マイナビ農業TOP > 農業経営 > 新たな働き手の可能性「農福連携」で必要なことは何か

新たな働き手の可能性「農福連携」で必要なことは何か

新たな働き手の可能性「農福連携」で必要なことは何か

農家の担い手不足や高齢化問題において、新たな働き手として注目を集める農福連携。障害者にとっても働く機会や生きがいづくりとして期待され、農林水産省・厚生労働省でも取り組みが推進されています。
農と福祉の連携方法にはさまざまな形が見られますが、今回は障害者の雇用に取り組む農業法人と、福祉事業者へ作業を委託し施設内就労の受け入れに取り組む農業法人に話を聞きました。
取材を通じて、農福連携を始める際に必要なことが見えてきました。

twitter twitter twitter

脱サラ就農から福祉事業へ参入!

ベジモファームB代表の小林さん

一つめの事例が、就労継続支援B型事業所(※)のベジモファームB(愛知県豊川市)です。設立者は、有機野菜の生産や宅配サービス、農業スクールやレストラン事業と幅広く事業を展開するサインズ代表の小林寛利(こばやし・ひろとし)さん。サインズでは、自然栽培の野菜を年間80品目栽培し、近隣県をはじめとした約3500の顧客へ宅配しています。
ベジモファームBを利用する障害者は、サインズの業務のうち、①畑作業 ②野菜をドレッシングなどにする加工作業 ③野菜の収穫~出荷作業といった仕事をおこなっており、機械を扱うなどの危険な作業以外は、健常者の職員と変わらない仕事をしています。

小林さんは、2008年に新規就農をした脱サラ組。「農業は、人のエネルギーの源になる食べ物を作る、すごく大事な産業だということを遅まきながら実感したんです。同時に、農業の価値が低すぎるという課題も感じました。農業の価値を世の中に伝え、正当なものに変えていかなくてはと思い、就農しました」(小林さん)
さまざまな農業事業を展開するなかで、畑仕事から福祉も変えられるのではないかと感じ、ベジモファームBを設立。小林さんに農福連携の成功の秘訣(ひけつ)を聞くと、いくつかのこだわりが見えてきました。
※ 企業などに就職する事が困難な障害者に対し、雇用契約を結ばずに働く機会の提供や支援をおこなう事業所。

「作業」ではなく「誇りを持てる仕事」を依頼する

ベジモファームBの畑

小林さんのこだわりは、障害者に依頼する仕事内容にあらわれています。
それは、週に最低1日は畑で仕事をすること。まいた種が姿を変えて野菜に成長し、お客様に届く、そして直接お客様からの声を聴く、という一連の過程を実感できるからです。仕事にやりがいや誇り、達成感や楽しみを感じてもらいたいという思いがあります。実際に畑仕事を楽しみにしている人がほとんどで、決まりを設けるまでもなく楽しく取り組んでいるそうです。

小林さんは、仕事だけでなく会社の経営方針も理解してもらおうと工夫しています。「障害者には理解が難しいからと諦めて、伝える内容を健常者の職員と変えることはしません。理解してもらうために、伝える方法をいろいろと工夫しています」
例えば、ベジモファームBが自然栽培の野菜を扱っている背景を知ってもらうための学びの会を開催したり、無農薬のカカオ豆を使ったチョコレート作りを実施し、無農薬の価値を理解してもらったりしています。その他にも度々イベントを実施し、体験を通じて意味を理解してもらうよう努めています。また、農福連携を学ぶため、障害者への的確な指導力を身に着けるため、職員には大学の講義を受けられる機会も提供しています。

農福連携は続けてこそ効果が出る

モチベーションを上げるための工夫だけでなく、健康面のサポートもしています。昼食は管理栄養士が考案した料理を提供しており、一人暮らしで栄養が偏りがちなスタッフも重宝しているのだとか。しかも食材はベジモファームBの自然栽培の野菜を使用し、調味料にもこだわっています。
心身共に元気を取り戻した障害者が、就労継続支援A型事業所(雇用契約に基づく就労が可能な事業所)での就労にステップアップしていくケースもあるそうです。中にはA型事業所で働いた後にベジモファームBの職員として働きたいと、違う雇用形態で戻ってくる人もいるそうで、当初は想定していなかった効果があらわれています。

農福連携を検討している人へのアドバイスとして、小林さんは人材の重要性と長期的な視点が大切だと話してくれました。「福祉にも農業にも知識と経験のある職員を育成するため、一時的に売り上げが落ちたこともあります。ですが、今はちゃんと収益も出て安定しています。実績があるからこそ事業展開も広がっています。長期目線で計画的に判断することも大切だと思っています」

耕作放棄地の活用に障害者が貢献!

