宅配料金の値上げに直面! ピンチを救った新しい配送方法

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宅配料金の値上げに直面! ピンチを救った新しい配送方法

連載企画:農業経営のヒント

宅配料金の値上げに直面! ピンチを救った新しい配送方法
最終更新日:2020年04月21日

個人顧客に宅配で農産物を販売している農家にとって、宅配料金の値上げは大きなリスクになる。顧客に転嫁すれば契約が減る恐れがあり、自分で吸収すれば収益が圧迫されるからだ。神奈川県藤沢市の脱サラ農家、柿田祥誉(かきた・よしたか)さんはその難局を、販売手法を多様化することで乗り切った。

1日売り上げ1000円のマルシェ。そこで手に入れたものとは?

柿田さんは50種類以上の野菜を、農薬や化学肥料を使わない有機農法で育てている。スーパーなどで売っていない、おいしい野菜を積極的に取り入れることで、商品の魅力が高まるよう工夫している。売り上げの半分を個人向けの野菜セットが占め、残りを食品店や飲食店などに販売している。

都内でサラリーマンをしていたとき、妻の悦子(えつこ)さんの勧めで農作業を体験したことが、就農のきっかけになった。農家から畑を借りて無農薬で大豆を育て、味噌(みそ)に加工する市民グループの活動だった。
そこで農業の楽しさを知り、就農したいと思うようになった。いずれ独立して仕事をしたいと考えていたことも背景にあった。問題は生活を成り立たせることができるかどうか。悩む柿田さんの背中を、悦子さんが押した。「いつまでも悩んでいないでやってみなよ。ダメだったらそれでもいいじゃない」

主力商品の野菜セット(写真提供:柿田祥誉)

会社を辞めて農家のもとで1年半研修し、2014年に31歳で就農した。藤沢市で畑を借りたのは、「顧客とつながっていたかった」(柿田さん)からだ。そのためには地方よりも、消費地に近い都市近郊のほうが有利と考えた。
まず知り合いへの販売から始めた。「農業を始めました」と連絡すると、2人を応援するために数人が購入してくれた。新規就農で農協や市場などを通さず、個人向けに直接販売しようとする農家の基本パターンだ。

次に始めたのが、さまざまなマルシェへの積極参加だ。野菜の宅配セットの顧客を増やすのが目的だった。マルシェに出した野菜の袋にホームページのアドレスを書いたシールを貼り、柿田さんの野菜を食べて「おいしい」と思った人が宅配セットを契約してくれるように誘導した。
「たとえマルシェでの1回の売り上げが1000円でも、顧客を1人つかむことができればオーケーと思った」。柿田さんは当時の狙いをこう語る。このあたりは、会社員時代に営業で顧客を増やすために培ったノウハウが生きている。

こうした努力が実を結び、就農から3年たったころに顧客が安定して増え始めた。栽培技術が向上し、野菜の品質が高まったことも追い風になった。現在、野菜セットの販売は週に80~90セットまで増えている。
では2人は宅配料金の値上げにどう対処したのか。効果を発揮したのは宅配を使わず、自ら野菜を配達する手法の導入だった。配達を受け持つのは悦子さん。就農を決意したときと同様、悦子さんが大きな役割を果たした。

脱サラで就農した柿田祥誉さん

宅配料金に左右されない「ドロップポイント」とは

運転手不足が深刻になったことなどを背景に、宅配料金の値上げが本格化したのが2017年。宅配を利用している農家はこのとき、大きな困難に直面した。そのころちょうど、柿田さんたちは新しい配送方法を始めていた。
ある場所に野菜セットをまとめて運び、顧客に取りに来てもらうというのがその内容。2人はこの場所を「ドロップポイント」と呼んでいる。

もともと宅配料金のことを考えて始めたわけではない。悦子さんが通っていたヨガ教室の家主とその隣の人が野菜セットの顧客だったため、教室に行くついでに持って行ってあげたことがきっかけになった。
ここが最初のドロップポイントになった。悦子さんがここに運ぶ量は現在、週に4~5セット。当初は悦子さんがその場で一人一人から代金を受け取っていた。だがそのやり方だと拘束時間が長くて非効率なため、いまはその場に置いた集金袋に代金を入れてもらい、後で回収に行くという方法に改めた。

悦子さんは野菜セットの配達を担っている

こうして新しい配送方法を模索しているさなかに、宅配料金の引き上げという試練に直面した。「宅配だけに頼っていては、先行きが心配」と考えた悦子さんはドロップポイントを増やすとともに、その仕組みを整えていった。
配達料は1セット当たりで200円。中には飲食店などにドロップポイントになってもらい、集金を代行してもらっている場所もある。その場合、200円は飲食店の収入になる。ドロップポイントは現在、5カ所に増えた。
その結果、以前は100%だった宅配の利用比率を大きく押し下げることに成功した。野菜セットを宅配で届けているのは、今は約3分の1。残りの3分の2はドロップポイントへの配達と、顧客が農場に取りに来てくれる分が占める。

一方、運送会社の要求で、2018年6月には宅配料金がいよいよ引き上げられることになった。その分は、野菜セットの送料にそのまま反映させることにした。利益を削って対応すれば一時的に影響を避けられるだろうが、長期的には営農の継続を脅かすことになると考えた。
顧客には丁寧に事情を説明した。「おいしいお野菜を継続的にお届けするために、日頃お世話になっております皆さまに大変心苦しいのですが、ご負担をお願いするしかない状況です」。こんな手紙を野菜セットに添えて送った。
配送方法を分散しておいたことで、送料の引き上げを決めやすくなった。当然、宅配の顧客が減ることも覚悟した。幸いそれは杞憂(きゆう)に終わり、契約を打ち切る人はほとんどいなかったという。

ハウスで育てたキャベツの苗

営農を工夫して守りたいのは「すてきなことを伝えたい」という思い

ここで農業に対する柿田さんの思いに触れておこう。
マルシェを通して契約を増やし、顧客への野菜の届け方を多様化するといった戦略性ばかり目立ったかもしれないが、さまざまな努力の根底にあるのは「自分たちがすてきだと思うことをみんなに伝えたい」という思いだ。
柿田さんが選ぶ品目の中には栽培が難しく、効率的に作りにくい野菜がたくさんある。優先しているのは味。2人が食べておいしいと思った野菜をよりすぐり、品目を増やしてきた。顧客の反応もその際の参考にした。送料を上げても宅配の契約がほとんど減らなかったのは、その成果だろう。

就農時に掲げた「顧客とつながっていたい」という目標は、農場で開く収穫イベントなどを通して実現してきた。ここで追求しているのは、利益の確保ではない。だからこそ、それを支える営農の収益性が重要になる。

家族や顧客との時間を大切にしている

柿田さんは自らの農場を、高校時代のあだ名をとって「柿右衛門農園」と名付けた。あえて漢字を使い、ちょっと硬い感じの名前にしたのは「代々続いている農家」というイメージを出したかったからだ。

新規就農の柿田さんにとって、野菜を育てるのは先祖から受け継いだ家業ではない。だが経営をしっかりさせることによって、柿田さんが「すてきだと思うこと」を家族や顧客と共有する時間は未来へと伸びる。そのことを、宅配料金改定への対応をテーマにしたこの原稿の締めくくりとしたい。

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