祖父は「プランター」をつくった人!?
プランティオは、フードロスや食のリテラシーの低下などの「あらゆる食の問題の解決」を目指し、IoTやAIなどのテクノロジーを下支えとしたみんなで楽しく野菜を育てる文化「アグリテインメント」を創ることをミッションとしています。
「本来は自分が手間ひまかけて食物を作るところを、近代社会では多くの人がお金を支払うことで農家さんに任せています。これにより、高度経済成長期に農と食のリテラシーをごっそり失いました。だからそれを取り戻そう、というのが私たちのビジョンです」と話すのは、CEOの芹澤孝悦さんです。
空室や空き家を活用し、天候に左右されない安定した栽培を可能にする屋内型のIoTコミュニティファームや、発電所から捨てられる炭などの廃材と微生物を入れたカプセルを投入する事で土を作る技術の開発など、さまざまなサービスを提供しています。
実は芹澤さん、祖父がプランターを発明した芹澤次郎(せりざわ・じろう)さんなのです。
「祖父がつくったプランターを新しく生まれ変わらせようと思い、プランターにテクノロジーを追加しました。最初はセンサーとプランターが一体型になっている製品を作りました。これだけで私は祖父が発明したプランターをアップデートしたものだと勝手に思っていたのです。しかし、祖父の発明の本質は家庭でもアグリカルチャーに触れられる機会をつくったことで、高性能なプランターをつくったことではないんです。
ちなみに当時、エンタメ系の会社で働いた経験もあったため、野菜栽培と萌えキャラ育成を連動させるゲームという案を出したら、速攻で共同創業者の孫泰蔵(そん・たいぞう)さんに怒られましたね。
誰もが農に触れる環境をつくるといった、消費者の農に対してのアプローチは、僕の祖父以来誰もしていません。これまで小手先のアップデートだけで、農と人々の関わり方を総合的に変える抜本的なアップデートはされてこなかった。本質に気付かされてから、一旦これまでのプロジェクトは全て白紙に。孫さんと数年かけて議論し、プロジェクトの方向性を決めました」
そして、プランティオはどこにでもアグリカルチャーに触れられる機会を作る、どの場所・どのプランターにも付けることが可能なセンサーを開発しました。
このセンサーの名前は、「grow CONNECT」。センサーで得たデータと専用アプリ「grow GO(グロウ ゴー)」を連携させることで栽培をより楽しくし、更には農を通したコミュニケーションを実現させました。
それでは、「grow CONNECT」について具体的なお話を伺いましょう。
「grow CONNECT」とは何ができるセンサー?
プランティオが開発したセンサー「grow CONNECT」は、6つのセンサーが作物の状態をチェックし、収穫までタイムリーに何をすべきかをお知らせします。
6つのセンサーは、土壌温度計・土壌湿度計・日照センサー・外気温センサー・湿度センサー・195°広角カメラです。センサーをプランターや庭に挿すことで、野菜が育っている“その場所”の気温や湿度などを計測し、専用アプリ「grow GO」から適切であるのかなどの通知がきます。また、専門家に相談できる「栽培クリニック」でアドバイスをもらえます。
インターネットで今の天気や外気温は調べられますが、植物が感じている温度とは違います。タイムリーな栽培のためには、植物が育つ場所の環境を把握することがきわめて重要です。センサーで取得した6つの天候データを位置情報と一緒に保管し、その推移から推測して、あと何日で発芽しますということを逆算しアプリ「grow GO」から通知します。例えば、北海道のある場所だと発芽に必要な積算温度がなかなか積み上がらないので発芽までに7日間かかりますが、鹿児島のある場所だと積算温度が早く上がるので4日で発芽するという予測を割り出します。
野菜栽培を続けられない多くの理由は、うまくいかないというもの。ある市場調査においても野菜栽培を途中でやめた人のうち、6割の人がうまくいかないという理由でやめてしまっているという結果がでました。
では、そもそもなぜ野菜栽培がうまくいかないのでしょうか。
「タイムリーに育てること」が非常に難しいからだと芹澤さんは言います。
つまり、「今、水が必要なんだ」、「今、日を遮ってあげないといけない」など、処置・お手入れの適切なタイミングが分かれば、野菜栽培の成功率は上がります。
