牛乳って、どうやって牧場からスーパーへ行くの? 牛乳流通の基本
今回取材したのは、静岡県東部地域で「丹那牛乳」を製造している静岡県田方郡函南(かんなみ)町の函南東部農業協同組合(以下、丹那牛乳)です。
1948(昭和23)年に地域の酪農家さんたちの「自分たちの牛乳を自分たちで届けたい」という思いから設立。現在は函南町を中心に3町5市の牛乳を集荷しています。1日あたりの生乳処理量は50トンほど。牛乳はもちろん、ヨーグルトやバターなどの加工品も製造販売しています。主な出荷先は、スーパー、ホテルや病院、そして学校給食。学校給食向けには毎日11トン出荷しています。
■お話を聞いた方
函南東部農業協同組合営業部営業課課長
向笠正弘(むかさ・まさひろ)さん
最初に牛乳の流通を「1日単位」と「流通全体」という2つの側面から確認しましょう。
向笠さん
牛乳は、毎日作られる!
向笠さん
恥ずかしながら私ちだ、酪農家さんへの取材をするまでこの「牛は毎日乳を出す」という事実を知りませんでした。
乳を搾らないと、牛は乳房炎という病気になり最悪死んでしまうということもあります。
毎日搾られる生乳。酪農家さんは毎日搾乳し、丹那牛乳などの農協が1日1回または2回、各牧場を回って集荷します。
集荷された生乳は、細菌検査、加熱殺菌などを経てパック詰めされ、私たちが目にする牛乳になります。
生乳は毎日作られ、日持ちがしないので私たち丹那牛乳も毎日集荷して毎日牛乳を製造しているんです。
向笠さん
牛乳流通全体を確認!
毎日製造される牛乳ですが、流通全体の仕組みはどうなっているのでしょうか。
酪農家さんはこの団体に販売を委託し、乳業メーカーはこの団体から生乳を購入する、という流れになります。
向笠さん
この指定生乳生産者団体、
- 酪農家個人で乳業メーカーに交渉、販売するのではなく、まとまることで価格交渉力をつける
- 生産と需要のバランスをとって生乳の廃棄をなくす
といった機能を持たせることで酪農家さんを守り合理的な流通を行うために1966年から登場したそうです。
集荷も製造も自分たちでします。みなさんから見ると、私たちが酪農家さんから直接生乳を購入しているように感じるかもしれませんが、関東生乳販売農業協同組合連合会(※)という生産者団体を通して購入しているんです。
向笠さん
※ 関東の指定生乳生産者団体。生産者団体は地方ごとに組織され、全国で10の団体がある。
なぜ、急な休校だと牛乳が余るの?
基本的な牛乳流通の仕組みはわかりました。
では、なぜ急な休校だと牛乳が余ってしまうのでしょうか。通常の夏休みなどでは余らないのに。
向笠さん
ちだ
※ 一部商品を除く。
向笠さん
ちだ
向笠さん
しかし、2020年3月13日時点で丹那牛乳では学校給食休止に対応して特に全粉乳の製造ラインを24時間稼働にしているとのこと。
これによって丹那牛乳では牛乳の在庫が過剰になる、という事態は避けられているそう。一方で通常とは異なる工場の24時間稼働をいつまで続ければいいのかわからないことによる製造現場の疲弊は日々積もっていて、やはり事態の早急収束が望まれています。
もちろん、酪農家さんにとっても牛乳を飲んでもらうほうがいいんですよ。
向笠さん
伊豆の原木しいたけバター焼きが大好きなちだは疑問に思いました。
牛乳よりもバターの方が日持ちするんだから、普段からたくさんバター作れば良くね?と。
しかし、ここにも知らなかった事実があったのです。
「牛乳を飲んで酪農家さんを応援」は合理的だった
向笠さん
ちだが調べたところによると、生乳の価格は各指定団体と各乳業メーカーとの間で行われる価格交渉で「1年間の価格」が決まります。この価格は、同じ指定団体から出荷される牛乳でも、買い手の乳業メーカーとの条件等によって異なるため、公表されていません。
価格交渉の際「牛乳用生乳」と「加工品用生乳」とでそれぞれ価格が決められます。
そしてこの価格差、かなり大きいことが想定されます。例えば、100グラムのバターを作るのに約2リットルの牛乳が必要です。
スーパーによく置いてあるバターは200グラムなので、使われる牛乳は約4リットルです。
一方、ちだの近所のスーパーでは1リットル入りの牛乳が200円で売られていました。
もし、バターを牛乳用の生乳で作ると販売価格は200円×4リットル=800円以上になっちゃいますね。
ちだ
なので、牛乳を飲んでいただくのが我々にとっても酪農家さんにとっても一番いいんです。
向笠さん
加工に回すのも限界あり。牛乳をたくさん飲んで酪農家さんを応援しよう!
毎日生産される生乳。
牛を守るため、酪農家さんは不安に駆られながらも牛と向き合っています。
乳業メーカーは、牛と向き合う酪農家さんを守るため、酪農家さんの利益が最大化されるようさまざまな工夫をしていました。
学校給食がなくなったことで、乳業メーカーが加工品の増産をするのにも限界があります。
また、生乳が加工品に多く回ることで酪農家さんの収入は減少してしまいます。
いつもより、少しだけでも多く、牛乳を飲んでみませんか?
地元の牛乳、飲んでみませんか?
飲んで、応援しましょう!