「エコなタンパク源」昆虫食のいま 食用コオロギ生産工場も取材

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「エコなタンパク源」昆虫食のいま 食用コオロギ生産工場も取材

「エコなタンパク源」昆虫食のいま 食用コオロギ生産工場も取材
最終更新日:2020年11月02日

にわかに耳にすることが増えた「昆虫食」。でも、食べたことがある人はまだまだ少ないのではないでしょうか?海外ではスーパーマーケットで売っているほどメジャー食材なのですが、どうしていま昆虫食なのでしょうか。そのメリットや生産現場を取材しました。

イラストで見る「昆虫食」のメリットとは

国連食糧農業機関(FAO)の報告によると、地球の人口増加により、2050年には肉の全体消費量が現在の1.8倍に増加する見込みだといいます。この世界的なタンパク質不足を救う存在として、近年注目を浴びているのがコオロギなどの食用昆虫です。

肉を生産するには穀物など多くの飼料が必要です。また、畜産業も工業などほかの産業と同じく、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスを排出します。主には飼料の生産や輸送、また家畜の糞尿処理の際に発生するものです。
家畜と比べると食用昆虫は飼料効率や温室効果ガス排出量の少なさで優れているようです。そのメリットをイラストで見てみましょう。

栄養素も豊富に含み、環境にやさしい昆虫食。日本ではどのように生産されているのでしょうか? 生産現場に取材をさせてもらいました。
【※ここからはコオロギの写真がたくさん出てくるので、虫が苦手な方は注意して読んでくださいね。】

生産現場へ潜入! キーマンは2年目女性社員

お邪魔したのは年間1トンの食用コオロギを生産する太陽グリーンエナジー株式会社(埼玉県嵐山町、以下太陽GE)。

太陽グリーンエナジーの井上さん
敷地内に並ぶ飼育棟の前で、明るい笑顔で迎えてくれたのは同社の井上寛菜(いのうえ・ひろな)さん。入社2年目にして、昆虫生産のマネジメントや研究、企画・販売など、昆虫養殖に関する事業の全てを担うキーパーソンです。

井上さんは幼い頃から無類の爬虫類好きで、大学院では爬虫類の研究に没頭していたそうです。自宅でもヒョウモントカゲモドキ(レオパードゲッコー)を飼っており、「爬虫類のエサはコオロギだし、平気でしょうと思われて」(井上さん)、2018年から開始したコオロギ養殖の担当部署へ配属されました。

「実は、大丈夫ではなかったんですけど……(笑)。甲殻類アレルギーを持っているので、(甲殻類に近い)コオロギを食べられないんです。でも新規事業ということと、無限大の未来を持つ昆虫食の魅力にやられて、今では毎日楽しく働いています」。

コオロギの飼育棟内部

ハウスの入り口をくぐると、100リットルの衣装ケース150個がずらり。「ふ化したての頃は約5000匹、最終的には約1000匹」(井上さん)が‟同居”しています。エサは養殖魚用飼料とのこと。コオロギの種類は、フタホシコオロギとヨーロッパイエコオロギの2つ。いずれも冬眠せず、ふ化から約30日で成虫になります。その間の重量の増え方は、なんと約1000倍。ハウス内の環境は制御され、昆虫生産で重要な温度・湿度の管理は自動で行われています。

成虫になったコオロギは、生きたままや粉末に加工されて国内へ出荷されます。粉末に加工する場合は、敷地内の工場で熱乾燥をします。このときに水分を抜いてしっかりと殺菌処理も行います。乾燥の仕方によって味が変わりやすく、真空状態に置いて水分を昇華させる「フリーズドライ製法」(カップラーメンの麺などで使われる技術だそう)と比べて、熱乾燥は味が濃くなるといいます。

乾燥したコオロギは、「エビやカニに近い風味」ということ。「乾燥粉末の約70%をタンパク質が占めます。タンパク質の組成比はエサによって変わるのですが、うちのコオロギは他社のものと比べて脂質が少ないのが特徴です」と井上さんが教えてくれました。

写真撮影をお願いすると、「どの大きさにしますか?虫が苦手な場合は赤ちゃんの方がいいかもしれません」と、配慮してくれた井上さんと同社の皆さん。せっかくなので、大きめの成虫をお願いしました。

コオロギの入ったケースを出す井上さん

井上さんがケース内の紙製卵パックを持ち上げると、体長2センチほどのフタホシコオロギの成虫が現れました。コオロギのなかでも体が大きく食用に向くとされるだけに、一瞬たじろぎましたが、井上さんが側にいてくれるという安心感と虫たちが大人しくしてくれたお陰で、接近してシャッターを切れました。


フタホシコオロギ

翅に二つの大きな白い斑点があることがら名付けられた、フタホシコオロギ


フタホシコオロギの飼育箱

フタホシコオロギの飼育箱。急に死んでしまったり、共食いをしたりしてしまうこともあり、そのたびに原因と対策を追究し、改善に繋げています。


体の色が薄いヨーロッパイエコオロギ

体の色が薄いヨーロッパイエコオロギ

飼育方法を試行錯誤 タイへ視察も

今でこそ年間1トンを出荷していますが、立ち上げ時の生産量は月間2キロ程度だったといいます。日本国内では事業の前例がほぼ無く、またコオロギに関する研究論文が少ないなか、「どうすればもっと効率よく作れるのかを悩みながら、手探りで飼育環境の改善を重ねています」という井上さん。

食用昆虫生産が活発な東南アジア諸国の生産ファームなど、国内外に足を運んで情報収集を行っています。たとえば、卵パックをすみかにしたのは、タイのファームの視察で得たアイディア。飼育方法に正解はないので、素材を段ボールに変えてみるなど小さな改善を繰り返しています。井上さんが今後挑戦したいことは、エサを工夫して味に個性を出すこと。コオロギの風味は与えるエサによっても大幅に変わります。

