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農機具屋が教える「ギリギリ素人ができるコンバインのメンテナンス」

農機具屋が教える「ギリギリ素人ができるコンバインのメンテナンス」

収穫が終わってコンバインに「ご苦労さんでした」。ねぎらいの収納前メンテナンスをしましょう。メカが複雑なコンバインの整備は、ほんとうは農機具屋さんなどのプロに頼むのがベストではありますが、これからご紹介するメンテナンスはギリギリ素人さんでもできるはずです。時間に余裕があって体力に自信のある人はトライしてみてはいかがでしょう。コンバインへの愛着もさらに深まりますよ。

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高価なコンバインは1年でも2年でも長く使いたい

コンバインは、刈り取り、脱穀、選別、ワラの処理を1台で同時にできる多機能の農業機械です。中山間部では、いまだにバインダーで刈り取り、天日での乾燥後、ハーベスターで脱穀する地域もありますが、全国的にはいまやコンバインが主流になりました。バインダーとハーベスターを使う理由は、田んぼが狭いからと、はさ掛けなどによる自然乾燥にこだわる農家がいるからです。それと、いちばん大きいのは「価格が高いから」でしょう。コンバインは、新品の2条刈りで200万円前後からありますが、4条、5条、6条刈りともなると1000万円以上、高級外車なみのお値段です。こんなお高い機械はできるだけ長く使いたいもの。そのためには、なによりもメンテナンスが大切です。コンバインの耐用年数は10年といわれていますが、ちゃんと面倒をみてあげればもっと伸びるでしょう。

農機具のメンテナンスは事故やケガの危険もあります。少しでも不安を感じた場合には、プロの農機具修理店などに相談することをおすすめします。

徹底的に穀物の通り道を掃除する理由

まず、やってほしいのが穀物の通り道の掃除です。掃除はメンテナンスの基本ですので、その意味を理解してしっかりやってください。

掃除の理由その1:混合を防ぐため

農家によってはいくつかの品種の米をつくっているケースがあります。コンバイン内に米粒が残っていると違う品種が混ざりあってしまうのです。当然、同じコンバインで米と麦を収穫した場合は、米と麦が混合します。混ざってしまったら分離はほぼ不可能。だから、使用後の掃除は欠かせない仕事なのです。

掃除の理由その2:ネズミの害を防ぐため

また、穀物を扱うコンバインやハーベスターの敵はネズミ。残った穀物を狙ってコンバインの中にもぐりこんできて悪さをする。巣をつくることもあります。電気系のコードをかみ切ったり、ふんをまき散らしたり。コードが切れれば機械は動かなくなるし、ネズミのふんは穀物に混ざって収穫を台無しにしてしまいます。ネズミ対策の面からも掃除は大事です。

掃除の理由その3:機械の腐食を防ぐため

コンバインをかなりの長期間掃除しないと悲惨な状態になってしまいます。水分を含んでいる穀物やワラくずなどが腐食をまねいてしまうからです。腐食したパーツが交換できれば、まだ負担は軽くて済みますが、交換ができない部分はかなりの出費を強いられます。ゆめゆめ掃除せずに長期間放置することのないようにしましょう。

コンバインの掃除の準備

コンバインの掃除に必要な道具とは

さて、掃除に必要なものは以下の通りです。

●エアコンプレッサー
価格が2~3万円クラスのもので十分です。持っていないヒトにはちょっとした出費になりますが、高価なコンバインが長く使えるキーになる道具だと考えれば安い投資だといえるでしょう。

エアコンプレッサー

エアコンプレッサー

●手袋
カッター部の掃除では手をケガすることも多いので、切れにくい耐切創手袋がいいでしょう。

あとは安全のためにヘルメット、防じんマスク、防護メガネも忘れずに。

掃除をするときは安全で平らな場所を選ぶ

掃除の時は平らな場所で停止ブレーキをかけ、各部を収納状態にしてから作業レバーをOFFにしエンジンを停止。各部が動いていないことを確認してから行うことが鉄則です。

脱穀部の空運転から開始

掃除の前にやることは脱穀部の空運転。3分ぐらいでOKです。

コンバインの掃除の手順

カバーを外し、とくに穀物の通り道は丁寧に掃除

作業は各部のカバーを外して行いますが、開け方はメーカーや機種によって違うので、取扱説明書に従ってください。

掃除をする際、とくに穀物の通り道は一粒も残さないぐらいの気持ちで丁寧にやってもらいたい。脱穀部内の掃除は、こぎ胴を開き、わらクズを手で取り除き、上下の受け網を外し、エアコンプレッサーで内部をエアブロー。残った穀物やゴミを吹き飛ばします。カバーを外して、手とエアブローで残留物を取り除く。この手順で、各部を掃除しましょう。
穀物の通り道以外の掃除も大切です。エンジン回りのラジエーターやエアクリーナーなどもエアブローしてゴミやホコリを飛ばしてください。

