夏の太陽で完熟。肥沃な土壌が育む八王子ブランド
東京都の西部に位置する八王子市は都市と自然が共存し、市街地近郊にも農地が点在しています。その一画にパッションフルーツ畑もありました。太陽の下、濃緑の葉が茂る垣根仕立ての樹木には、ぽってりとした赤紫色の実。樹上で完熟させ自然落下したものだけを収穫します。
今からおよそ10年前、市内で花卉農家を営む石川農園の石川耕平さんは、パッションフルーツの産地である小笠原村(東京都)で果実が生い茂る様子を見て、グリーンカーテン用にパッションフルーツを栽培、販売しようと考えました。当初は思うように売れませんでしたが、自分の畑に植えた果実が小笠原産と変わらないおいしさだと気づいたのは大きな収穫でした。
その頃、自家用にパッションフルーツを栽培していたのが、浜中園の浜中俊夫さんです。現在、約10aのほ場で400株を栽培する市内最大の生産者ですが、当時の栽培規模は1aほど。八王子でおいしい果実が作れると確信した2人が、生産に取り組む仲間を募ると、若手農業後継者が集ってきました。その集まりを前身として、2013年にJA八王子パッションフルーツ生産組合(以下、生産組合)が設立されました。
「東京は土地が肥沃なのでおいしい実ができるんですよ。八王子は酪農家も多いので良質の堆肥がすぐに手に入ることも強みです」と、同生産組合長でもある石川さん。毎年、八王子育ちの樹木から挿し穂による苗木の生産も行っています。
「ハウス栽培にも挑戦しましたが、八王子の気候風土で育てるのがいいと感じました。太陽の光を直接受けて、実が大きく濃厚な味に仕上がります」と話す浜中さんは、露地栽培で大きな実を目指しています。花が咲いたら毎日手作業で受粉させ、太陽がよく当たるように剪定作業も欠かしません。
八王子パッションフルーツの収穫期は、梅雨明けの7月後半から10月頃まで。沖縄県産や鹿児島県産のシーズンが終わった夏真っ盛りに味わうことができます。冷やした果実を2つにカットして種ごとスプーンでかき混ぜて、ゼリー状の果肉から果汁が染み出したところをいただくのが、浜中さんのおすすめ。βカロテン、ビタミンC、B群、葉酸などの栄養素が豊富に含まれ、夏に食べたい天然果実です。
パッションフルーツを八王子の名産品に!
八王子パッションフルーツの総収穫量は年々増え、今年は4.8tを予定しています。現在、管内の生産組合には13人が所属しており、パッションフルーツを八王子の名産品にすることを目的に、農商工連携とPR活動を進めてきました。
「JA内に生産組合が組織され、パッションフルーツがほしい事業者と生産者の安心・安全の架け橋になることができました。農協としても八王子の農業を担っていく方々を支援したいです」と、JA八王子指導経済部地域振興課の黒澤慶一さんは話します。
「パッションフルーツは加工品としても将来性があります」と、石川さんも言葉を続けます。管内では2016年、八王子商工会議所(サイバーシルクロード八王子)がJA八王子と業務提携を締結し、生産者との連携を図りながらパッションフルーツの販売促進や商品開発に乗り出しています。
これまでに、果汁入り飲料、ジャム、ワイン、サイダーなどが発売され、飲食店向けの濃縮シロップを使ったサワーが市内の40店舗以上で提供されています。
浜中さんはホームページで果実の直販をしていますが、八王子の物産として市外へ発送することが多いといいます。これは、名産品化の兆し。「パッションフルーツを求めて八王子にたくさん人が来てくれるようになり、地域貢献できればうれしいです」と抱負を語ってくれました。
「八王子市民に地元の特産品は何かと問うと、『パッションフルーツ』と言ってもらえるようになってきました。他の地区にも生産者が広がっているので、東京土産をみんなで作れたらいいな」と思いを語る石川さん。八王子パッションフルーツの躍進はとどまるところを知りません。
八王子限定! 銘菓で楽しむトロピカル
地元の老舗和菓子店でも、八王子パッションフルーツが人気を博しています。JR八王子駅北口から徒歩6分、甲州街道に店を構える『どら焼き万叶/MANAKA』は、吟味した素材を使った種類豊富なフィリングに心が奪われます。2017年に青梅市から移転した際、八王子産の素材で商品を作ろうと探しているところに、同商工会議所を介してパッションフルーツの存在を知りました。
「八王子でパッションフルーツが獲れると知って驚きました。とても魅力的に思って試作をしてみると、インパクトのある元気な素材でした」と話すのは、代表取締役社長の山際由光さんです。
一昨年、夏季商品として「パッションフルーツ×マンゴー」を発売すると、市民の反応がよく、一番の人気商品になりました。八王子パッションフルーツのゼリーを角切りにしてマンゴークリームと合わせたフィリングは、パッションフルーツの色・香り・ジューシーさが引き立ちます。
山際さんは、以前にもパッションフルーツを使ったどら焼きを試作したことがありましたが、目指すイメージが実現できず商品化には至りませんでした。
「外国産と比較して八王子産は色の鮮やかさと香りが尖がりすぎないので、日本人の味覚に合うと思います。それに、八王子産でなければこれほど人気が出なかったでしょう」。
万叶のどら焼きは生菓子のため通販はなく、八王子でしか買えない特別感があります。
和菓子職人やパティシエの創作意欲をかきたてるパッションフルーツ。八王子でさまざまなスイーツになって愛されています。
八王子産のパッションフルーツは、市内の直販所や道の駅で販売されているほか、浜中園のホームページ(https://hamanakaen.com/)でも注文を承っているとのこと。
ぜひ一度、八王子パッションフルーツの高貴な香り、上品な甘さと酸味を試してみてはいかがでしょうか。
【取材協力】
石川農園
東京都八王子市高月町
浜中園
東京都八王子市犬目町
https://hamanakaen.com/
どら焼き万叶/MANAKA
東京都八王子市横山町9-13
TEL:042-643-5507
http://www.toyo-makana.com/
【問い合わせ】
八王子商工会議所(サイバーシルクロード八王子)事務局
東京都八王子市明神町2-27-6
たましんブルームセンター4F
TEL 042-639-1009
https://www.cyber-silkroad.jp/
八王子パッションフルーツ公式HP