「作物が病気になったときに対処法を調べても、手遅れな場合がほとんどです。最適なタイミングで対応することが大事だから、農家さんはずっと作物を見ている訳です。作物の状態を観察して状態を見極めるという作業を、私たちはIoT化しました」(芹澤さん)
吸い上げたデータを分析して水やりや間引きのタイミングを通知するほか、超広角カメラからの映像で遠隔地からもリアルタイムの作物の状態をチェックできます。更には、育てている過程で心配になる人にうれしい、他の人の進捗(しんちょく)と比べられる機能も。
アプリ「grow GO」内で作物の名前を検索すると、同じ品種を育てている人の野菜の映像を見ることができる他、栽培仲間に掲示板形式で相談できるコミュニティがあるので安心です。親しい人とコミュニティを作り、野菜栽培のゴールを設定して、例えばBBQやカレー作りなどに持ち寄るために、みんなで野菜を育てるという楽しみ方もできます。
最近耳にすることが増えた「Farm to Table(ファーム・トゥ・テーブル)」は、生産者(農場)から消費者(食卓)へ安全で新鮮な食材を提供するという食に対する考え方ですが、センサーとアプリを通じて両者の距離を更に縮めることができるのです。家のベランダと家庭の食卓をつなぐFarm to Tableや、畑と飲食店間のFarm to TableなどさまざまなFarm to Tableを支えます。
「画像やデータを共有しながら栽培経験者に相談したり、他の人の野菜の現状を見て比べるなど、インターネットのコミュニティだからこそ実現します。データが蓄積されるにつれてどんどんアドバイスの確実性が高まる。失敗する人も減りますよね」(芹澤さん)
現時点で160種類の作目に対応し、1つのセンサーで約5平方メートルをセンシングすることが可能です。更には、子機を追加販売する予定。畑が広い場合には作物ごとに子機を置くことで、子機のデータを親機がまとめて吸い上げて、クラウド上に入れる仕組みをとり、対応していきます。
「grow CONNECT」を活用して目指すのは
これまで家庭菜園のIoTデータを吸い上げるものはなかったとのことですが、気候や位置、画像データは既存の農業にも活用できると芹澤さんは話します。
「私の友達で2代目3代目の優秀な農家さんも、作物にずーっと張り付いている。でも、その時間で自分の作物のPRをしたり、さまざまな場所に足を運んだり、本来もっと活躍できる農家さんはたくさんいます。そんな方々にもご利用いただければ、適時にいつ何をやれば良いのかをスマホで見れば分かるという状態になるので、時間が生まれます」
「実は私たちは、既に家庭菜園に興味のある方だけを対象にしているわけではありません。むしろ、家庭菜園を今していない人や、全く興味の無かった人たちを動かしたいですね」と芹澤さん。
現在、フードロスなどの食に関する社会課題は膨大にあり、解決と持続可能な社会の実現のためには、今よりも多くの人々が関心を持つことが重要になります。
「日本でも世界でもフードロスが起こり、食材の3分の1が捨てられています。しかし一方で、約15億人が飢餓に苦しんでいる。この捨てられている食材を飢えに苦しんでいる人たちに届ければいいわけですが、それは難しい。その根本の理由は、生産している場所と消費している場所が離れているからです。
突き詰めていくと、社会や環境、そして全ての人に良いのは、地産地消だと思うのです。テクノロジーを通じてそれぞれが農に触れる自律分散型の地産地消を確立したいと考えています」
芹澤さんはこれからも「grow CONNECT」や「grow GO」などによってより多くのFarm to Tableを生み出し、農と食をつなげていきます。
プランティオ株式会社
「grow」ブランドについて
「grow CONNECT」29800円(税別)
2021年2月頃出荷予定
公式オンラインストアで予約を受付中
都心のビルの屋上などに展開するシェア型IoTコミュニティファーム「grow FIELD」:フォロー数約250人(2020年10月時点)
連携アプリ「grow GO」:ダウンロード数約1500(2020年10月時点)
※サービスの料金などはホームページで随時発表予定です