これが農業参入のリアル! 必ずぶち当たる壁と欠かせない人たちとは

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これが農業参入のリアル! 必ずぶち当たる壁と欠かせない人たちとは

これが農業参入のリアル! 必ずぶち当たる壁と欠かせない人たちとは
最終更新日:2020年10月15日

近年、企業の農業参入は増加傾向にありますが、軌道に乗せるまでは簡単な道のりではありません。そんな農業参入を目指す企業を、農業のプロである地元の農家らがサポートする取り組みが行われています。今回は、横浜市で農業を営む田丸秀昭(たまる・ひであき)さんと、「食・農業界と異業種のつなぎ役」を意味する「フードカタリスト」として活動する中村圭佑(なかむら・けいすけ)さんに、企業の農業参入を支える取り組みについて、話を聞きました。

■プロフィール

話をする田丸さん

    田丸秀昭さん
    2006年に東京農業大学を卒業後、横浜市都筑区で就農。祖父の後を継ぎつつ、新規でイチゴの観光農園を始める。15アールのビニールハウスと30アールの畑でイチゴとサツマイモの収穫体験を行い、30アールの畑で果菜類や根菜類など15種類を栽培。今春からは横浜市の企業の農業参入の取り組みをサポートしている。

話をする中村さん

    中村圭佑さん
    福岡県久留米市生まれ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社で約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。一般企業向けに農業参入のサポートを行うなど、「食・農業界に新たな選択肢を、新たな選択肢に農業を!」を理念として活動している。

サポートチームができるまで

デコボコした土地をショベルカーがならしている様子

圃場(ほじょう)を重機で整備している様子(写真提供:中村圭佑)

現在二人がサポートしている横浜市の企業が農業参入を始めたのは2020年春のこと。当初は圃場も確保できていませんでしたが、田丸さんや中村さんたちのサポートのもと、5月からアスパラガスの栽培が始まっています。二人は企業の農業参入をどのように支えているのでしょうか。

──そもそも、なぜ田丸さんは農業を本業としながら、企業の農業参入を手伝うことになったのでしょうか?

田丸:農業参入をした企業は、私が住んでいる家の近所にあるので、普段からお付き合いがありました。社長のことも、仕事に向き合う真面目な姿勢も知っていたんです。

最初に社長から「農業をやろうと思っていて、農業や地域独自のルールを知っている現役農家の田丸くんに手伝ってほしい」と言われた時は驚きました。まず、「本気で進めるつもりなのか、検討次第で白紙に戻す方向なのか、どっちですか?」と聞きましたね。そうしたら、「本気で進めるつもりで動いている」と話してくれたので、「手伝えることがあればやります」と答えました。もしこうした相談を全く知らない企業からいただいたら、いくら大企業だったとしても断っていたかもしれません。

──その企業が地域に根差していて、普段から交流もあったから、前向きにサポートできたんですね。田丸さんは、農地も貸しているんですよね?

田丸:最初は栽培のサポートだけの予定だったんですけれど、農地がなかなか見つからなかったんです。社長が会社の近くに農地を借りたいという意向があり、空いている土地を探しては社長自ら熱意を伝えて交渉していました。借りられる手前までいっても、家族の反対や市の農政部の許可が下りずに破談になってしまうことが続き、いくら余っている土地があって、地域に根差した企業であっても、大きなハードルがあるんだなと感じましたね。そんな姿を目の当たりにして、自分の土地を貸そうと決めたんです。

実は、今貸している場所にはブドウの木が植えてあったのですが、苦労している様子を見ていたので、ブドウを植え替えて、栽培できる環境を整えました。

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真新しいビニールハウスが5棟建てられた

──中村さんは、どの段階からサポートに入ったんですか?

