情報をホームページに載せました。

個人農家の情報発信力は営業力だと思っています。なので野菜の栽培記録は5年ほど続けました。買ってもらう、継続してもらうために毎日ホームページを更新するようにしていました。

松本さん

コツコツ発信を続けた松本さんは、1年目こそ赤字でしたが2年目には黒字化、5年目には所得400万円超を達成しました。
これには情報発信はもちろんですが

  • 販売ターゲットの選定
  • 顧客からのフィードバックを得ての改善

を丁寧にやったことも大きな要因です。

最初は売り先が漠然と「家庭」でしたが、今では
「小さな子どもがいる家庭」
とターゲットをより具体的にイメージしています。
なので、小さな子どもが食べられない唐辛子やニンニクはセットに入れていません。
また、冬瓜(とうがん)などあまり若い世代が食べないものも入れないようになりました。

松本さん

アブラナ科の中国野菜、紅菜苔(こうさいたい)。菜花のように食べられる

以前、お客様である年配の方から「ほうれん草や小松菜など日常的な野菜を入れてほしい」という要望があったそうです。しかし、どこでも買える野菜は差別化にならないと断ったそう。

誰にでも受け入れてもらえるもの、よりも絞ったターゲットに刺さるものを提供してファンになってもらう、という方向性でやってます。

松本さん

水菜は水菜でも赤い品種。このちょっとしたひと工夫が喜ばれるヒケツ

宅配野菜セットには紅菜苔や赤水菜など少し変わった野菜と、その食べ方や特徴などを記した紙を同封して販売しているそうです。

かなり安定した経営をしている松本自然農園。じゃあ、なんでわざわざ手間のかかるYouTubeをしているんでしょうか。

根本は、やはり同じ苦労をしてほしくないということですね。

松本さん

多品種少量栽培で宅配販売をやる場合

  • 対象ターゲットの絞り込み
  • 品種の選定
  • 各野菜の栽培技術の習得
  • 年間の播種(はしゅ)、収穫スケジュールの調整

など考えるべきことが多くあるそうです。

松本さんは、これらを手探りしながら自分なりに少しずつ体系化していったそう。

自分が新規就農者の時に、この情報があったらよかったな、と思えるものを提供することを心がけています。
最近は情報を得る手段がテキストから動画へと移行しているので、それに合わせて動画でも有益な情報を共有していきたいという思いです。

松本さん

YouTubeの撮影風景。

ちだ

仕事しながらYouTubeってキツくないですか?
まぁ、キツイですよね。今はまだ閑散期なのでマシですけど。それでも仕事終わりに子どもを寝かしつけて夜の10時から撮影して、編集して0時1時を過ぎることはザラです。

松本さん

編集そんなに凝ってないからそこまで時間かからないですよ、と言うもののかなり大変そうなイメージ。
そこまでYouTubeに注力する理由には「新規就農者に自分と同じ苦労をしてほしくない」ということに加えてもう一つ理由がありました。

YouTube発信に対する松本さんの思い。「いろんな農家があっていい」

松本さんが盛んに言っていたのは「農家の多様性」と「農家の魅力」でした。

例えばナス一つとっても、「ハウスか露地か」「F1品種か固定品種か」「こだわりの堆肥(たいひ)を使ってる!」「減農薬か無農薬か」などなど、実にさまざまな違い、つまり多様性があります。
その多様性は個性であり、その個性は受け手によっては魅力になります。

また、農産物そのものはもちろんのこと、「作り手」である農家自身の個性も受け手によっては魅力になります。

農家さんがその魅力を認識していなかったり、じゅうぶんに発信できていなかったりするなと感じています。
なので、まずは自分が発信してモデルケースを作って、いずれは他の方のお手伝いもできればいいなと思っています。

松本さん

松本さんが、自身のチャンネルで農園の情報のみならず農業に関わるさまざまな内容を発信するのには

  • 新規就農希望者、既就農者への有益な情報を発信することで自分と同じ苦労をする人を減らしたい
  • 潜在的な消費者に向けて、松本自然農園、松本直之さんそのものを理解してもらい、ファンになってもらう
  • 農家自らが発信することのロールモデルとなる

という3つの意味が含まれていたんですね。

新規就農者に伝えたいこと

新しい動画は「農業の補助金」について。発信するにあたって、勉強も欠かさずしているそう。

最後に、これから新規就農を考える人、情報発信を考える人への情報発信のコツを聞きました。
それは、ずばり絞って、続けることでした。

誰に、何を、どうやって売るかをまず考えて、ターゲットを絞ります。
その絞ったターゲットが必要だと思う情報を出し続けましょう。

松本さん

また、自分の時間の使い方も「絞るべき」と言います。

一人で農業をやる場合、当然使える時間も限られます。
なので、自分の得意な部分に絞って時間を使ったほうがいいですね。

松本さん

例えば、松本さんのように「宅配セット」で収入を得ようとした場合、売り上げを確保するために時間を割くべきカテゴリーが3つあります。

  1. 新規獲得のための営業活動
  2. リピーター確保のための活動
  3. 栽培技術の向上

これを全部一人でやり切ろうとすると大変ですよね。

自分自身、リピーター確保のための活動は不足していると認識しています。
一方で、YouTubeやホームページなどの情報発信に時間を割いて注力しています。そうして間口を広げて、ファンになっていただける確度が高い方に注文してもらうことで売り上げを確保するという方向です。

松本さん

ちだ

なるほど、カテゴリー1の「新規獲得」ですね。もし「こだわりの野菜を作るのが自分の売り」であればそのこだわりを発信することが農家さんの魅力を発信することになるんですね。
そうです。誰に届けたいか、自分の売りは何かをまずは考えるべきですね。
あとは、コツコツ継続しながら修正してきましょう!

松本さん

農家の情報発信は、とがりつつコツコツと!

松本さんは、自身の経験から農家さん一人一人の個性は消費者にとって「魅力」になり得ると言いました。
一方で、その良さを必ずしも伝えきれておらずもったいないという思いを抱いています。

松本さん自身は、魅力を伝えたいというだけでなく、新規就農者が自分と同じ遠回りをしないように、という思いも同時に抱き情報発信をされています。

松本さんと同じくらいの情報発信は簡単なことではありません。
しかし、「自分の魅力」と「届けるべき相手」を想像してまずは一歩踏み出してみましょう!

農Tube委員会(YouTubeチャンネル)
松本自然農園
最強の脱サラ新規就農

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