「野菜出荷も養鶏もやめた」それでも脱サラ有機農家が20年続くヒケツ

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「野菜出荷も養鶏もやめた」それでも脱サラ有機農家が20年続くヒケツ

「野菜出荷も養鶏もやめた」それでも脱サラ有機農家が20年続くヒケツ
最終更新日:2020年07月07日

「小規模で無農薬農業をする」と聞くとその販路は「多品目の野菜のインターネット通販」などをイメージする人も多いのではないでしょうか。
今回の主人公、とんび農園の鈴木茂孝(すずき・しげたか)さんも野菜の宅配から始めた一人。しかし、より持続可能な方法を求めて作物の選択と労力の集中を行った結果、全く違うスタイルの販路にたどり着きました。

情緒あふれる町で栽培するのは、ちょっと変わった作物

静岡県の松崎町は、伊豆半島のほぼ先端。人口約6000人の小さな町です。

町には明治から昭和初期にかけて用いられていた外壁工法で建てられた「なまこ壁」がそこここに見られ、歴史と情緒あふれる雰囲気が感じられます。

壁の白い網掛けのようなものが通称「なまこ壁」

ここに少し珍しい作物を作っている有機農家がいると聞き、やってきた筆者、ちだ。
その作物とは古代米とハーブの一種、レモングラス。

レモングラスの畑。見る人によっては雑草に見えるそう

「レトロななまこ壁の町で、なぜレモングラス? それってもうかるの?」

疑問を抱えたちだを迎えてくれたのは、20年以上前に松崎町に移住し有機農業を続けてきた鈴木茂孝さんです。


鈴木茂孝さん
宇都宮大学農学部卒業後、農林水産省に3年勤務。埼玉、長野で研修後に松崎町で新規就農し「とんび農園」を開園。当初より有機農法で米、野菜などを生産し養鶏も経験。
現在の主な作物は黒米・緑米などの「古代米」とレモングラス。

野菜も養鶏もやめた。そのワケは?

新規就農から4年目で経営安定

脱サラ、というか「脱国家公務員」をした鈴木さんですが、元々大学時代から農家を目指していたと言います。
就農の際に用意した自己資金は300万円
周囲の人から「そんな古い機械が動いているの久しぶりに見た」と言われるくらいの古い機械を使い、無農薬で稲作と野菜栽培を始めました。

就農して数年たったころのチラシ。現在は野菜セット、養鶏ともやっていない

就農当初、米20アール、野菜10アールの面積でスタートした鈴木さん。初年度の売り上げは「80万円弱だった」そうです。
2年目からは念願だった養鶏を100羽で始め、売り上げは150万円ほどまで上昇します。

販路は全て直販で、野菜セットなどを個人宅へ販売。着々と固定客をつかみ、経営は安定していきます。

4年目で売り上げは約500万円になりました。就農当初は夜に家庭教師のアルバイトをしていましたが、3年目からはそれもなくなりました。
だけど、言葉で言い表せないくらい忙しかったんです。

鈴木さん

忙しさの理由は「野菜」。だからやめた。

年間を通して野菜セットを販売するためにはさまざまな品種を生産しなければなりません。
無農薬なので除草や防虫の手間は慣行栽培より多くかかります。
売り上げは確保できるものの、このままでは体がもたないと感じた鈴木さんは野菜の生産は自家用のみとし、野菜セットの販売を中止しました。

ちだ

売り上げの柱がなくなるって大きな冒険だと思うんですけど……
そこで、養鶏を増やしました。また、卵だけではなくマヨネーズなどの加工品も販売するなどして野菜の売り上げ減少分をカバーしました。

鈴木さん

養鶏であれば、野菜ほどは手間がかからず、しかし毎日卵を産んでくれる。
卵は加工もしやすく単価を上げやすい。
時間がとられる野菜をスパッと諦め、稲作と養鶏に集中するという選択は、理屈ではわかりつつもなかなかできることではないと思います。

