オンライン販売、無人販売所、CSAの必要性高まる
数年使用していなかった無人販売所を再開したという大皿さん。「置き野菜は毎日売れている。今後も続ける予定です」キャプション>
神戸市内で有機農業を営むナチュラリズムファームの大皿一寿(おおさら・かずとし)さんは「今のところ、それほど影響は受けていない」と言います。飲食店への出荷が休止となりましたが、生協の個人宅配分の注文が増えるなど、全体的な出荷量に大きな影響はないそうです。
毎週出店していた神戸ファーマーズマーケットが4月いっぱいで中止となったものの、その分は常設店のファームスタンドへ出荷できるため、マイナスはほとんどないとのこと。ファームスタンドは店舗での販売を続けるほか、野菜セットのオンライン販売もスタートし、おもにファーマーズマーケットの常連客に利用されているとのことです。
2016年からCSA(※)という取り組みを続けている大皿さん。「3月からCSAの問い合わせが増えている。今後の食料供給に不安を抱く人が出てきたんだと思う。望ましい状況下ではありませんが、CSAの価値が広く認識され、不足している新規就農者の確保につながれば」と力強く話します。
※ CSA(Community Supported Agriculture):消費者が作物の代金を農家に先払いすることで、農家の経済的な負担を軽減するシステム
外国人技能実習生が来日できず、国内雇用へ
長野県の川上村でレタスなどを生産する傍ら、農業女子オンラインサロン(ウェブ上の会員制コミュニティー)を主宰する新海智子(しんかい・ともこ)さん。新海さんのオンラインサロンには全国各地の農業女子が集まり、Zoom(インターネットを使ったビデオ会議システム)で情報交換などをしています。そこで今回はZoomによる取材を依頼し、お話を聞きました。
新海さんをはじめとしたメンバーの皆さんは、「農業は街に行く機会も少なく、生活自体は変わっていない。今は経営面での大きなダメージはない」と言います。休校措置がとられてからは、お子さんを実家に預けたり、畑に一緒に連れてきたりしながら、農作業をしているそうです。
新潟県の米農家の女性は「お米がよく売れています。都内からお米を予約できないかという問い合わせもありました。お米の予約を受けたのは初めてです」と話します。千葉県の農産物直売所にトマトを出荷する女性は「直売所が営業を続けているため、今のところ出荷も今まで通り。たくさんの方に買ってもらっているようで、よく売れていてありがたいです」と話します。
一方で、新海さんの農園がある川上村では、人材不足が深刻になっています。川上村では毎年3月頃から10月頃まで外国人技能実習生を受け入れていて、今年もおよそ1000人が訪れる予定でしたが、多くの実習生が来日できていません。
新海さんと同じく川上村でレタスを生産する農家の女性は、急きょ、アルバイトを募集したと言います。「求人広告を出すとすぐに応募がありました。観光業の派遣スタッフや工場で働いていた方などからの応募で、長期の休業を言い渡されたようでした」。足りなくなった労働力を国内雇用に切り替える動きが進んでいますが、まだまだ人手が足りないと話します。
また、中国から輸入している一部の農薬が入手できなくなっているという農家も。他のメンバーからも、今の状況が長引くと、入手困難になる資材が出てくるのではないかという心配がある、という声が上がっています。
北海道の酪農家が飼料調達に懸念、人手不足深刻
マイナビ農業の北海道支社には、多くの酪農家から人材不足を嘆く声が寄せられています。北海道の酪農家の多くは、自分たちで牧草を育てています。6月下旬から通常の酪農作業に加え、牧草を収穫する作業がはじまるため、これから繁忙期に入ります。
しかし、北海道内では、判明しているだけで少なくとも約200人の外国人技能実習生が来道できず、労働力不足が深刻化。新型コロナの影響が長引くと、飼料調達が十分にできなくなることが懸念されています。自社の農地で育てた牧草の他にも、カナダをはじめとした海外産の飼料を仕入れている酪農家も多く、「海外の資材生産に影響がでていると来シーズン以降の調達がさらに難しくなるのでは」と不安を拭えません。
北海道の酪農家たちは「人材が足りていない今、農業や田舎暮らしに興味を持ってくれる方であれば全力で歓迎したい」と訴えます。後継者不足も課題になっており、若くてやる気のある人材が強く求められています。
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AFP通信は「フランスの農相は4月7日、仕事がなくなった労働者に対し、労働力の確保が急務となっている栽培農家や畜産農家で働くことを呼び掛けたところ、20万人以上から応募があった」と報じています。
日本でも国内雇用が進んで農業関係人口が増えれば、農業活性化や食料自給率の上昇につながる可能性があります。本来あるべきだった農業の姿が戻ってくるかもしれない──と、筆者はささやかな希望を抱いています。
苦しい時は国から支援を受ける必要もありますが、できる限り自力で生活したいと考える人は多いでしょう。自分たちの手で食料を生産する行為は、自分自身の力で生きるということでもあるのだと、コロナ禍の今、痛感せずにいられません。
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取材協力・画像提供:
ナチュラリズムファーム
農業女子オンラインサロン
農業女子が自分らしい暮らしを育むための、学びの場と関係を作るサロン。2020年1月に立ち上げ、現在(2020年4月時点)は14人が参加。「農業女子がエンパワーメントし合い、持っている力を農業・地域・家族の中で発揮する」がミッション。主な活動は、オンライン対話を基本にした勉強会等。