中村:私は、元銀行員の知人を通じて社長と知り合いました。農業参入をするうえで栽培する作物を検討している段階でした。
私は佐賀県の太良町(たらちょう)で「A-noker(ええのうかー)」が生産している「森のアスパラ」という高品質なアスパラガスを普及させる取り組みにも携わっているので、アスパラガスを栽培するのはどうだろうかと提案し、話を進めることになりました。

相談をいただいたのは2020年の3月末で、その時は農地も決まっていなかったのですが、進めていく中で企業様を含めた全員が「今年の夏前までには定植して、栽培をスタートさせたい!」という強い思いを抱いたので、それからはスピーディーに進んでいきましたね。

──二人はそれぞれ別々にその企業とつながって、サポートに入ったんですね。

中村:そうですね。社長を通じて、田丸さんと知り合いました。もし、最初から農業サポートチームを組んで社長にコンサルティング提案をしていたら、話は進んでいなかったかもしれません。社長の思いがあり、それによって田丸さんと出会い、信頼関係を築くことができたから、今のような体制ができたのだと思います。

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農業の「肌感覚」を持つ人がいることの意義

ビニールハウスの中で田丸さんと中村さんが話している

アスパラガスの生育状態について話し合う二人

──田丸さんは、具体的にどういったサポートをしているんですか?

田丸:農地やトラクターを貸したり、育苗の管理場所を提供したりしています。あとは、企業の中に農業担当の人がいるので、直接栽培方法や水やりのタイミング、温度管理などについて、アドバイスをしていますね。圃場は、自宅からも自分の農地からも近いので、毎日様子を見てハウスの開け閉めをしたり、何か問題に気づいた時は対処法も伝えたりしています。

中村:田丸さんのような農業のプロが、近くで見守っていてくれることはとても心強いですよね。異業種からの農業参入の場合は、田丸さんのようなプロの手がないと、かなり厳しいと思います。農業特有の「肌感覚」ってあると思うのですが、農作物を栽培してきちんと出荷できる状態まで持っていくためには、そうした「肌感覚」のある人が身近にいてくれることが重要だと思います。

──たしかに、農家さんにしかわからない「肌感覚」ってあるのでしょうね。それを初心者に一から教えるのは、骨が折れませんか?

田丸:「水をあげて」と一口に言っても、どれだけ蛇口をひねればいいのか、一日に何回水をあげればいいのか、一度にどれくらいの量をあげるのか、農業をしたことがない人にとっては難しいと思います。たしかに、一から全てを説明するのは大変な時もあります。でも、相手が真剣にやろうとしているから、こちらはそれに応えるだけだと思って、サポートしていますね。
同時に大事だと実感したのは、企業の栽培担当者がすぐに畑に出られる距離にいること。
実際、企業と農地は車で5分程度です。私も栽培担当者も、お互いの動きが分かります。たまにすれ違って、「いま水をあげておいたよ!」なんて声をかけることも。これが車で20分くらいの距離まで離れてしまうと、栽培担当者は畑に出るのがおっくうになってしまい、私だけが熱心に畑を見ることになっていたでしょう。
この会社の場合、すぐに畑に出られることで栽培担当者は日に日にアスパラへの愛着が強くなり、私が教える内容を吸収するスピードも早いですね。

6人の男女が集まってビニールハウスの中で作業をしている

企業から社員も参加して苗の植え替え作業に取り組んだ(写真提供:中村圭佑)

──栽培をそばで教えられる人がいてくれて、さらに企業側もきちんと吸収していく姿勢が大切なんですね。中村さんは、どのようにサポートしているんですか?

中村:今回の事業全体の策定をお手伝いしています。さらに、先ほどお話ししたアスパラガスの栽培については、知識も経験もあるので、栽培のお手伝いもしています。今回植えた苗は、佐賀県からアスパラガスの種を送ってもらい、それを育てたものです。

ゆくゆくは「森のアスパラ」の姉妹ブランドとして、横浜でとれたアスパラガスを広めていければと考えています。その時は販路を見つけるお手伝いもしたいと思っています。

──皆さんのチームでは、日々の連絡をどうやってとっているんですか?