ですが、この養鶏も後にやめることになります。

2016年ごろには養鶏も終わりにしました。レモングラスの生産と販売に注力するためです。

鈴木さん

レモングラスとの出会い

鈴木さんは養鶏をやめる5年前の2011年、とんび農園で研修して卒業し松崎町で就農した農家さんなどと一緒に、伊豆松崎レモングラス工房を立ち上げました。
レモングラスを選んだ理由は

  • 松崎町の特産品を作りたい
  • 耕作放棄地の解消をしたい
  • 獣害の比較的少ない農産物を生産する
  • 加工が容易
  • 付加価値がつけやすい

とのこと。
松崎町の農業のこれからを思い、また、確実に売り上げを上げるために考えた結果選んだ作物でした。

お茶やアメ、石けんもある

レモングラスのお茶。爽やかな風味でおいしい!

養鶏もやりながら数年レモングラスの生産と加工品の開発や販売を行いましたが、なかなか黒字化するまでにはいたらなかったそうです。

都内からの引き合いなどもあり、レモングラスの可能性はまだまだあると感じていました。
養鶏をやっていると、数日家を空けるのが難しくなるので都内への営業や市場調査を簡単にすることはできませんでした。
それで養鶏をやめたんです。

鈴木さん

養鶏をやめてレモングラスの商品開発・営業に注力したところ、都内などへの販路も広がり数年で黒字化に成功したそう。

農産物に付加価値をつけて単価を上げる! そのカギはOEM

現在のとんび農園のもう一つの主力作物は、無農薬で生産した古代米。それを米のまま出荷するのではなく、せんべいやおかきにして販売しています。

とんび農園のせんべいやおかき

例えばこのせんべいは、白米の金額に換算すると1キロ約1000円になります。無農薬米を作るだけではなく、もう一歩進んでさらに単価を上げる工夫をするのが必要ですし、私もやっていて楽しいところですね。

鈴木さん

生産するだけではなく、加工して付加価値をつける。

確かによく聞く文言です。しかし、いざ自分で加工しようとなると「初期投資が多額」「保健所の許可を得るのが大変そう」とあきらめてしまう人が多いのではないでしょうか。
鈴木さんは当初から商品の製造を請け負う外部業者を活用することを選択しました。いわゆるOEM(受託生産)です。

受託生産をしてくれる会社さんは、インターネットで調べるとたくさん出てきますよ。

鈴木さん

ちだ

でも、少量生産だとロット(※)が合わなくて断られたりしませんか?

※ 生産する際の最小単位。

そこは交渉ですよ。私も「最小ロットは1トンから」って言われたこともあります。業者さんはたくさんいるので、条件が合うところを探すんです。

鈴木さん

こうしてレモングラスの石鹸やキャンディー、ハーブティー等もOEMで生産し、地元だけでなく都内の販路も広げていきました。

脱サラ新規就農、販路の開拓はどうやった?

就農当初、野菜や卵を行商で売っていたという鈴木さん。インターネットの発達とともにネット販売も始め、現在の商品別販路は以下のようになっているそうです。

黒米や緑米などの米、せんべい・おかきなどの米加工品:

  • 伊豆半島内の直売所10軒ほど
  • インターネット

レモングラス加工品:

  • 伊豆半島内の直売所10軒ほど
  • インターネット
  • 都内のカフェ、ハーブ専門店など

レモングラスの加工品は、伊豆半島内のみならず東京都の自由が丘にある有名なハーブ店「グリーンフラスコ」や表参道、吉祥寺などのカフェで取り扱われているそう。

ちだ

自分の商品が都内で取り扱われるって夢です! どうやったんですか?
営業に行きました。一軒ずつ回って、商品を試してもらって。
「無農薬栽培でオシャレなパッケージ」の商品は世にすでにあふれていますよね。インターネットなどで多くの人が多くの情報にアクセスできるようになった今こそ、「顔を出す」というアナログな営業活動が重要なんです。
商品の質を担保しつつ、実際に営業先に出向き消費者とのタッチポイントを増やすことで、売り上げを確保しているのです。

