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「シンプル」を極める乳牛監視システム─農業・IT先進国のポーランドから世界に展開する「e-stado」

「シンプル」を極める乳牛監視システム─農業・IT先進国のポーランドから世界に展開する「e-stado」

ポーランドと聞くとどんなイメージがありますか? EU加盟国の中ではフランス、スペインに次ぐ農地規模の農業大国でありながら、近年では優れたIT人材を輩出しています。欧米大企業の拠点が続々と増えるポーランドで注目のスマート農業関連企業情報を、マイナビ・ワルシャワ事務所からお届けします。

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高度IT人材を輩出するポーランド 注目のアグリテック企業は?

ヨーロッパで「平原の国」という意味の名を持つ国をご存じでしょうか。中欧エリアのEU加盟国の中で最大面積(31万平方キロメートル)と最大人口(約3800万人)を誇る国、ポーランドです。国土の南側、スロバキアとの国境付近に山脈がある以外は、北のバルト海まで広大な平地が続いていて、飛行機で空から眺めると、幾何学模様の畑、緑の森、青い川や沼が、どこまでも続いています。

その国土の半分近くは農地で、農業・酪農業・畜産業が古くから盛んなのですが、一方で社会主義時代から理系教育に力を入れてきた国の教育方針は今も続き、最近では多くの高度IT人材を輩出。その優秀さに目をつける欧米の巨大企業が、ポーランドの若いエンジニアを囲い込むためにポーランド国内に次々と拠点を開設しています。
この国で「農業」と「IT」という得意分野を結びつける動きが生まれるのは不思議ではありませんが、今回、酪農業をシンプルなIoTで効率化させることを目指す「e-stado(イー・スタド)」社についてご紹介します。

同社が入るグディニャ科学技術パークの建物

同社が入るグディニャ科学技術パークの建物

同社はポーランド北部、バルト海に面した港湾都市グディニャに拠点を置く設立4年目のスタートアップ企業。「stado」とはポーランド語で「群れ」を意味します。同社が3年間の開発テスト期間を経て昨年リリースした、社名と同名の「e-stado」は、牛の行動や健康状態のデータをクラウド経由で集約し、酪農家がスマホで把握・管理できるシステム。その特徴は「きわめてシンプル」という言葉に尽きます。

牛一頭一頭に付けるセンサーは約5センチ、重さはわずか28グラムで、バッテリーは安全面を考慮し取り外せない内蔵型ですが、6年以上の寿命を保ちます。これを牛の首ではなく耳に付けることで、牛の行動をより正確に、そして即時に計測できるそうです。

牛一頭一頭に付けるセンサーは約5センチ、重さはわずか28グラムで、バッテリーは安全面を考慮し取り外せない内蔵型ですが、6年以上の寿命を保ちます。これを牛の首ではなく耳に付けることで、牛の行動をより正確に、そして即時に計測できるそうです。

センサーからの情報を集約しクラウドに送信する小型トランスミッター

センサーからの情報を集約しクラウドに送信する小型トランスミッター

牛の行動や健康状態は、特別なシグナルパターンとなって、箱型のトランスミッターに集約されます。この小型トランスミッターは12Vの電源コード一本をつなげるだけでよく、LANケーブルなど他の配線は必要ありません。このトランスミッターがクラウド上に情報を送り、酪農家はスマホの専用アプリでその情報を把握、一頭一頭を24時間365日、リアルタイムで管理できます。例えば牛が餌を食べている時間や、搾乳のタイミングなどは、平均との差異をグラフで視覚的に分析することも可能です。また、蓄積されたデータにより病気の疑いを早期に察知することも可能です。

オプションの出産予測センサー。雌牛の尾に取り付け、出産想定時間の3時間前にスマホに通知が届く

オプションの出産予測センサー。雌牛の尾に取り付け、出産想定時間の3時間前にスマホに通知が届く

希望する酪農家にはオプションで、出産を予測できる別のセンサーも用意されています。このセンサーは出産が予測される2週間前に雌牛の尾に取り付け、出産の3時間前に通知が届くようになっています。また同様にオプションで、牛舎の中にぶら下げるロケットのような形のセンサーもあり、牛舎内の気温と湿度を常時計測しスマホで把握できるようになっています。

創業者はハードウェアのエンジニア

クピスさん(左)とヴィシニエフスキさん(右)

クピスさん(左)とヴィシニエフスキさん(右)

このシステムを開発した同社の創業者、クピスさんとヴィシニエフスキさんの二人は、もともと通信ハードウェアのITエンジニア。自分たちが持つ技術を、新たな分野に生かしたいと考えたときに、欧州で身近な、しかしIT導入は進んでいない酪農業に着目したそうです。酪農専門の大学教授の監修のもと、実地テストを繰り返しながら3年間も開発につぎ込んだのは、相手が機械ではなく生き物だから。

そして昨年、製品としてリリースし、今日までの1年弱で、世界10カ国、20の酪農家が導入しています。20件というのは少ないように見えますが、EU諸国では1酪農家が平均で50~100頭の乳牛を飼育している一方、ロシアやベラルーシなどの旧ソ連諸国では平均1000頭とのことなので、規模はかなりのものです。また欧州以外では、カナダやメキシコ、さらにはアラブ諸国のオマーンでも導入されたそうです。アプリは現在、ポーランド語、英語、ドイツ語、ロシア語、ハンガリー語、スペイン語に対応しています。

クラウドで得られ牛一頭一頭の情報は、スマホの専用アプリで数値とグラフにより表示され、24時間いつでも管理可能

クラウドで得られ牛一頭一頭の情報は、スマホの専用アプリで数値とグラフにより表示され、24時間いつでも管理可能


シンプルなIoTを追求、酪農家のストレスを軽減

今年に入り世界的な 新型コロナウイルスの流行は同社にも影響を及ぼしていますが、この間も世界各地からの問い合わせは続いているそうです。クピスさんとヴィシニエフスキさんは、新たな展開先として、酪農業が大規模かつ肉牛での導入も期待できる南米のブラジルとアルゼンチンに特に着目しているとのことです。もちろん日本を含むアジア地域にも大きな関心を寄せています。

「乳牛監視システム分野での競合は世界でもごく少数ですが、その中でも私たちのシステムは“シンプルさ”を徹底的に追求している点で大きな強みを持っています。負担軽減のためにIoTを導入しても、そのシステムや機器が複雑でしかも高価であれば、結局は新たな負担が増えるだけです。私たちは、世界中の酪農家の毎日のストレスを軽減できるよう、今後も開発と改良を続けていきます」

シンプルなIoTを追求する姿勢は、創業者がハードウェアエンジニア出身だからこそ。可能な限りの簡便さと安全性を提供することで、世界中の酪農家が規模や財務状況に関係なく手軽に最新技術を導入して、牛の健康を守りながら効率経営を実現できることを目指す「e-stado」の今後の戦略に、引き続き注目していきたいです。

執筆:マイナビ・ワルシャワ事務所長 島森 浩一郎
「e-stado」公式サイト(英語)

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