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話題の種苗法改正って? なぜ反対が多い? そもそも種苗法とは

山口 亮子

ライター:

話題の種苗法改正って? なぜ反対が多い? そもそも種苗法とは

種苗法改正案の審議が11月11日、国会で始まった。種苗法は品種の育成者の権利保護を定めた法律だ。改正には、農業関係者だけでなく、一部の消費者も強い関心を示している。種苗法改正案ほど、人によって受け止め方に差がある法案も珍しいだろう。日本の種苗の海外流出を防ぐために必要だから賛成。農家の負担が増えて、経営が立ち行かなくなるから反対。……なぜこれほど意見が割れるのか。そして、そもそもどういう法案なのか。基本から解説する。

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そもそも種苗法とは

苗を守る人の手

種苗法は、品種の育成者の権利を守るための法律だ。育成者が持つ「育成者権」の保護を定めていて、1998年の全面改正以降、育成者権を強化する改正を重ねてきた。育成者権は、農業版の著作権のようなものだ。この育成者権を得るために、育成者は農林水産省に品種登録の出願をする。

審査を経て登録された品種は「登録品種」になる。育成者はその種苗や収穫物、一部の加工品を利用する権利を専有する。育成者以外の人が登録品種を業として、つまり事業として使うには、育成者の許諾が必要だ。このため、販売される登録品種の種苗には通常、育成者への許諾料(ロイヤルティー)が含まれている。

品種の登録期間、つまり育成者権の存続する期間は、最長で25年または30年(果樹や鑑賞樹といった木本の植物のみ30年)だ。この期間が過ぎたり、期間内でも育成者が毎年払う登録料を払わなかったりすると、登録が取り消される。

登録品種には、ゆめぴりか、シャインマスカット、あまおうなどがある。登録品種以外のそもそも登録されていない品種(伝統的に栽培されてきた品種や、あきたこまちなど)や登録が取り消されたもの(はえぬき、とちおとめなど)は「一般品種」と呼ばれる。種苗法が対象とするのは登録品種のみで、かつ家庭菜園のような自家消費が目的の場合は対象にならない。

なぜ改正するのか

国会で審議中の改正案で、何が変わるのか。主な改正は下の二つだ。

①農家による登録品種の「自家増殖」に育成者の許諾が必要になる
②育成者は登録品種を許諾なく輸出できる国や栽培地域を指定できる

ほかにも、品種登録の出願料や、登録の維持に必要な登録料を引き下げるといった細かな改正はあるけれども、議論が集中しているのはこの二つだ。

自家増殖とは、種を取る自家採種や、接ぎ木などにより、収穫物から次の世代を生み出すことをいう。ジャガイモやサツマイモといったイモ類は、収穫して種イモに回すことができるし、バジルや一部の観葉植物は、枝を切ってさしておけば立派に成長する。これまで農家による自家増殖は自由だったけれども、改正により、育成者の許諾を得る許諾制に変えようとしているのだ。そのため、「農家の権利を制限するのはおかしい」という反対の声が上がっている。

なぜ許諾制に変えるのか。品種の海外への流出が、主な原因だ。育種家は、国や県といった公共団体、民間企業、個人の三つに大きく分けられる。中でも「地方公共団体などにとって、都道府県や国の境界を越えた流出が、一番大きな悩みになっている」(農林水産省知的財産課種苗室)のだ。

多くの都道府県は、産地振興のために魅力的な品種を生み出そうと競い合ってきた。ところが、県内に栽培を限定したはずの品種が県外に広がったり、甚だしくは海外で産地化されたりしている。特に果樹とイチゴで海外への流出が多い。一般社団法人や研究機関などで構成する「植物品種等海外流出防止対策コンソーシアム」は9月、中国と韓国のWebサイトで、日本で開発された品種らしい名前で売られているものが36品種分見つかったと発表した。

あまおうのイメージ

特に多いのがイチゴや果樹の海外流出だ

海外流出への対策として、海外での品種登録が進められている。品種の登録は国ごとに行うためで、農水省は登録推進の予算をつけている。花形の品種をデビューさせるに当たって、海外での登録を進める都道府県も増えてきた。とはいえ、海外での登録や権利侵害が発生した際の対応には労力もお金もかかる。そこで、そもそもの日本からの流出を阻む手段として改正に至ったというのが、種苗室の説明だ。

