新型コロナで注文激減の農家、食べチョクで農産物を完売

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新型コロナで注文激減の農家、食べチョクで農産物を完売

連載企画:農業経営のヒント

新型コロナで注文激減の農家、食べチョクで農産物を完売
最終更新日:2020年06月30日

新型コロナウイルスの感染拡大の影響が農業や漁業にも広がっている。飲食店の営業縮小などで、食材の注文が減っているからだ。そうした中、生産者から消費者に食材を直送するサービス「食べチョク」を運営するビビッドガーデン(東京都港区)は、送料の一部を負担することで生産者を応援する取り組みを始めた。その背景について社長の秋元里奈(あきもと・りな)さんに聞いた。

秋元さんに届いた「農産物の売り先に困った」の声

食べチョクは生産者が野菜や肉、魚介類などを専用のサイトに出品し、消費者が注文するサービス。ビビッドガーデンは3月からほぼすべての商品を対象に、通常なら消費者が払う送料のうち500円を負担する取り組みを始めた。対象を絞らなかったのは、多くの生産者が影響を受けていると考えたからだ。

秋元さんによると、「生産者からSOSが出始めたこと」が取り組みを始めるきっかけになったという。マルシェを伴うイベントの自粛などが相次いだことで、農産物の売り先に困った生産者の声が届き始めていた。

秋元さんの周囲で外食を控え、自炊する人が増えたことも背景にある。小中高の臨時休校で家庭で調理をする機会が増えることも予想された。秋元さんは「これまで宅配で食材を購入していなかった人にも届くようになるなら、農家にも消費者にもウインウインの取り組みになる」と考えたという。

食べチョクのサイト

当初は3月いっぱいで終了する予定だった。だが国内外で事態が日増しに深刻になっていることを踏まえ、注文の受付期間を4月30日まで延長した。

送料のうち同社が負担する500円という金額はどうやって決めたのか。そう質問すると、秋元さんは次のように説明してくれた。「私たちが負担する500円は当社にとって利益が出ないか、ちょっと赤字になるような水準です」

食べチョクは生産者が設定した販売価格の一定割合を、ビビッドガーデンが手数料として受け取る仕組みになっている。送料を負担すれば当然、収益が圧迫される。そこで同社が現在持っている資金と照らし合わせ、負担できる金額としてはじき出したのが500円だった。4月30日までの延長を決めたときも、「あと1カ月なら送料負担を続けても大丈夫」と判断したという。

生産者を応援する取り組みを始めたビビッドガーデン社長の秋元里奈さん

売り上げの成果が出ている生産者も

一定の成果も出ている。例えば岐阜の農家は、イベントの中止で余った110袋の落花生を食べチョクで完売した。広島の漁師も、イベント中止で売り先に困った8000個のカキを完売した。飲食店からの注文が大幅に減った佐賀のアスパラガスの生産者に、200件近くの注文が入ったという例もある。

秋元さんは「送料を負担したことがどれだけ効いたのかわかりませんが、多少の後押しにはなったのではないでしょうか」と話す。秋元さんがツイッターで伝えたこともあって取り組みが広く知られるようになり、注文は日を追うごとに増加。3月の件数は2月の約3倍に増えたという。

イベントで余ったカキが完売した(写真提供:ビビッドガーデン)

消費者の声が生産者に直接届くという産直サービスの強みも生きた。例えば消費者から「こんなふうに調理して食べました。ごちそうさまでした」といったメッセージが届き、生産者が「とても励まされました」と喜んだ。イベントで余った食材を完売できた生産者が感謝の気持ちを込め、それ以外の食材をかなり割安な価格でサイトに出品したケースもあった。

困っている生産者を応援したいという消費者がたくさんいることもわかった。秋元さんのツイッターには「どうせ食材を買うなら、お互いに助け合うことになるところから買いたい」という声が多く寄せられた。
この間、秋元さんは生産者の我慢強さも知った。今回の取り組みを始めてから、サイトに「コロナでお困りの生産者さん」というコーナーを設けている。売り上げがどれだけ減ったかなどを消費者に伝えるためだ。

ところが生産者に「困っているなら言ってください」と頼んでも、「自分より困っている人がいる」と遠慮する人が少なくなかったという。「こういうことが起きるのも織り込みずみ」と答えた生産者もいた。天候という自分にはコントロールできないものに向き合い続けてきた生産者の力強さかもしれない。

アスパラ農家にも多くの注文が入った(写真提供:ビビッドガーデン)

赤字覚悟の取り組みの背景

ビビッドガーデンは設立が2016年。当時ディー・エヌ・エー(DeNA)に勤めていた秋元さんが「農業のために役立ちたい」と決意し、会社をやめて立ち上げた。実家の畑を久々に訪ねたとき、荒れ果てた姿を見て衝撃を受けたことが起業のきっかけになった。

秋元さんは今回の取り組みを続ける中で、食べチョクのサービスをスタートさせたころのつらい体験を思い出したという。サービスを利用してくれている生産者の離農だ。台風などで被害を受けた後、「もう農業なんてやってられない」と言って廃業してしまう生産者が何人もいた。

「あのとき何もできなかったことに対する悔しさ、販売に貢献することができなかった悔しさがずっと心の中にありました」。秋元さんはそう語る。そして今回の取り組みを通し「できることは増えた」と感じているという。

「農家の役に立ちたい」という思いで起業した(写真提供:ビビッドガーデン)

新型コロナウイルスの感染拡大による経済と社会の混乱がいつどんな形で収束するかを見通すことは難しい。だがこの混乱の中で、食べ物の大切さを多くの人が改めて感じているのではないだろうか。秋元さんは「食べ物を作っている人がいて、それを運ぶ人がいる。そういう当たり前のことがいかにすごいかを、皆さんが意識し始めているような気がします」と話す。

秋元さんの創業のきっかけになったように、もともと日本の農業は耕作放棄地の増大で先行きに黄信号がともっていた。ではどうすれば食べ物を安定的に享受し続けることができるのか。その根幹にある農業をどうやって維持していけばいいのか。そのことを正面から考えるべきときなのだろう。

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