先送りになった植物工場の建設、1日10万株のレタス出荷を可能にする新計画とは

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先送りになった植物工場の建設、1日10万株のレタス出荷を可能にする新計画とは

連載企画:農業経営のヒント

先送りになった植物工場の建設、1日10万株のレタス出荷を可能にする新計画とは
最終更新日:2020年04月21日

工場から出荷されるレタスは1日に10万株――。バイテックベジタブルファクトリー(東京都品川区)は2年前、そんな途方もない生産量を持つ植物工場の建設計画を発表した。稼働を目指していたのは2020年秋。ところが稼働まで1年を切った今になっても工場は着工しておらず、稼働は先送りとなった。計画が見直しになった背景にはどんな事情があるのだろうか。

レタス日量10万株の工場建設計画

バイテックベジタブルファクトリーは、半導体商社大手のレスターホールディングスが植物工場事業に参入するため、2015年に設立した会社だ。さまざまな企業が植物工場の可能性に期待して参入しているが、バイテックベジタブルファクトリーには他と違う二つの特徴がある。

一つは販路だ。ほとんどの植物工場は主な売り先がスーパー。野菜売り場に並ぶ、ちょっと小ぶりで一つ一つ袋に入ったレタスの多くは工場製だ。1回で食べきることができる大きさや清潔感が受け、売り場でほぼ定着した。

これに対し、同社はコンビニをメインの販路に選んだ。コンビニの商品はスーパーの野菜と違い、相場が上がっても値段を簡単に変えることができない。そこで、天候に左右されないために値段が安定する工場野菜の強みを生かせると判断した。サンドイッチやサラダの食材としてレタスを卸している。

石川県鹿島郡中能登町にある植物工場(写真提供:バイテックベジタブルファクトリー)

もう一つの特徴は、工場を建設するスピードの速さだ。2016年から2018年にかけて秋田、石川、鹿児島の各県で合わせて5つの工場を稼働させた。多くが1~2カ所の建設にとどまっているのと比べ、異例の急拡大だ。

この5カ所の合計で1日当たりの生産量は7万株。しかも、同社は2018年2月に、大型の工場をさらに3つ造ると発表した。2019年に4万株の工場を2つ建て、2020年秋には10万株の工場を稼働させるというのがその内容。需要の拡大が見込めるコンビニ向けの市場で一気に主導権を握ろうという戦略だった。

業界を驚かせた計画の発表からすでに2年が過ぎた。ところが新設するはずだった工場は、3つともまだ着工していない。

栽培棚の様子(写真提供:バイテックベジタブルファクトリー)

葉っぱの厚いレタスの栽培を模索

筆者は、計画を大幅に見直すことを1年ほど前に同社から聞いていた。そのとき記事にしなかったのは、見直しの理由と今後の展望をじっくり聞くことのできるタイミングを待つべきだと思ったからだ。

そうでないと、「計画変更」だけが前面に出た記事になってしまう。そういう断片的な情報の発信の仕方は、植物工場というまだ発展途上の栽培技術にとってプラスにはならないと考えた。そして今回、ようやく計画をどう見直したのかについてインタビューする機会を得ることができた。

社長の原田宜(はらだ・よしみ)さんによると、2019年に予定していた2つの工場の建設はいったん見送り、10万株の工場の建設を優先するというのが新たな計画の柱。2021年秋までに着工し、2023年春に稼働させる。

10万株の工場の最大の目玉は栽培の自動化だ。これまで同社は一部の作業を除きほとんどを手作業で行っていたが、新工場は種まきから収穫まですべての栽培工程を機械化し、作業の効率を高める。

レタスの収穫作業

ではなぜ新たな計画を話せるようになるまで時間がかかったのか。その答えは、栽培方法の見直しにあった。レタスをより大きくし、葉っぱをより厚くするため、栽培日数を現在の三十数日から四十数日に延ばすことを模索していたのだ。レタスの重さはこれにより、従来の2倍以上になる。

理由は、コンビニのサンドイッチやサラダという用途の特性にある。スーパーの生鮮コーナーで売るレタスは1回で食べきることができる手ごろな大きさが付加価値になり得るのに対し、一度に大量に扱う加工用はできるだけ大きいことが求められる。そのほうが作業効率が高まるからだ。

サンドイッチなどのレタスはふつう加工の過程で何回か洗う。付着している菌数を減らし、できるだけ商品が日持ちするようにするためだ。洗浄には機械を使うため、葉っぱが軟らかいとちぎれたりする恐れがある。そこで栽培方法の見直しでは、葉っぱをこれまでより厚くすることも追求した。

それを確立できたことが、10万株の工場のプランを具体化することにつながり、今回の取材にもつながった。新しい栽培方法は4月から既存の工場で本格的に採用する。新工場はそれをいかに自動化するかが課題になる。

収穫後のレタス(写真提供:バイテックベジタブルファクトリー)

目指すはベテラン農家の栽培技術

2019年に予定していた2つの工場の建設を見送った理由にも触れておこう。同社は2018年まで矢継ぎ早に工場を建設しながら、栽培方法や工場の運営上の課題を見つけ、次の工場に生かすというプロセスをたどってきた。

そうした中で、2019年の工場も10万株の大型工場にいたるまでのステップという位置づけだった。だが工場を増やしながら改善するよりも、じっくりプランを練ったうえで「決定版」とも言うべき大型工場を建てたほうがいいと考えた。それが2つの工場の建設を見送った理由だ。

ではどんな工場が決定版になるのか。原田さんにそう聞くと、「いろんな変更が可能になる工場」という逆説的な答えが返ってきた。

左が社長の原田宜さん(写真提供:バイテックベジタブルファクトリー)

工場野菜に対する需要は拡大の過程にあり、今後どんな品質のものが求められるようになるかは未知数。大きさや味、食感などを含め、畑で作る野菜にできるだけ近づけるべきなのか。それとも工場野菜ならではの品質が求められるようになるのか。需要はこれから変化する可能性があり、それに対応できるように栽培方法を柔軟に変えられる工場を考えているという。

そうした構想を話しながら、原田さんはふと「塚本桂子(つかもと・けいこ)さんが理想」と語った。静岡県菊川市でレタスを栽培する塚本さんが、技術の向上にかける情熱は求道的。彼女が長年の経験を通してつかみとった技術について、この連載で以前、次のような言葉を紹介した。
「品種ごとのレタスの性格の違いがわかるようになりました。いつどんな作業をすべきかは品種によって違います。そういうことを、きちんと狙ってできるようになりました」

原田さんはこの記事を読んだとき、これこそ新しい工場が目指すべき姿だと思ったという。栽培工程をすべて自動化する新工場は、どうやってそれを現実のものとするのか。その成果を確かめるまで、もうしばらく待つこととしよう。

塚本桂子さん

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