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訪日観光客99.9%減 ツアー客受け入れの京都の茶苑、コロナ危機をどう乗り越える?

訪日観光客99.9%減 ツアー客受け入れの京都の茶苑、コロナ危機をどう乗り越える?

新型コロナウイルス流行の影響により、訪日観光客数は前年同月比で99.9%減(2020年5月、日本政府観光局調べ)と大きな影響が出ています。世界からのツアー客を年間1500人、また国際インターン生を迎えてきた京都・和束町の「おぶぶ茶苑」は、どのように今も世界とつながり続けているのでしょうか。

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“過疎の町”に国際色豊かなホットスポット

夏の京都・和束町。山の中腹で緑色のカーブを描く茶畑、麓に広がる稲穂のきらめき、山を埋め尽くす針葉樹の深い緑が美しく、思わず息を呑んだ。

「日本で最も美しい村」連合の一つである和束町は、鎌倉時代から続くお茶の名産地だ。太古の昔、琵琶湖が隆起して生まれた地域で、その前は海の底だった。その影響か土壌のマグネシウムが豊富で、旨味のあるお茶が育つ。高級茶・宇治茶の生産地としても名を馳(は)せる。人口は約3800人、いわゆる過疎地域だ。にも関わらず、日本の原風景のような光景に恋焦がれ、世界中から人が集まる茶農家がある。

京言葉で「お茶」を意味する「おぶぶ」茶苑。代表の喜多章浩(きた・あきひろ)さんは、大学時代にアルバイト先の茶農家で飲んだ荒茶(※)に魅了され、「この感動を世界に伝えたい」と、学校を中退して農家を志した。茶畑直送を掲げ、これまで70カ国以上に販売してきた。
(※)……二次加工される前のお茶。茶葉が刻まれていないことなどから本来の茶葉の味に近い。

畑は20カ所に点在し、高低差が激しい。最も標高の高い海抜540メートルの圃場から事務所横の畑までは、車で40分の距離がある。高齢の農家から耕作できなくなった畑を譲られ、徐々に総面積は増え、現在は3ヘクタールだ。

無農薬栽培の2カ所の畑で除草作業をするのは2頭のトカラヤギ「せんちゃ」と「ほうじちゃ」

インバウンド需要がほぼゼロに……

一人で生産管理を担う喜多さんを手助けするのは、おぶぶ独特の「国際インターン制度」によって来園した外国人インターン生だ。
年間で約20人が日本茶の知見を深めるために、栽培管理から製茶、海外向けの広報その他を無給で担う。新型コロナウイルス流行の影響で入国ができない人が多数おり、受け入れ人数は半減した。

「国際インターン」そのユニークな制度とは?
世界の若者が「お茶の武者修行」に 過疎の村と世界をつなぐインターン
世界の若者が「お茶の武者修行」に 過疎の村と世界をつなぐインターン
高級茶・宇治茶の産地、京都府和束町。人口は3800人の‟過疎の村“ですが、20年前に新規就農し茶農業を営む「おぶぶ茶苑」が独自に取り組む「国際インターン制度」により、世界各国から若者が集います。そのユニークな仕組みと人気の理由…

より色濃く影響が出ているのが、年間1500人が参加する茶畑見学「ティーツアー」だ。畑や製茶工場の見学とテイスティング、質疑応答をまじえた交流会に茶そばのランチという日本茶尽くしのツアーを、トップシーズンは週6日のペースで開催していた(全4時間、1人12,000円)。今年も予約でほぼ満席だったが、参加者の99%が海外からの観光客だったこともあり、3月以降のツアーはほとんどキャンセルになった。

ツアー企画などを担当するツーリズム部門の中嶋萌絵(なかしま・もえ)さんによると、同事業は例年なら、茶苑の全収益の約25パーセントを占めるという。
「コロナ流行後は、畑や製茶工場の手伝いを沢山したので、新しくできるようになったことが増えました」とあくまで明るく語るが「会いに来てもらうことも、行くこともできない」(中嶋さん)というジレンマは大きかった。

元祖・サブスク。ファンが支える有事の消費

そんな茶苑を支えたのは、ファンの存在だ。
おぶぶ茶苑では「1日50円から京都に茶畑が所有でき、地域社会に貢献もできる」という触れ込みで、「茶畑オーナー制度」と呼ぶ定期販売を行っている。

「サブクリプション」や「クラウドファンディング」という言葉がまだ一般的ではなかった2008年、副代表の松本靖治(まつもと・やすはる)さんがECサイトの運営担当者からアイディアをもらって実現したものだ。

「国境なき医師団」が掲げる「1日50円から救える命がある」という標語をヒントに、過疎地域の課題解決支援と質の高い農産物消費とを結びつけた。
月額1500円(送料込み)を払えば年4回、新茶を含む旬のお茶が季節のお便りのように手元へ届くシステム。オーナー限定のイベントに参加できるほか、タイミングが合えば代表と一緒に茶刈りや製茶を体験できるなど、茶苑の様子を肌で感じられる。開始10年で国内在住者490人・海外在住者230人と、オーナーは合計700人を超えた。
(※海外発送は月額2400円+送料)

畑横の芳名板には1年以上継続したオーナーの名前が並ぶ。

畑横の芳名板には1年以上継続したオーナーの名前が並ぶ。

茶摘みイベントに参加したオーナーの女性は「ペットボトルを毎日飲むよりも安いし、農家さんのためにお金を使えるのがいい」と話す。オーナには、一度茶苑を訪れてその味や茶苑の雰囲気のファンになった人が多いという。

このオーナー制度がコロナ禍のおぶぶを支える柱になった。在宅時間の増加の影響もあってか、海外からの申し込みを中心に新規オーナーが増え続けたという。

おぶぶ茶苑のホームページに掲載しているイベントの年間スケジュール

おぶぶ茶苑のホームページ掲載しているイベントの年間スケジュール

「オンラインツアー」でつながり続ける

現在、中嶋さんたちは「オンラインツアー」を企画中だ。茶畑や茶工場から動画中継し、参加者は世界のどこからでもお茶作りについて学べるというものだ。

「(外部の)抹茶工場を見学したいという要望があったのですが、対面で複数人を受け入れてもらうのは衛生上の理由で難しい。でもカメラマン一人なら可能。オンラインだからこそ実現できるコンテンツにしたいと思います」。

段階的な実践も経験済みだ。毎年5月初旬頃に開催する新茶を楽しむイベント「八十八夜会」を今年はオンライン開催とし、SNSのライブ配信機能を使って6時間の生配信をした。

筆者も参加したが茶摘みや茶工場見学など盛りだくさんの内容で、途中参加・退出は自由という気軽さ、入室するとすかさず運営する国際インターン生からメッセージが届いたり、参加者同士(海外からの参加がほとんど)でコメントし合ったりできる一体感が期待以上に楽しかった。何より、終始和気あいあいとした明るい雰囲気の茶苑に興味を持って、彼らが作る茶を飲んでみたいという気持ちが強くなった。

オンラインツアーは企画が固まり次第、今秋をめどに開始するという。個人農家がファンとつながることの大切さ、そして知恵という翼で距離は飛び超えられるということを、おぶぶ茶苑は証明しようとしている。

おぶぶ茶苑

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