忘れる間もなくやってきてしまう天災に備えるための「発電機」を選ぶ方法
近年の日本において、地震や台風、大雨など大規模な天変地異に見舞われなかった年があったでしょうか。「天災は忘れた頃にやってくる」といいますが、ここのところ忘れる間もなく、毎年のように悲しいニュースを聞かされています。そんな中、よくクローズアップされるのが「発電機」です。
災害時に止まったり滞ったりしてしまうことのあるライフライン。水は配給があったり備蓄していたりもする。ガスもカセットボンベを備えることで炊事などはなんとかしのぐことができるでしょう。一方、止まったらどうしようもないのが電気です。テレビからの情報は得られないし、スマートフォンの充電もままならない。停電を経験すれば、電気にどっぷり依存している現代社会のはかなさを思い知らされます。
農業関係も例外ではなく、停電による深刻な被害が少なからず報告されており、事前の対策が必要です。搾乳するミルカーや貯蔵するバルククーラーを使用する酪農家は、停電時でも電気なしでは立ち行かないので業務用の発電機を設置しているケースも多く見られます。ただ、小規模なハウスでイチゴや電照菊などを栽培している農家では、停電対策があまりなされていないのが現状です。
災害に遭った時、配給もない、備蓄もできない「電気」をつくりだすのが発電機。今回は、災害直後に必ず話題になる発電機にスポットを当てます。キャンプなどアウトドアでの活動やDIYといった屋外作業に重宝する発電機ですが、「非常時」に限った視点でみるとどうなるか。「災害に備えるための発電機」という切り口で書いてみました。
テレビやパソコンなどが使える質の良い電気を生み出す「インバーター発電機」
「インバーター発電機」。よく聞きますが、「インバーター」ってなんだろう? これからご説明しますが、その前に電気について少し触れておいたほうがよさそうですね。
電気に「質」の良し悪しがあるということをご存じでしょうか。質の良い電気は周波数と電圧が安定していますが、それらが不安定なものは「質が悪い」ということになります。
極端に言うと、わたしたちが日常的に使っている電気も、質が悪くなる可能性はゼロではないのです。需要と供給のバランスが狂ってしまえば周波数と電圧が安定しなくなる。需要の増減にかかわらず安定した発電をしなければ、電気の質は落ちてしまいます。いま日本の電気の周波数と電圧が安定して維持されているのは、電気会社の努力の賜物(たまもの)なのです。
発電機に話を戻しましょう。発電機は電気会社の発電所と比べられないほど小さい「発電所」ですが、磁石とコイルで電気をつくる仕組みは同じ。需要が増えれば供給側に負担がかかるという構造も一緒です。
発電機はエンジンを動力にしており、常に一定の回転数で動いています。しかし、使う側の電力が多くなると、エンジンは頑張りますが動きは重くなる。そうなると回転数にムラができて、周波数と電圧が変動してしまいます。結果、質の悪い電気の出来上がり。これが、従来のスタンダードな発電機がつくりだす電気です。
一方、インバーター発電機は、周波数と電圧が不安定な交流電気をいったん直流にして、「パルス幅変調」という技術を使って質の良い交流電気を出力します。つくりだされる電気は一般家庭に供給されているのと同質のもの。インバーター発電機は質の良い電気を供給できるのです。
これまでのスタンダードな発電機は、パソコンや電子制御機能のついた家電には使えないとされています。この類いの製品は周波数や電圧の変動にとても敏感で、故障を起こす可能性が高いのです。スタンダード式発電機は白熱灯など光源への電源供給に使うぐらいが無難ではないでしょうか。
その点、インバーター発電機はほとんどの電気機器に使えるので安心です。大切な情報の窓口となるテレビやラジオ、パソコンやスマートフォンの電源を確保できます。日常、使っている冷蔵庫や電子レンジなどを非日常で使うことができるのです。災害時におすすめなのはインバーター発電機です。
発電機の出力を選ぶのは、使いたい電気製品の「起動電力」の合計
次は、インバーター発電機の出力と、電力の需要と供給の関係についての注意点です。
