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エンジン不調、ネズミ食害… 井関農機に聞く、よくある農機トラブルと必須メンテ

エンジン不調、ネズミ食害… 井関農機に聞く、よくある農機トラブルと必須メンテ

農業機械には、自動車のような検査登録制度がありません。大切な機械を長持ちさせコストカットに繋げるためには、日頃のセルフメンテナンスや定期的な点検が欠かせません。今回は、農業機械の総合専業メーカー井関農機に、よくある農業機械のトラブルと、それを防ぐためのメンテナンスのポイントを聞きました。

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農機メンテナンス、自分で行うメリットは?

◆お話を伺ったお二人◆

井関農機株式会社 営業本部 技術サービス部
渡辺竜生部長(左)、塚本健斗さん(右)

メンテナンスは安全な農作業への第一歩

農業機械を使用する上で、日頃からメンテナンスを行うことは、機械の能力を最大限に発揮させるだけでなく、安全な作業への第一歩です。特に、近年では農業機械の中古流通が増え、想定しないようなトラブルに巻き込まれることも多いと、渡辺さんは話します。
「農繁期に思わぬトラブルで作業が出来なくなり、大きなロスになった例もあります。特に、前の所有者の使用状況がわからないような中古の機械は要注意。中古で購入する場合も正規販売店を通して購入し、機械の扱いが得意でない方は定期的にプロに整備してもらうことをお勧めしています」。

例えば農業機械のディーゼルエンジンの場合、日頃のメンテナンスをきちんと行うことで10年は快適に使うことできるといいます。一方、故障の場合は一度の修理で工賃・部品合わせて数十万円の出費になることも珍しくありません。大規模に農業を手掛ける法人などでは、機械整備専門の人材を置いているところもあるほど、メンテナンスは経費節約にも重要と言えます。

今回は、トラクター、田植え機、コンバインの3機種について、井関農機や販売店に頻繁に寄せられるトラブル例と、それを防ぐための日頃のメンテナンスを紹介していただきます。

トラクター(作業機を除く)

よくあるトラブル1:エンジンオイルメンテ不足によるエンジン不調

作業機を除く、トラクター本体のトラブルで多いのがエンジン周りの不調です。
まずはエンジンオイルから見ていきます。オイルは、潤滑や冷却、洗浄、密封、衝撃吸収、シーズンオフ時の防錆など重要な役割を果たしています。メンテナンスを怠ると、エンジンが焼き付いてしまう場合があります。

点検はエンジン始動前などオイルが冷えているときに行ってください。レベルゲージを抜き、先端をきれいに拭いてから改めて差し込み、、再び抜き、オイルの量と色、とろみを確認します。上限と下限の間(写真、左右の点の間)にオイルがあれば量は十分です。褐色でとろっとしたきれいなオイルは、使用時間が経過するにつれ黒っぽくさらっとした質感になっていきます。
新車時はエンジン内に鉄粉が発生しやすいので50時間を目安に、それ以降は100時間に1回を目安に交換します。

新品と100時間のオイル写真(井関農機提供)

よくあるトラブル2:エアクリーナーメンテ不足によるエンジン不調

次に、エアクリーナーの汚れに気づかず使用を続けることによるエンジンの不調です。エアクリーナーはエンジンに取り込む空気の中にあるほこりやゴミを取り除く役割があります。メンテナンスを怠ると、エンジンの出力や燃費が悪くなったり、マフラーから黒煙が出たりします。

エアクリーナーのフィルターは作業前やおおよそ100作業時間ごとに状態をチェックし、乾いた埃等で汚れている場合は内側からエアーで埃を吹き飛ばします。湿った埃や油分で汚れている場合は、家庭用中性洗剤を水で薄め、30分程度浸した後軽くすすぎ、乾燥させます。湿度の少ない埃っぽい環境で作業した場合は思いのほかすぐに汚れがたまるため、作業後にフィルターの状態をチェックすることをお勧めします。

よくあるトラブル3:油圧オイルメンテ不足による作動不良

ミッションオイルはミッション内部を潤滑・防錆するだけでなく、油圧装置の作動油としての役割を果たします。メンテナンスを怠ると、油圧装置の作動不良を起こす原因になります。

検油窓タイプとゲージタイプの2種類があります。写真のような検油窓タイプの場合、作業機を一番下げた状態で窓の半分、または半分より少し上にオイルがあればOK。量が減っていたり、黒く汚れていたりしたら交換します。新車時50時間、それ以降は200時間ごとの交換が目安ですが、取扱説明書に書かれている交換時期をチェックしましょう。

