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コロナの影響でシンガポールの農業が発展する?! 食料自給率改善の方法とは?

千田 一徳

ライター:

コロナの影響でシンガポールの農業が発展する?! 食料自給率改善の方法とは?

新型コロナウイルスが各国へどんな影響を与えているのかを調べていると、とても興味深い記事を見つけました。それは「シンガポールが食料自給率の改善に大きな投資を決定した」というものでした。詳しく調べてみると、シンガポールの食料生産の現状、農業の未来がおぼろげに見えてきました。それは日本にも影響があるのでしょうか。今回はシンガポールの食料事情についてお伝えします。

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コロナで食料危機に?

世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルスの影響で、日本のみならず世界各国の食料事情にも影響が出ています。
最も顕著な例としては、世界最大の小麦輸出国であるロシアとウクライナが輸出量の制限を始めたことです。
他にもベトナムの新規米輸出契約停止、カンボジアの米輸出停止など各国が国内需要を優先した動きをしています。

こういった状況を踏まえ、世界の国々では食料自給率を上げよう!という動きが出ています。
それぞれ、一体どんな施策をとっているのでしょうか。
今回はシンガポールに焦点を当ててみたいと思います。

食料自給率10%以下?! シンガポールの食料事情

シンガポールは東南アジアに位置し、金融、観光等で有名な国です。
マーライオン、と言えばなんとなくイメージできる人もいるのではないでしょうか。

国土は東京23区とほぼ同じくらいで、そのうち農地は1%以下という都市国家です。

農地が少ないことから食料自給率も低く、2019年の食料全体の自給率は生産額ベースで10%以下でした。
となると、食料は周辺国からの輸入がメインになりますよね。
シンガポールは、なんと約170の国から食料を輸入しているそうです。

以前シンガポールを訪れた際、地元のスーパーをいくつかのぞいてみました。
確かに野菜などさまざまな食料品が日本を含む海外産でした。

シンガポールのスーパーにあった熊本県産の原木シイタケ。7.9シンガポールドル≒590円


こちらは中国産のシイタケ。3.5シンガポールドル≒260円

食料は作れなくても輸入すればいい。輸入ができなくなるリスクは、輸入元を多くすることで分散する。

という方針だったシンガポールですが、過去に

  • 2000〜2008年ごろの世界的な干ばつや石油価格上昇に伴い輸入食料品価格が上昇した(平均12.1%上昇)
  • 他国から輸入した鶏卵や豚肉などがサルモネラ菌に汚染されていて、輸入禁止措置が取られた

などの問題が起こり、食料の国内生産を強化するための農業生産基金の設立や補助金の拠出などが行われました。

現在は新型コロナウイルスで食料輸出を制限する国が出ているので、シンガポール政府の食料自給に対する危機感は正当なものであったということが図らずも証明された、という状況ですね。

アフターコロナ。2030年までに食料自給率を30%に!

さらにシンガポール政府は、2019年3月には国内で需要の高い「葉物野菜」「鶏卵」「魚」(※)の生産性を高め自給率を30%まで引き上げるため、3000万シンガポールドル(日本円で約22億円)の拠出を決定しました。

※ 国内全需要のうち、葉物野菜の自給率は13%、鶏卵は26%、魚は10%。

食料自給率が低い→高くしたい→まずは需要の高い作物に予算を!というのはとても合理的なやり方ですね。

しかし、実際にどの程度生産性を高めれば自給率が30%になるのでしょうか。
ここで葉物野菜に着目してみます。
2030年に想定される葉物野菜の消費量は約10万1500トンです。
(2030年の予想消費人口:634万人、1人当たりの年間消費量:16キロで計算)
自給率30%が目標なので、約101,500 × 0.3 = 約30,400トンが目標値になります。
現在シンガポールでは年間1万1800トンの葉物を生産しているので、不足分は1万8600トンとなり、現在の生産性をおよそ1.57倍に高める必要があります。

ですが、そもそも農地が狭いのにどうやって生産量を高めるのでしょうか?

そこには国土が狭い、都市国家シンガポールならではの工夫がありました。

国土が狭い! 省スペースで生産できる植物工場に注目!

シンガポールでは、商工業施設の屋上や駐車場、施設内の一部などを植物工場や農園として活用する動きが特に進んでいます。

植物工場(画像はイメージです)

シンガポールのComcrop(コムクロップ)という会社は、2014年から試験的に屋上に設置した太陽光利用型の植物工場で野菜を生産しています。生産面積は約550平方メートルで、毎日50キロの葉物を生産しています。
今後半年ほどの間に7カ所、計7400平方メートルの屋上植物工場を建設し、生産量を10倍にすることを目標にしているそうです。

また、シンガポール食品庁は国営住宅の立体駐車場の屋上に植物工場を建設するため、2020年6月に敷地レンタルの入札を終え、計画を進める予定です。

加えて、複数の省庁をまたがったチームが結成され、高い生産性と持続可能性を備えた農業の実現に向けた動きが始まっています。

上記で紹介した太陽光を利用する植物工場でもAIやICTなどの先端技術が多く使われており、高い生産性を実現しています。

シンガポールの食料危機に対応するこれらの動きは、新型コロナウイルスの影響でさらに加速することが予想されます。

植物工場が食料危機を救う?

今回は新型コロナウイルスがシンガポールにもたらした食料問題についてレポートしました。
国土が狭く、農地が日本と比較して極端に少ないシンガポールでは、植物工場の技術をさらに発展させ食料自給率の向上を目指しています。

ところでシンガポールで行われている「商工業施設に植物工場を作る」という施策、実は日本でも少しずつ進められています。
最近では2020年2月26日、スーパーマーケットの「西友上福岡店」に約150平方メートルの植物工場「リーフルファーム」が作られ、栽培したレタスの店頭販売が始まりました。

国連は、2050年には世界人口の68%が都市部に居住する、という推計を出しています。
農地が少ない都市部で新鮮な野菜を手にするために、狭い栽培面積を有効に活用できる植物工場は効率的な手段となり得るでしょう。

日本の食料自給率は2018年度、生産額ベースで66%、カロリーベースで37%。決して高くはないという面で共通点のあるシンガポールをウオッチすることで、日本の将来の食料事情の参考になるかもしれません。これからも注視したいところです。

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