クルマを考えてみてください。エンジンをかけて発進する時にはアクセルを踏み込み、加速して巡行速度になるとアクセルの踏み方を緩めて一定レベルを保つはずです。
電気製品、特にモーターを使用する製品も同じです。動き始める時にエネルギーを多く使います。これが「起動電力」です。その後、安定してくるとエネルギー使用量は平均化します。この時の値が表示されている「消費電力」です。電化製品は始動時に電気をたくさん使うものが少なくありません。メーカーに問い合わせるなどして、事前に「起動電力」を確認しておくことが大切です。
電化製品によっては、「起動電力」と「消費電力」が同じものもあります。ノートパソコンやテレビ、そして、電気ポットやホットプレートといったヒーター系の機器などです。
モーターを駆動しなければならないものだと、起動電力と消費電力に大きな差が出ます。
扇風機の場合は、消費電力が50Wで、起動電力は100W。電子レンジも同様で、消費電力1000W、起動電力1800Wとなり約2倍です。小型の冷蔵庫は消費電力が100Wで起動電力が400Wと4倍になってしまいます。
使用する電気機器がいくつかある場合、発電機の出力を選ぶ時の基準として合計するべきは消費電力ではなく起動電力です。たとえば、扇風機、電子レンジ、冷蔵庫を使いたいのなら、それぞれの「起動電力」を足し算して、100W+1800W+400W=2300W以上にする必要があります。
なお、この数値は、使用する側は電力、つまりW(ワット)で表し、供給する発電機では定格出力VA(ボルトアンペア)で表します。Wは有効電力、VAは皮相電力(見かけ上の電力)です。厳密には違いますが、目安としてはW≦VA、ほぼ同じと考えてよいでしょう。
電気が止まった時、どの電化製品を使いたいのかをあらかじめ決めておき、その「起動電力」を計算して、合計電力に見合った出力を持つ発電機を選びましょう。
発電機は電気をつくるが、騒音で敵もつくる。デシベルは抑えるべし
インバーター発電機は家庭に配電されているのと同じ質の高い電気をつくる正義の味方。ただ、発電機で大きな問題になるのがやはり「騒音」です。災害時には、市街地の住宅密集地域で使われることも多くあるはずなので、発電時の音がどの程度なのかは気になりますね。
騒音の大きさを示すのに使われる単位がdB(デシベル)です。たとえば家庭用エアコンの室外機の音は50dB。まだ「普通」と言える範囲です。60dBになると掃除機の音程度で「ちょっとうるさい」けれど、大きい声を出せば会話はできます。「うるさい」は70dB以上。2メートルほどの距離で聞くセミの鳴き声に匹敵します。80dBは地下鉄の車内、90dBはカラオケルームの中にいるレベルで「かなりうるさい」。100dBとなるとガード下で聞く電車の通過音と同等で「きわめてうるさい」レベルになります。
こんな目線で発電機の騒音を見てみましょう。メーカーのカタログのスペックには「騒音レベル」のところに「◯◯dB(1/4負荷時)/◯◯dB(定格負荷時)/◯◯dB(3/4負荷時)」とあります。いちばん低い数値を示す「1/4負荷時」を機種ごとに比べてみると、いまの時点でもっとも少ないのが81dBです。その後に80dB台が続き「かなりうるさい」レベル。ただ、dB値は音源との距離1ミリで計測した数値です。騒音は発電機との距離をとればとるほど加速度的に少なくなりますので、最近の「静寂性」をうたった製品の騒音に関する苦情は少なくなっています。
また、発電機の騒音については、一部のメーカーから「防音ボックス」が販売されています。10dB程度の減音効果があるので、より静かさを求める人は検討する価値がありそうです。
燃料はガソリンか? ガスか? 費用対効果と対気温特性を考えればガソリン
最後はエネルギーとなる燃料についても触れておきましょう。発電機の動力源はガソリンエンジンが主流ですが、最近ではカセットボンベ方式も普及しつつあります。軽油を使うディーゼルエンジンを搭載したものも存在しますが業務用が多く、価格もかなり高価です。灯油で動く発電機もあるにはありますが、家庭用には向かないでしょう。選択肢はガソリンとカセットボンベに絞られるのがいまの状況です。
ガソリン方式のメリットは長時間動かせること。10リットルあたり10時間ぐらいが大まかな目安です。カセットボンベ方式に比べるとランニングコストは安くなります。
