土日に農業で年間150万円の稼ぎを目標に
二つのアルプスに挟まれた飯島町は年間通して多くの人がキャンプに訪れる観光地。町は、移住の希望者にトレーラーハウスを貸し出したり、婚活イベントを開いたりしている。
こうした素地がある中で今回構想しているアグリワーケーションでは、企業と契約を結び、社員に一時的に移住してもらう。町民が事業の運営主体となる予定。社員向けの講座として稲作コースと野菜作コースのほか、地域ボランティアコースを用意。前者では地域の農家から指導を受けながら、それぞれ稲と野菜を育ててもらう。後者では農地や景観の維持に欠かせない草刈りや溝さらいなどに励んでもらう。2020年の一般会計補正予算で宿泊用のトレーラーハウスを用意することもこのほど決まった。
重視するのは社員に農業で稼いでもらうこと。「休暇といいながら、土日は農業をして、できれば年間150万円くらい稼いでもらいたいと思ってます」と紫芝さん。育てた稲や野菜の扱いは自由。所属する企業の社員食堂の食材にしてもいいし、町の農産物直売所で販売してもいい。地域ボランティアには時間給を支払うつもりだ。
兼業農家が永続的に送り込まれる仕組み
紫芝さんは「企業と地域がそれぞれウィンウィンとなる関係を構築し、企業の社員には長期にわたって継続的に来てもらえる環境をつくりたい」と語る。この言葉の背景には農業従事者が不足していることへの懸念がある。町では15年ほど前から、地区の住民が農地を持ち寄って、その耕作を一手に引き受ける集落営農組織が自発的かつ先駆的に誕生してきた。その始まりとなったのが田切地区の田切農産だ。ただ、年月の経過とともに請け負う面積が広がり、集落営農組織の人員だけでは農地の維持や管理が難しくなってきている。だから新たな兼業農家を生み出すことが地域と農業の振興にとって重要になっていることは、前編で述べた。
農業の成長産業化にとって兼業農家は悪者扱いされてきた。彼らの多くは趣味的に農業をしており、なかなか農地を手放さない。結果、専業農家に農地が集まらず、農業経営の合理化を阻んできたというわけだ。確かにそうした側面は否定できない。ただ、一方で兼業農家がいたからこそ、農地の維持や管理ができるのも事実だ。
だから飯島町は集落営農組織と兼業農家が共存や共栄できる環境をつくろうとしている。ただ、人口減少時代にあって、町内だけで兼業農家を増やすことには限界がある。月日とともに減っていくのは目にみえている。そこで「アグリワーケーション」では、遠隔地に仕事を持つ人に移住してもらい、兼業農家に育っていってもらう。企業との付き合いが続く間は、永続的に兼業農家が送り込まれる仕組みである。コロナ禍を逆手にとった一策の行方に注目したい。