中村:LINEのグループチャットでやりとりをしています。グループには、田丸さんと企業の栽培担当者さん、社長、副社長、そしてA-nokerの安東社長と私が入っていて、「こんな状態なんですけど、大丈夫ですか?」などと、写真付きで作物の様子が送られてきたりします。そこで、どうやって対処すればいいかなど、スピーディーにやりとりができています。

こないだは、「花が咲きました!」というメッセージが写真付きで送られてきて、ホッコリした気持ちになりましたよね(笑)。農業をする中での幸せな気持ちをチームで共有できるのもうれしいですね。

サポートしたいと思わせる企業とは?

笑顔で話す田丸さんと中村さん

──取り組みをサポートしていく中で、企業の農業参入がうまくいく条件は何だと感じていますか?

田丸:地域の協力農家が確保できるかどうかというのは、かなり重要なのではないかと感じますね。栽培のサポートももちろん重要ですが、新規参入の場合は、農地を借りるハードルが高いので、そこをつないでくれる農家の存在は必須だと思います。あとは、農業参入したい思いがしっかりしていることですかね。

中村:そこは大切ですよね。

──ただ、農家さんって本当に忙しいから、自分の経営に加えてサポートもするのはかなり大変ですよね。どのような企業だったら、サポートしたい、農地を貸したいと思えるのでしょうか。

田丸:たしかに、自分のところの経営で手一杯という農家は多いです。企業側の思いがあって、さらにその企業のことや社長のことも知っていて、信頼できると思えたら手伝おうという気になりますね。全然知らない相手だったらやっぱり不安ですし、大事な農地を貸すとなったら、本当に信頼できる相手じゃないと難しいですよね。

何回も会ってお互いを知っていって、相手の思いや誠意がわかれば、手伝おうという気になるかもしれません。人と人との関係ですから、時間はかかると思います。

中村:たしかに時間はかかりますよね。私も、別の企業が農業参入するプロジェクトで、農家さんに農地を貸してもらうことになり、企業の担当者と一緒に面談にいきました。そこでは、自分の生い立ちから実績、どんな思いでやっているか、全てを農家さんに話しました。それからようやく信頼してもらえて、農地を貸してもらえることになったんです。簡単ではないと感じます。

──農業参入をサポートすることは、農家さんにとってもメリットがあると思いますか?

田丸:企業の農業参入は新しい事業だから、楽しいしやりがいはあります。自分がこれまでやったことのないことにチャレンジできるので、農家にとっても充実感を覚えられると思います。

ビニールハウスの中にアスパラガスの苗が植えられている

ビニールハウスの中に植えられたアスパラガスの苗

──企業の農業参入をサポートする中で、今後の展望や、こうなっていってほしいと思うことはありますか?

田丸:私は特にないですね。というのも、「企業がどうしたいか」が大きいからです。あくまで、主体になるのは企業なので、社長が農業でどんなことをしたいのか、その思いが大切だと思います。儲けることも大事ですが、それだけじゃなく、農業をして何を実現したいかという理念やビジョンがあると、より納得できます。私はあくまでその夢の実現をサポートするのみですね。

中村:私も同じです。「企業がどうしたいか」に寄り添いながら、サポートしていきたいと思っています。例えば、今回の企業は「地域のために何かしたい」という思いが強いので、社長と相談して5棟のビニールハウスのうち、何棟かは農業体験できるスペースにしたいと思っているんです。

そして、先ほども話しましたが、アスパラガスはブランド化して、地域の名産品にできたらいいなと思っています。企業が始めたことが、地域全体に広まっていって、地域全体で盛り上げていけたらいいなと考えています。

_笑顔でこちらを見る田丸さんと中村さん

企業の農業参入を支える農業のプロたち。それぞれ立場は違っていても、同じ思いで協力しながら歩みを進めています。初めてのアスパラガスが収穫できるのは、早くて来年の夏だそう。初めての収穫へ向けて、チームでの協力体制が続きます。


【取材協力】FOOD BOX株式会社

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