水田作物を食い荒らすジャンボタニシは電気と超音波で撃退せよ!

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水田作物を食い荒らすジャンボタニシは電気と超音波で撃退せよ!

連載企画:農業テクノロジー最前線

水田作物を食い荒らすジャンボタニシは電気と超音波で撃退せよ!
最終更新日:2020年09月08日

水田の作物を食い荒らすジャンボタニシは、関東以西の広い地域に定着し、今後、地球温暖化の影響でさらに分布域を北に広げていると言われています。農薬を用いるか人の手で捕殺する以外に効果的な駆除方法がないことから、佐世保工業高等専門学校准教授の柳生義人(やぎゅう・よしひと)さんは、電気工学の知識を生かして、電気と超音波を活用してジャンボタニシを駆除する技術の開発を進めています。

電気工学を生かして駆除技術の開発に取り組む

南米原産の巻き貝のジャンボタニシ(和名:スクミリンゴガイ)は1980年代に食用として日本に持ち込まれましたが、その後、野生化して水田の作物を食い荒らすようになりました。そのため水田の水位を浅く保ち食害を抑える浅水管理をするほか、農薬(殺貝<さつばい>剤)を散布したり、人の手で捕殺したりしていますが、ジャンボタニシの旺盛な繁殖力の前に十分な駆除ができていないのが実情です。

ジャンボタニシの食害を受けたところは苗が育っていない


4~10月頃の産卵期にショッキングピンクの卵を産み付ける

そのため佐世保工業高等専門学校電気電子工学科准教授の柳生義人さんは工学の知識を生かしてジャンボタニシの駆除技術の開発に取り組んでいます。電気工学を専攻していた柳生さんが、どのような経緯でジャンボタニシを研究するようになったのでしょうか。

「大学では電気工学を環境問題の解決に応用しようとする研究室に所属していました。汚染された大気や水を浄化する技術の研究が進められていたのですが、研究テーマの一つにジャンボタニシの駆除技術の研究があり、殻が8センチにもなる大きな巻き貝であること、自然界では考えられないほど鮮やかなショッキングピンクの卵を産むことに興味を持ち、ジャンボタニシの駆除技術の研究に取り組むことにしました」(柳生さん)

当初は電気ショックだけでジャンボタニシを駆除できるのではないかと考えられました。水田に電気を流すだけで殺貝できるなら、農薬のように周辺環境への影響を心配しなくてもよくなります。しかし、実験したところ数百ボルトの高電圧でもジャンボタニシは死ぬことはありませんでした。安全性を考えると、さらに電圧を上げることは難しく、電気ショックで駆除することはあきらめるしかありませんでした。

ジャンボタニシが電気に引き寄せられることを発見

ただし、電気ショックでジャンボタニシを駆除する実験を繰り返すうちに、思いがけない発見があったと、柳生さんは語ります。
「今もって理由は明らかになっていないのですが、水槽に電極を入れて電気を流すとジャンボタニシが引き寄せられることが明らかになりました。だったら、電気で殺貝するのではなく、ジャンボタニシの行動をコントロールして駆除できるのではないかと考えるようになりました」

水槽の両端に電極を入れた状態で、中央にジャンボタニシを置いても(上)、通電して10分経過すると電極に引き寄せられていく(下)

実際に水槽の中央にジャンボタニシを入れて、両端に電極を沈めると、弱い電流でもジャンボタニシが集まってきました。これなら農家が捕殺するのを手助けできそうですが、新しい駆除技術として実用化するなら、ただ集めるだけでなく、殺貝まで目指すことにして、取り入れたのは超音波でした。その理由について、柳生さんがこう説明してくれました。
「電気工学で環境問題を解決しようとしていたので、研究室にはさまざまな実験機器があり、手を変え品を変えジャンボタニシに試してみました。試行錯誤の結果、比較的周波数の低い超音波でジャンボタニシを殺せることが分かりました」
眼鏡店の店先に洗浄器があるのを見かけたことがあるでしょう。実は眼鏡洗浄器は超音波を利用しており、超音波によって生じる衝撃波で眼鏡に付着した汚れを除去しています。こうした超音波をジャンボタニシに照射することで、硬い殻の内部にある筋肉や内臓が傷つき、殺貝に至ると考えられました。そのため最適な周波数、処理時間を見いだす実験も行われています。

28kHz、45kHzの超音波であれば短い処理時間でも高い確率で殺貝できることが明らかになっている

駆除装置の自作は絶対にしないでください

電気で集め、超音波で殺す──。これを水田で実現できれば容易に駆除できそうですが、実用化するには実際の水田で安全性や効果を確かめなければなりません。しかし、佐世保工業高等専門学校は工学系の教育機関のため、実験に使える広い水田はありません。なかなか水田での実験はできなかったのですが、意外なところから声がかかりました。
「研究室内の実験で有望な結果が得られたので、ジャンボタニシを駆除できるかもしれないと、ある新聞が紹介してくれました。すると佐賀県のレンコン農家が実験するのに圃場(ほじょう)を提供してもよいと申し出てくださいました。このご厚意には本当に感謝しています」(柳生さん)
ジャンボタニシの食害は水稲だけでなく、水田で栽培されるレンコンにも及んでいます。しかも、その農家は有機栽培でレンコンを生産しており、農薬を使えなかったため、柳生さんの駆除技術に期待して実験場所として圃場の提供を申し出てくれたのです。

佐賀県の有機レンコン圃場で行われたフィールドテスト


水田に電極を沈めて24時間後には大量のジャンボタニシが引き寄せられた

実際にレンコン圃場に電極を沈めて試したところ、24時間で600匹以上を捕獲することができました。これに超音波による殺貝を組み合わせれば、手軽にジャンボタニシを駆除できるようになると期待されますが、柳生さんは「製品化できるまで待ってほしい」と訴えます。
「今年は暖冬の影響からかジャンボタニシが大量発生することが懸念されています。そのため駆除装置を自作したいという農家の方から相談を受けることがあります。詳しく聞くと強い電気で感電の恐れがあるものを作ろうとしていたりします。大変危険なので、いくらジャンボタニシの食害に悩まされていても駆除装置の自作は絶対にしないでください」
電気と超音波でジャンボタニシを駆除できるようになるにはもう少し時間がかかりそうですが、何よりも安全に駆除できることが大切ですから、柳生さんが開発した装置が製品化されるのを待つことにしましょう。

画像提供:柳生義人 
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