就農までに踏んだいくつものステップ
百野さんが2013年に大阪から移住したのは、徳島県中部に位置する上勝町。ごみをゼロにする「ゼロ・ウェイスト運動」や、料理に添える“つまもの”を生産する「葉っぱビジネス」といった取り組みで、全国的にも注目されている場所です。山々に囲まれる自然豊かな地域で、特産品にはユズやシイタケ、乳酸菌で発酵させて作る伝統的な阿波晩茶(あわばんちゃ)があります。ところが少子化や過疎化が進み、現在の人口は1500人ほどまで減ってしまいました。
百野さんがこの上勝町に移住をしたきっかけは、インターンシップだったそうです。里山ビジネス体験や農家農泊の手伝いを通じて、農業を担っているのは高齢者であることを知ると同時に、「若い自分にもできることがあるのでは」と農業に可能性を感じたそうです。
その後、インターンシップで出会った人からの誘いもあり、移住。当初は一般企業に転職という形で移住しましたが、地元の人から「地域を盛り上げてほしい」と声をかけてもらい、地域おこし協力隊になることを決意しました。
就農準備~人間関係編~
地域おこし協力隊の任期は最長でも3年です。地域を盛り上げたいという使命感で始めましたが、次第にPR活動をしていた特産品の阿波晩茶に興味を持ち、自ら栽培をしたいと就農への意欲を抱き始めました。そこで、協力隊の任期中に、独立就農が可能かを考え、それに向けて動いてみることにしました。就農を前提と考えると、地元の人との関係構築も大切です。任期がある地域おこし協力隊員は、地元の人からするとあくまで“お客様”。しかし百野さんは上勝町に定住し、農業を営む決意を固めていました。草刈りなどのボランティア活動や地元の飲み会に参加しては、地元の人との関わりを増やしていったそうで、この取り組みが就農の地盤作りになったといいます。
「地元の人に溶け込めず、不満や不安をため込んでしまうと、自分の生活自体がしんどくなってしまいます。積極的に地域活動に参加して、本音で語りあえたからこそ、いい関係を築けたんじゃないかなと思っています」(百野さん)
就農準備~農業経営編~
一方、農業で食べていくための準備も欠かせません。百野さんはどういう農家を目指し、どう生計を立てていくか長期的な事業計画を立てたそうです。
阿波晩茶については地域おこし協力隊を通じて生産に携わり、栽培に手応えを感じていました。そこで、ビジネスの主軸は、阿波晩茶と料理の“つま”になる草花の栽培に決めました。
阿波晩茶の繁忙期は夏、草花の繁忙期は冬と、繁忙期がずれています。農家にとって、通年で収益を見込めるのは大切なことです。
百野さんはこうした計画や準備を就農前から進めておくことで、見知らぬ土地での不安要素を無くし、移住就農の成功につなげることができました。
顧客獲得のための工夫
独立就農して4年半が経過した現在は、顧客も順調に増えているそうです。認知度が低い阿波晩茶は、顧客獲得のためにオンラインショップやイベントに出店して着実に認知度を高めています。
加えて、知り合いの農家の阿波晩茶を買い受け、自身のお茶と合わせて「飲み比べセット」として販売しています。「阿波晩茶は、発酵の仕方など栽培する農家によってかなり味が変わります。飲み比べる楽しみを提供できると思いました」と百野さん。
その違いがぱっと見て分かるよう、栽培データを添えて販売しています。そこには、土地の標高や発酵期間など細かく記載されています。
後に続く移住就農者のために
今後は自身の就農モデルをひとつの事例として、「後に続いてもらえれば」と考えているとのこと。
就農して定住してもらうために、地域おこし協力隊での準備期間や事業計画に基づいた試験栽培など「お試し」の大切さも伝えていきたいといいます。
また生計を立てることだけでなく、地域住民とのつながりも重要な要素。繁忙期に無償で農作業を助け合うなどして構築する信頼関係が、結果的に自分の農業経営を支えることにもなるのだといいます。
全ての地域で百野さんの事例が通用するとは限りませんが、移住や就農に不安を持つ人にとってその要素が少しでもクリアになるよう、百野さんは自らの体験を発信していきます。