育成者による輸出先や栽培地域の限定に加え、農家の自家増殖を許諾制にし、育成者がどこでどんな増殖が行われるか把握することで、流出の監視を強めようというのだ。

反対が多い理由と種苗をめぐる知財の考え方

種苗法の改正は実務的で地味なものに思われるのだけれども、反対の意見が特にネット上で盛り上がっている。一番の理由は、これまで自由にできた自家増殖が許諾制になるからだ。「自家増殖の一律禁止だ」とする主張もあるが、育成者の許諾を得ればいいので、正しくない。許諾料が生じることで、農家の経営を圧迫するのではないかという不安が、反対につながっているようだ。

ただし、農水省によると流通する種苗の9割は一般品種で、改正の影響を受けない。作物によっては、登録品種の割合が高いものもあるけれども、影響は限定的だと思われる。一般的に生産費に占める種苗費の割合は数パーセントのはずで、種苗費に占める許諾料の割合はそのまた数パーセントだろう。許諾料が増えて経営が立ち行かなくなるという事態は、考えにくい。

サトウキビ畑

サトウキビは登録品種の割合が高いが、開発元は公的機関

登録品種の割合が高い作物の一つが、サトウキビだ。沖縄県を例にとると、栽培されているほとんどが、農水省系の研究機関である農研機構と県が開発した登録品種だ。かつ、自家増殖が欠かせないので、改正案が通れば、許諾を得る手続きが必要になる。そのため、これまで以上に許諾料が発生して大変になるという主張もある。
ただ、開発元は公的機関で、営利よりも産地の振興を目的にする。許諾料の設定や許諾を得る手続きは、生産者の負担にならない形になるだろう。

ほかに影響が大きいと思われるのは、果樹だ。自家増殖する農家もいるので、改正案が通れば許諾料が増える農家も出てくるだろう。ただ、果樹は先に紹介したように国外や地域外への流出が最も深刻だ。許諾の手続きや許諾料が増えても、育成者権が守られ、流出に歯止めが掛かれば、最終的に農家の利益になると種苗室は考えている。

農業分野では、知的財産権があまり重視されてこなかったように感じる。一つの品種を生み出すには、ふつう10年はかかる。にもかかわらず、育成者が得られるインセンティブ(見返り)は、あまりに少なくなかったか。

シャインマスカットを例にすると、開発には13人の研究者が関わり、18年を要した。親に当たる系統の開発から数えると、実に30年以上かかっている。種苗室によると、成木になれば1本あたり年間20万円近い売り上げを生むのに対し、苗1本当たりの許諾料は1回きり60円程度に過ぎない。

農家にとって、食味が良い、病気に強いといった優れた品種がもたらす経営上のメリットは大きい。メディアやネットに書かれるほど、許諾料を払いたくない農家は果たして多いのか。筆者は疑問を感じている。

草をはむ和牛

種苗法改正とよく似た動きをしたのが、2020年4月に成立した和牛をめぐる法案の改正だ

知財重視の考え方は農業でも広がりつつあり、和牛をめぐって、種苗法改正とよく似た法改正と新法の制定があった。和牛の遺伝資源を知的財産とみなし、不正な持ち出しを規制するものだ。和牛の遺伝資源が海外に流出するのを食い止めようと、2020年3月、通常国会に提案され、4月に成立、10月に施行された(「家畜遺伝資源不正競争防止法」と「改正家畜改良増殖法」)。

実は種苗法改正案も同じ3月に国会に提出されている。審議が先だった和牛関連法案はすんなり通った一方、種苗法改正案は審議の順番が遅かったのに加え、反対論が盛り上がり、かつ他の法案の影響で与党への風当たりが厳しくなって、最終的には時間切れとなり、審議が秋の臨時国会に持ち越された。

自家増殖が許諾制になるということは、農家がこれまで認められてきた権利を規制するもので、育成者権と農家の権利の保護が相反する部分は確かにある。育成者権と農家の自家増殖の権利を、一方が勝てば他方が負けるゼロサム・ゲームと捉えるからこそ、反対論が盛り上がるのだろう。

しかし、長い目で見れば、育成者へのインセンティブが高まり、優れた品種の開発が活性化するほど、農家は恩恵を受ける。種苗法改正の議論をきっかけに、品種登録の件数が右肩下がりを続ける現状を直視し、知財で日本農業を活性化することを考える方が、建設的ではないだろうか。

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