収量と品質で他県を引き離す「IoP」とは 農家所得2割増を目指す高知の挑戦

マイナビ農業TOP > 生産技術 > 収量と品質で他県を引き離す「IoP」とは 農家所得2割増を目指す高知の挑戦

収量と品質で他県を引き離す「IoP」とは 農家所得2割増を目指す高知の挑戦

収量と品質で他県を引き離す「IoP」とは 農家所得2割増を目指す高知の挑戦
最終更新日:2020年11月09日

高知県が施設野菜の収量と品質で他県を一層引き離し、農家所得の2割増を目指す研究課題に取り組んでいる。とはいえ少なくとも収量では、県の主要野菜7品目のほとんどがすでに全国で最も高い中、さらに伸ばす余地はどこにあるのか。その答えは、作物の生体に関するデータを産地や農家個々の経営に活用する「データ農業」だという。

もっと楽しく、もっと楽に、もっと儲かる農業

「デジタルデータと農業を掛け合わせた『データ農業』の展開によって、もっと楽しく、もっと楽に、もっと儲かる農業を目指したい」
こう語るのは高知県農業振興部IoP推進監の岡林俊宏(おかばやし・としひろ)さん。そのために同県は2018年度から内閣府の地方大学・地方産業創生交付金を活用して「IoPが導くNext次世代型施設園芸農業」という研究課題に取り掛かっている。

「IoP」とは「Internet of Plants」の略で、本研究開発の「中心研究員」である高知大学農林海洋科学部特任教授の北野雅治(きたの・まさはる)さんが提唱する新たな概念だ。その意味するところは、作物の生理や生育情報を含めて、農業に関するデータを今まで以上に収集・蓄積して可視化し、栽培から出荷、流通に役立てていくことにある。

IoPの実験施設

高知県農業技術センターにあるIoPの実験用施設

同県が考える農業のデータは主に3つある。1つは環境データ。これは気象や土壌、水といった植物が育つ環境に関すること。場合によっては作物以外の微生物の働きを入れることもある。

2つ目は管理データ。これは人為的なマネジメントに関すること。たとえば種子や農薬、肥料をまいた時期やその量、あるいは農業機械をどこでどれだけの時間動かしたのかも含む。人がロボットを通して間接的に働きかけることも、これに当たる。

3つ目は生体データ。作物の生育状態に関すること。葉の面積、果実の糖度や酸度、収量といった作物そのもののデータである。

「ブラックボックス状態」の生体データ

WEBカメラ

作物の生体データを取るWebカメラ

3つのうち環境と管理のデータは生産の現場でも活用されるようになってきた。たとえば温度のデータを踏まえた加温をしている。あるいは、誰がどの農地でどんな作業をしたかといったデータを取ることで、作業の進捗(しんちょく)状況を明確にしている。

一方、生体データは技術の進展が遅れ、「営農の現場ではブラックボックスの状態」(北野さん)。そこで研究課題では、とくに生体データを取る技術の開発と普及を加速させていく。一例を挙げれば、施設内に設置したWebカメラで作物の葉の受光面積と明るさの度合いを経時的に計測し、光合成をより活発にするための摘葉の方法や栽植の密度などを検討している。

研究の推進体制として参画するのは、同県やJAのほか高知大学や高知県立大学、高知工科大学など。農学と情報科学での専門的な組織や人材が幅広く結集しているのは注目に値する。

独自の「IoPクラウド」を構築へ

2020年度の目標は同県独自の「IoPクラウド」を構築することだ。これでさまざまなデータの蓄積や連携、分析、診断などができるようにする。データを活用するといっても、まずは量が大事になる。その点で同県は優位にあるという。

「うちの強みは、種をまいて年に一回収穫して終わりの野菜はほぼなく、ナスやピーマンなど一年中収穫が続く野菜が多いこと。だいたいの野菜は8月に植えてから10カ月間は取りっぱなしなんですね。それだけ他県に比べてデータを取りためて、そのデータに基づいて毎日ちょっとづつ栽培の改善を繰り返すことができる」(岡林さん)

といっても生産現場で大量のデータを取るには課題として、インターネットにつなげる環境をつくらなければいけないほか、カメラ画像から生育や着果の状況を自動で診断できるAI等の開発も必要となる。前者については段階的に進める一方、後者については同県農業技術センターが過去の試験研究で取りためたアナログデータがある。これをデジタルデータに変換する作業に取り掛かっている。

その過去のデータから作物の生育を予測する計算式をつくる。その計算式に現在進行形の生体データを取り込みながら、収穫の時期や量などをより正確に予測できるようにする。施設内で加温したり炭酸ガスを発生させたりして、収穫の時期は前後の微調整ができるようにもする。

一方で注目したいのは、「IoPクラウド」に出荷データを取り込むことだ。それが可能なのは、各出荷場のデータを蓄積しているJA高知の電算センターと連携するからだという。個々の農家が出荷した日時や量、品質、大きさなどのデータを取りため、将来的に産地として出荷する量を予測する。

さらに出荷データを踏まえて個々の農家の通信簿をつくり、きめ細かな営農指導につなげる。「たとえば売り上げが高くても利益率が低い農家の場合、『経営面積は大きいけど、栽培技術に課題があり収量が低い』、『労働力が不足している』、あるいは『過剰な投資をしている』などの原因が考えられる。データがあれば、今までよりも適切な営農指導ができるようになる」(岡林さん)

以上、高知県が目指す「IoP」と呼ばれる研究課題の構想をざっと理解してもらえたはずだ。後編で取り上げたいのは、多くの農業関係者にデータが持つ価値を理解してもらいながら、どうしたら生産現場で活用してもらえる流れをつくるのかについて。再び高知県を舞台に紹介する。

関連記事
イチゴの高設栽培でさらに収量を上げる秘訣
イチゴの高設栽培でさらに収量を上げる秘訣
イチゴの高設栽培では「むしろ収量は増える」と明言する中村商事(埼玉県春日部市)の代表・中村淑浩(なかむら・よしひろ)さん。前編で紹介した水と肥料以外に気を付けるべきことに湿度がある。湿度の管理に加えて、環境制御機器を適…
「イチゴは高設栽培で収量が減る」のは必然か?
「イチゴは高設栽培で収量が減る」のは必然か?
今回の主題は「イチゴの高設栽培で収量が減るのは必然か」。高設栽培は土耕栽培と比べて培地の温度が下がるため、収量が減るというのが産地関係者の常識になっているようだ。これに異を唱えるのは環境制御技術に詳しい中村商事(埼玉県…

関連記事

タイアップ企画

カテゴリー一覧