最後に、各オイル交換時の注意点がもう一つ。取扱説明書に「純正オイルを使用」と書かれているものは、多少高くても純正オイルを使用するようにしましょう。

「例えば、この油圧・ミッションオイルは井関のオリジナル。油圧機器の駆動とギアの潤滑の双方に最適になるよう成分や粘度を調整しています。純正でないオイルを使用するとミッション内のギアの潤滑不足や油圧機器の作動不良を引き起こす可能性があります」。
機械の性能を十分に発揮させ、機械の寿命を延ばすためには、純正オイルを使用した方が良さそうです。結果的に作業中のトラブルや故障時の大きな出費を防ぐことにつながります。

田植え機

よくあるトラブル1:植込杆グリスアップ不足による植付け不調

植込杆は苗の植付けごとに泥水に浸かります。植込杆に十分なグリスがあれば、外部からの泥水を防げますが、グリスアップが不足していると植込杆内部に泥水が溜まったり、植込杆内部が摩耗すると、押し出しフォークの作動不調を引き起こし「浮き苗」や「飛び苗」の原因に。作業前に必ずキャップを外し、中にグリースが十分あるか確認してください。

水の多い場所を走る田植え機は、このほかにも注油が必要な部分が多数あります。作業前に忘れずに注油することで、快適に使い続けることができます。

よくあるトラブル2:施肥機清掃不足による肥料詰り

田植え機でよくあるトラブルの一つが、施肥機内での肥料詰まりです。粒状の肥料は吸湿性が高いため、シーズン後にホッパ内に残した肥料が固まって詰まり、翌シーズンに「肥料が出てこない!」なんてことも。シーズン終わりだけでなく、田植え作業の途中で雨が降ってきてしまったときなども、残った肥料を出し施肥機を分解して丸洗いして、しっかり乾かしましょう。

よくあるトラブル3:燃料系統メンテ不足によるエンジン不調

次は燃料系統のメンテナンスです。よくあるのは、「機械内にガソリンを残したままシーズンを終え、翌シーズンにエンジンがかからない」というトラブル。残されたガソリンが空気に触れ、タール状に腐ってしまったことが原因です。

ガソリンは、格納時に全て抜いて残さないことが重要です。抜いた後は、エンジンをかけ、ガス欠で止まるまで使い切りましょう。抜き取った燃料は、金属携行缶に保管してください。 

コンバイン

よくあるトラブル1:刈取部注油不足による刈取不調

田植え機同様に泥の中を走るコンバイン。長く快適に使うためには、こまめな注油が欠かせません。

刈刃やチェーンは錆びると異音の発生や破損してしまう場合もあります。時期中は朝の作業前、昼の休憩後などこまめに注油しましょう。また、シーズン終了後はグリースをエンジンオイルで溶いたものを刈刃やチェーン等の回動部に塗ることで、防錆効果や次回作業時の作動不良を防止します。

よくあるトラブル2:転輪注油不足による足回り不調

コンバインの足回りは、走行(移動)のためにもっとも重要な部品です。転輪へのグリスアップが不足すると内部に泥が侵入し、転輪の摩耗や亀裂が発生してしまいます。最悪の場合、転輪取付け部分が破損し、高額な修理費用が発生します。50時間ごと及びシーズン終了後に足回りへのグリスアップを行いましょう。

泥水が入り錆びてしまったローラー部分

ハイグレードの大型コンバインではあらかじめオイルが充填されたメンテナンスフリーのタイプもありますが、小型機の多くは使用者がグリースを充填する方式。作業のたびに忘れずに充填するようにしましょう。

よくあるトラブル3:清掃不足によるネズミ食害

籾の排出後もコンバイン内部に籾が残っており、ネズミが侵入して「配線をかじられた」、「巣をつくっていた」など、ネズミによる害もコンバインのよくあるトラブルの一つです。

シーズンを終えて機械を保管する際には、全体を洗車して大きな汚れを取り除きます。説明書をよく見て取り外せる部分をすべて外し、こぎ胴カバーの中やグレンタンクの中などあらゆる部分に残っている籾をエアコンプレッサーや業務用の掃除機など使って掃除しましょう。

メンテナンスや点検は、エンジンが停止した状態で、機械が十分に冷めてから行ってください。また、適切な服装を着用し、十分な広さの場所で換気に注意して安全に作業してください。

「きれい好き」が機械長持ちの第一歩

最後に、農業機械を長持ちさせている人の特徴を聞いてみました。
「機械好きな人はもちろんのこと、個人的な感想にはなりますが、常に機械をきれいにしている人はトラブルが少ないように感じます」と渡辺さん。一日の作業を終えたら洗車して注油するという癖をつけるだけでも、機械のトラブルを早期に発見でき、結果として長く快適に使い続けることにつながるようです。

【取材協力】
井関農機株式会社

【参考URL】
井関農機「機械のご使用上のポイント」(イージーセルフチェックBOOK掲載)

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