耕作放棄地を活用すべく、福祉事業者に作業を委託して連携を図る農業法人もあります。もう一つの事例は、愛知西農協の子会社(株)グリーンファーム愛知西(稲沢市)です。常務取締役の恒川幹司(つねかわ・ただし)さんは、前部署でリハビリ療法の一環に農作業が取り入れられていることを知りました。
「病を患う方が楽しそうに生き生きと農作業にいそしむ姿を見て、農と福祉の親和性を感じ、農福連携に力を入れていこうと思いました」(恒川さん)

愛知西農協は耕作放棄地を活用するために(株)グリーンファーム愛知西を設立し、土地に合った作物栽培。ホウレンソウ栽培の一部作業で農福連携を実現しています。福祉事業所に委託している作業は、収穫後の①水洗い ②いらない葉をカット ③重量を量る ④袋詰めの4工程。袋詰めされた商品は、JAの産直店舗に運ばれ販売されています。商品100袋程度になる量のホウレンソウを事業所に持ち込み、1日かけて商品に仕上げてもらいます。年間50~60回程依頼しているそうです。

当初は、「いらない葉をとる」の「いらない」の感覚をつかんでもらうのが難しく、葉をとりすぎてしまい、かなりの商品ロスもあったそうですが、1年を経た今は、感覚をつかんでもらい、安心して任せられる状態までになりました。
委託している福祉事業者は(株)グリーンファーム愛知西以外からも作業を引き受けており、休業日もあります。そのためあらかじめ依頼日を決める必要があり、栽培管理がしやすく収穫日が数日ずれても生育に大きな影響が出ないホウレンソウは最適だといいます。
「事業者の方から、(株)グリーンファーム愛知西の作業を楽しみに待ってくれていると聞いています。うれしくて栽培にも力が入りますよ。今は収穫後の調整作業だけを委託していますが、ゆくゆくは栽培から全て任せて、障害者の方に工賃(賃金)が入る仕組みにしていけたらと思っています」(恒川さん)
工賃が発生することで、障害者を地域の新しい働き手として確立させ、農と福祉を活性化させていく考えです。

後列左が恒川さん

ベジモファームBと(株)グリーンファーム愛知西の拠点となっている愛知県では、農業者と障害者福祉施設などとのマッチング支援や、セミナー、サポーター養成講座の開催を計画するなど、農福連携の推進に力を入れています。
他府県でも自治体によって導入支援があり、取り組み事例は年々増えているそうです。地域の雇用を生み出す新しい選択肢として、農福連携のこれからの取り組みに期待が高まります。

その他、愛知県動画はこちらから

【取材協力】
ベジモファームBあいち 就労継続支援事業所
JA愛知西((株)グリーンファーム愛知西)

【お問い合わせ】
愛知県農業水産局農政部農業経営課
TEL:052-954-6409
FAX:052-954-6931
HP:https://www.pref.aichi.jp/nogyo-keiei/

(取材・執筆/林ぶんこ)

あわせて読みたい記事5選

関連キーワード

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

タイアップ企画

公式SNS

「個人情報の取り扱いについて」の同意

2023年4月3日に「個人情報の取り扱いについて」が改訂されました。
マイナビ農業をご利用いただくには「個人情報の取り扱いについて」の内容をご確認いただき、同意いただく必要がございます。

■変更内容
個人情報の利用目的の以下の項目を追加
(7)行動履歴を会員情報と紐づけて分析した上で以下に活用。

内容に同意してサービスを利用する