鈴木さん

パッケージデザインは地元のデザイナーさんへ発注した。ハデなパッケージが多いハーブ製品の中でシンプルなものは逆に映える、とのこと

イベントに参加して市場調査と販路拡大を

レモングラスの加工品の販路を拡大しようと考えたとき、都内などで開催されるオーガニックフェスタなどのイベントにも積極的に出店、参加したそうです。
そこではレモングラスの加工品販売のみならず、競合他社がどのようなものを作っているか、どんなものが売れているのかといった市場調査も兼ねていたとのこと。

出店した時にはバイヤーさんから引き合いをいただいたり、新しい販売先が見つかったりということもありました。
また、魅力的な商品があったら「どこの業者さんに頼んで作ってもらったか」などを出店者に聞いたりと、将来的な商品の幅を広げることにも役立つかなと感じています。

鈴木さん

脱サラ新規就農者へのアドバイス

家の前にある自家用の畑

脱サラして縁もゆかりもない土地で20年間有機農業を営んできた鈴木さんに、新規就農を目指す人へのアドバイスを聞いてみました。
すると「ここで研修して独立した2人にも言っていたことですが」と前置きして、3点教えてくれました。

  1. 顧客を意識して、単価を上げる努力をすること
  2. 栽培効率を意識すること
  3. 自分がやっていて楽しいことをイメージすること

顧客を意識して、単価を上げる努力をすること

例えば、ジャガイモを売るにしても、観光客の多い伊豆の下田で売るのであればフライドポテトに加工したほうがいいかもしれない。
野菜セットなら家族構成によって使われる野菜の種類が変わるかもしれない。

パッケージはどうするか、一包装あたりのグラム数はどうするかなど、工夫する余地はたくさんあると鈴木さんは言います。

作る前から加工業者さんに相談してもいいんです。「○○という野菜をこれくらいの量を作ったらいくらで△△に加工してくれるか」って。
それくらい最初から販売、単価を意識してもいいと思っています。

鈴木さん

栽培効率を意識すること

持続可能な農業をするための経営拡大をする際に「いかに単価を上げるか」という点を考慮してきた鈴木さん。

1人で100アールをやったけど、忙しくて手が回らなくて結果収穫できたのが70アールだったとします。
であれば、最初から70アールを100%の力でやって効率を上げて、余剰時間を商品開発や営業など他のことに使うべきだと思います。

鈴木さん

栽培を効率化し、余剰時間を単価上昇のために使うという考えは、今すでに農業をやっている人にも有益なアドバイスではないでしょうか。

自分がやっていて楽しいことをイメージすること

災害や獣害などもあり農業は決してラクではない、だからこそ自分がやっていて楽しいことをイメージすることが大事だと鈴木さんは言います。

私の場合は、農林水産省で働いている時から、自分の農業は始まっていると考えていました。
独立資金を貯めながら「こういう農業をしよう」「こんなものを作ったら売れるんじゃないか」と考えながらワクワクしていました。
今でも直売所やイベントなどに行って他の売れてそうな商品を見ると「自分のところでも作れるかな」とか「このパッケージいいな」と考えるのが楽しいんです。

鈴木さん

20年間、有機農業を続けてこられたカギはブレない心と柔軟な姿勢

無農薬栽培で、自分が納得できるものを作る。
付加価値をつけて販売し、十分な利益を確保する。

鈴木さんの芯、目標は20年、ブレることはありませんでした。

一方、持続可能な経営をするために野菜の生産をやめ、より可能性のあるレモングラスへ注力するために長年続けた養鶏を終えました。

目標を達成するために、柔軟な判断をしてきました。

その柔軟な姿勢は、積極的な加工品生産にも表れています。

こういった鈴木さんの考え方は、これから就農を目指す人にとっても大事なモノなのかもしれません。

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農業を始めて一度の営業もせずに、現在は栽培した野菜の95%をレストランへ直接販売しているタケイファーム代表、武井敏信(たけい・としのぶ)です。このシリーズでは売り上げを伸ばすためのちょっとした工夫をお伝えします。 栽培…

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