カセットボンベ方式は、2本のボンベで約1時間しか使用できないというデメリットがありますが、燃料が保管しやすく長い期間備蓄できることがメリットでしょう。ホームセンターなどで手軽に購入できるのも魅力です。
ガソリン方式はメンテナンスが重要です。発電機のエンジンは、クルマではインジェクションに取って代わられた「キャブレター」搭載が主流で、使わない時はガソリンを空にするのが鉄則です。タンクはもちろん、キャブレターの中まですっからかんにしなければなりません。ガソリンが残っていると劣化してキャブレターに詰まってしまうからです。こうなるとイザという時にエンジンが掛からないリスクがあります。
その点、カセットボンベ方式は、液体が気体になってシリンダーに入るので心配はありません。ただし、両方とも定期的に始動してみることが大切です。万が一のために備えているのに動かなかったら意味がありません。加えて、国産品のエンジンはほとんどが4ストロークというタイプで、定期的なオイルの補充や交換が必要。これはカセットボンベ方式にも言えることです。
さて、ガソリンとガス、どちらの方式が良いのでしょうか。
停電が長く続く場合はガソリンが有利でしょう。ガソリンの補給が順調なら長期間の使用が可能です。ガスの場合、1日4時間使ったとして、ボンベは8本。3日間で24本が必要です。備蓄できる量ではありますが、電気が10日間停止すれば80本を消費することになります。買い足しができたにしても、コストはかさむ一方。長期戦には向きません。
また、カセットボンベの成分はブタンガス。温度が10℃を下回ると気化しにくくなり、5℃以下になるとほとんど気化しません。なので寒冷地で冬場に被災したら使えない可能性が高いのです。そんな時は、イソブタンやプロパンを主成分にしたハイパワー(寒冷地仕様)のカセットボンベもあるのでご安心ください。ただ、氷点下になるとさすがに火力は低下するそうです。
災害がいつ起こるのか。 電気の復旧が短期になるか、長期になるか。こればかりは誰にも予想できないことです。これらを考えるとガソリン方式が無難と言えるでしょう。
まとめ
パソコン、テレビや冷蔵庫などを使いたいのなら「インバーター発電機」
電気にも「質」の良し悪しがあります。従来のスタンダードな発電機がつくるのは質の悪い電気ですので、パソコンや電子制御機能のついた家電には使えません。この質の悪い電気を良化したのが「インバーター発電機」。いま使っているほとんどの電化製品を問題なく稼働させることができるため、災害時、オールマイティーに電気を供給できるのです。
使いたい電気製品の「起動電力」を足し算して、適正出力の発電機を選ぶ
発電機は機種によって発電能力、つまり出力(VA)が違います。選ぶ時は、使う電気製品の電力(W)に見合うようにしますが、「消費電力」ではなく「起動電力」を基準にするべきです。モーターを搭載した電化製品は特に「起動電力」と「消費電力」に差が出ます。複数の電気製品を使うつもりなら、それぞれの「起動電力」を加算して適切な発電機を選びましょう。
災害時、人々は「うるさい」にうるさい
非常時に聞こえてくる発電機の騒音。気分がいいわけがありません。特に住宅密集地では可能な限り騒音レベルの低い発電機を選びたいものです。最近では、各メーカーとも低騒音化に力を入れているので選択肢は多いと思います。より静寂性を求める人には「防音ボックス」がおすすめです。
ガソリン、カセットボンベ、それぞれ利点はあるが災害時はガソリンか
発電機の燃料は、ガソリン、ガス、軽油、灯油がありますが、家庭用となるとガソリンとガスに絞られます。ガソリン方式のメリットは長時間運転ができることと、ランニングコストが安いことです。カセットボンベ方式の場合、ノーマル仕様だと低温下では使えないという問題点もあります。災害対策としてはガソリン方式の方が使い勝手が良いのではないでしょうか。
今回は、災害時に話題になる「発電機」にスポットを当てて解説しました。農機具店でも発電機を販売しているケースは多くあり、特に災害直後などは需要が増えます。災害対策としては、適切な発電機を選び、正しい備えをしたいものです。