インタビューを受ける井上さん

「当グループのもう一つの生産拠点が福島県二本松市にあるのですが、そこでは地元の特産が日本酒なので、酒蔵から出た酒粕を与えています。また、かつて養蚕業が盛んだったことにちなんで、タンパク質が豊富なクワの葉をあげたりもしました。
嵐山拠点でも、モヤシやキャベツなど水分量の多い野菜を与えたところ、コオロギの味や栄養価の変化が確認できました。色々なものを試しながら、将来的には嵐山拠点ならではの『ご当地感』がある飼料を与えて生産したいです」と語ります。

Instagramの公式アカウントでは、食用コオロギの魅力や生産現場での1コマなどを掲載しています。

ちなみに、合同会社TAKEOの商品「二本松こおろぎ」は、同社のコオロギを福島名物ソースカツ丼にちなんだ味付けにしたもの。お土産に頂戴したので、学生時代から昆虫食を食べていたという新入社員のN君にレビューをもらいました。「甘辛く、サクサクしていておいしいです!エビ系のスナックみたいで、おやつとして良さそう。見た目が無理な人も、目をつぶって食べれば絶対美味しいって言うはずです!」と太鼓判を押していました。

海外ではスーパーで買えるメジャー食材

ソルダーレジスト(※)の生産で世界シェア(占有率)トップクラスの太陽ホールディングスの子会社である同社。
(※)基板などに使用される緑色の絶縁材

昆虫食事業に乗り出したきっかけは、社員からの提案だったそうです。提案した社員は東京大学で分子生物学を専攻し、外資系大手化学メーカーで殺虫剤の研究を手掛けた経験を持っていました。承認が降りてからわずか3日後にコオロギを飼い始める、というスピード感で幕を開けました。

もちろん、国内市場の伸びしろの大きさも重要な参入理由です。「特にフタホシコオロギは、海外ではかなりメジャーな食材です。量産国として有名なのは、フィンランドなどの北欧、カナダ北部など、牧畜の北限を越えているエリアです。これらの国では、粉末がスーパーマーケットで売られています。アメリカのAmazonでも『スポーツプロテイン』として何種類も売られていますよ」と、教えてくれたのは同社の荒神文彦(こうじん・ふみひこ)社長です。

インタビューを受ける荒神社長

太陽GEの荒神文彦社長

太陽GEの強みは、低コストで高品質のコオロギを生産できる点です。「二本松の生産拠点は、1千万円以上を掛けて作られたものです。研究施設でもあるので、温度や湿度、空気の流れなどを制御できて、閉鎖空間をつくることもできます。

今年2月により簡便な施設を増設したところ、品質は落ちるどころかより良くなりました。温度や湿度や、水分量などポイントを押さえられれば、(当初の施設の)10分の1のコストでも充分だと分かりました」。

昆虫食の注目度上昇に伴って引き合いが増え、生産が追い付いていない状態だといいます。試作を重ねて得た低コストの生産ノウハウは、増産を実現させるほか、ノウハウ自体を外販する可能性も生みました。
「食品工場などと連携して、残さを利用した昆虫生産の技術を提供し、捨てられるはずのものをお金に換えながらのフードロス対策を提案することも視野に入れています」。

おいしくなければ浸透しない

ただ、荒神社長は 「『昆虫食は環境に優しいとか、栄養価が高い』というのは、実はおまけ」と語ります。「消費者にとってもっとも大切なのは、おいしいこと。味がエビに似ているといっても、今は、食べ慣れたエビの方が絶対においしく感じると思います」といいます。ただ、イナゴやコオロギなどの昆虫が持つ上品なうま味は、まだ広くは知られていない特長です。

「昆虫食を浸透させるためには、昆虫ごとの風味を活かした食べ方が必要でしょう。当社では、井上が注力しているように飼料を工夫して食べやすい昆虫を作ること、そしてなるべく食べやすい味付けをすることで、昆虫の姿を残したまま、食材としての魅力を高める方向に力を入れていきたいです」といいます。

井上さんも「まず食材としての魅力を地道に伝えて、関心を持ってもらうことが大切。ECサイトやInstagramでは、ナチュラルで健康的なイメージを根付かせるために、写真や色合い、言葉遣いの一つ一つにとても気をつけています」といいます。

コオロギビール

新しい取り組みも積極的に行っています。コオロギラーメン店など都内で昆虫食レストランを経営する「ANTCICADA(アントシカダ)」と連携。太陽GEのフタホシコオロギを使った「コオロギビール / Cricket Dark Ale」が今年5月に発売されました。炒ったモルトとコオロギの香ばしさがよくマッチした味で、渋谷でポップアップ販売をしたところ800杯以上が完売、好評だったそうです。

荒神社長「昆虫食での独立を目指して本気でやれば、一人で年間600キロまで生産できます

荒神社長「昆虫食での独立を目指して本気でやれば、一人で年間600キロまで生産できます。販路を探すのが大変ですが、ペット用のコオロギはキロ単価2万円ほど。スペースがあれば、農家さんのサイドビジネスとしても可能では」

メロンなどの植物の水耕栽培と高級魚の養殖、昆虫食生産を一体化したアクアポニックスの運営も、将来的に視野に入れているといいます。メロンなどの残さを昆虫のエサに、昆虫を魚のエサに利用する循環型農業で、その仕組みを海外などへ販売することを検討しているといいます。昆虫食が「選ばれる食材」となる未来を信じて、真摯に改良を重ねて価値を向上させていくメーカーの姿を垣間見ました。

(インフォグラフィクス制作:マイナビ農業・水谷)

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