最後はネズミ対策をしっかりと

ネズミ対策は念には念を入れましょう。掃除の後にホームセンターなどで販売しているネズミの撃退液を塗布すれば万全です。穀物に無害なハーブなどの天然由来の成分を使用したものを選ぶのは言うまでもありません。超音波を発信する撃退器も有効です。

コンバインのカバーを開けた状態

掃除と同時に行うベルトのチェックも重要

掃除をするためにカバーを開いたら、同時にベルトのチェックもしてください。コンバインは、走行・刈り取り・脱穀・選別・ワラの処理をひとつの動力を使って行うので、各部にベルトが多数配置されています。種類も役割によってVベルト、平ベルトなどいろいろです。ただ、いずれのベルトも長く使っていれば摩耗してしまうのは避けられない宿命。摩耗したベルトは、伝導率が弱くなるばかりでなく、破断につながり、最悪の場合、周囲の部品や配線を巻き込んで破損させてしまうこともあるのです。なので、ベルトは掃除のたびに必ずチェックしましょう。

Vベルトの摩耗の確認方法

摩耗の確認をする時、平ベルトは裏面の状態を見ればわかりますが、判断しにくいのがVベルトです。Vベルトがプーリーと接しているのは側面なので、減り具合がわかりづらい。なので、ベルトとプーリーの関係性で判断します。
プーリーとはベルトと接している滑車のような円形の部品のことで、エンジンからの動力を各部分に伝えるために重要な役割があります。円周部分に溝があって、そこにベルトをかませるようになっています。

Vベルト摩耗

プーリーの溝の断面図。摩耗する前は底面は接していない

Vベルトの側面が摩耗して細くなるとベルトは下がって、プーリーの底面と接してしまう。当然、上面も下がりますから、上面の山がプーリーから出ているか出ていないかが摩耗度の判断基準。プーリーとベルトの上面との差が0.5ミリ以下だったら交換時期です。ベルトの交換は摩耗のほか、ヒビ割れ、剥離やキズを見つけた場合にも行ってください。

ベルトのテンションも必ずチェック

ベルト本体の後にやるのがテンション(張り)のチェック。コンバインには、こぎ胴ベルト、カッターベルト、選別ベルト、排ワラベルト、グレンベルトなど、各部分にいろいろなベルトがついています。そのひとつひとつの張りを一定に保っているのがテンションバネです。バネの長さで張りの状態がわかりますが、各ベルトのバネの長さは場所によって違います。ですから、各部のバネの長さを測って、取扱説明書に書いてある数値内におさまっているかをチェックします。範囲内だったら正常なテンションです。そうでなかったら、ロックナットを緩めて調整ナットを回し指定された長さに調整してください。

Vベルト

Vベルト

素人でもできるその他のメンテナンス

注油は簡単にできる

掃除とベルトチェック以外でプロでない人ができることがあるとすれば、注油でしょうか。ただ、最近のコンバインには「集中注油装置」がついており、ほとんどの部分は自動で注油してくれるので、自動注油しない数カ所に油さしでオイルを注入するだけです。自動注油できない所は取扱説明書で確認してください。

クローラーの泥落としは体力勝負

車のタイヤに相当する走行の要、クローラー。クローラーの泥落としは自分でできそうですが、けっこうキツい作業です。湿田で使ったコンバインはとくにタイヘン。ワラが混ざった泥は硬くなって、クローラーにへばりついている様子はまるで化石のよう。水を吹き付けるだけで落ちるような代物ではなく、鉄の棒でつついたり、スコップや手でかき出したりしなければならない、かなりの重労働です。慣れたヒトでも半日ぐらいはかかるかもしれません。腰痛を持っている人や、体力に自信のない人はプロに頼んだほうが安心です。

メンテナンス風景

クローラーの掃除の様子

正直、掃除以外のメンテナンスはプロに任せるのが無難。

ここからは農機具屋の立場としてのおハナシです。これまでプロでない人がギリギリできるメンテナンスの説明をしてきましたが、ほんとうにこのあたりが限界だと思います。コンバインは多機能なので、メカニズムはメチャメチャややこしいです。エンジン部、走行部、刈取部、脱穀部、カッター部、搬送スクリュー部と、それぞれ違う動きをするわけですから部品も多い。消耗しやすい部分もたくさん存在します。
プロによるコンバインのメンテナンスの場合は、消耗品を交換する場合が多いです。数多いコンバインの部品のどれを交換すべきか。プロの確かな目で判断して換えていきます。最適な時期に的確な部品を交換できるのがプロの仕事です。なので、コンバインのメンテナンスに関しては、掃除以外は農機具屋さんなどに委ねたほうが確実だと思います。コンバインは、農機具のなかでもとくに高価な機械です。プロによる確実なメンテナンスで末永く快適に使いましょう。

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