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サウナブームを商機に、国産「ヴィヒタ」を作る北海道の農家 ふるさと納税に採用も

サウナブームを商機に、国産「ヴィヒタ」を作る北海道の農家 ふるさと納税に採用も

空前のサウナブームが訪れている。かつては中年男性の娯楽というイメージだったサウナだが、サウナを題材にした漫画やドラマの影響もあり、老若男女に愛好家が増えている。美容・健康効果から、若い女性のサウナー(サウナ愛好者)も少なくない。そんななか密かに人気を集めつつあるのが、「ヴィヒタ」と呼ばれる白樺の枝を束にしたアイテムだ。本場フィンランドでは、入浴中や後に体に打ち付けることで爽やかな香りやエキスを楽しむ慣習があるという。ヴィヒタの魅力を生産農家に聞いた。

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ヴィヒタって何?

ヴィヒタ作り

白樺の小枝を25本ほど重ねて、麻ひもでしっかりと巻いて束ねる。

「ヴィヒタ」とは、フィンランド語で木の枝を束ねたものを指し、多くの場合は若芽のついた白樺の枝が使われます。サウナ入浴中や後に、水に浸したヴィヒタで全身を軽く叩いて使います。するとよい香りが広がり血行が促進されて深いリラックス状態に浸れるというもの。殺菌効果もあるとされ、打ち付けたときに肌につくエキスの保湿・美肌効果も期待できます。
“自然のマッサージ器”として、本場フィンランドでは2000年以上前から親しまれていて、最近は日本でもヴィヒタを設置する温浴施設が少しずつ増えています。

ヴィヒタには乾燥タイプと生のフレッシュタイプがあり、特に後者は入手困難なアイテムです。
北海道・十勝地方の種苗農家、大森ガーデンの大森謙太郎(おおもり・けんたろう)さんは、そんな希少な国産フレッシュヴィヒタを手作りしています。ヴィヒタ生産に携わるきっかけや、その魅力について教えてもらいました。

大森謙太郎さん

サウナ施設にヴィヒタを納める大森さん(2019年)

ふるさと納税にも採用

今年34歳の大森さんは、十勝地方の南部・広尾町で種苗農家を営みながら、3年前からヴィヒタ作りを始めました。
フレッシュヴィヒタの最大の魅力は「スモーキーな乾燥ヴィヒタにはない、爽やかで甘みのある香り」だといいます。北海道産フレッシュヴィヒタの収穫時期は、「5月末頃から長くて8月中旬まで」ととても短いのだそう。適期より早いと葉っぱが小さ過ぎてしまい、遅いと枯れて茶色くなったり、香りが弱まったりしてしまいます。

白樺の枝は、近隣の山林の所有者から購入という形で手に入れています。約100本の木から1シーズンであたり1500束のヴィヒタを作ります。シルバー人材センターから派遣された80代を含む、パートスタッフ4人とチームを結成して集中して取り組んでいます。

チェーンソーで倒した白樺の木

チェーンソーで倒した白樺の木

伐採した白樺の枝を、パートスタッフが60センチの小枝に切り分けて選定します。麻ひもを使って束ねるのは大森さんの役目。ヴィヒタの束ね方は、海外のYouTube番組などから独学で習得し、今では1束あたり5分程度で完成させます。

はじめは、本州の有名温浴施設にサンプル品を直送して、売り先を開拓していきました。自然乾燥の約10倍速で乾燥ヴィヒタが完成する乾燥室を設置したり、真空パックを活用したりと、質の高い香りを通年で楽しめるような製法にこだわってきました。乾燥ヴィヒタのセットは、地元・広尾町のふるさと納税にも採用され、ちょっとした名物となりました。

事故から生還、サウナにハマる

大森さんがヴィヒタの生産を始めたきっかけは、「サウナに救われた」経験だといいます。

種苗農家の長男として生まれた大森さんは、20代で実家に戻り就農しました。年間1000~1200種類に及ぶ草花の苗を生産・販売し、農園カフェの運営にも従事。若さに任せて18時間働く日もあったといいます。長時間労働がたたり、居眠り運転が原因の交通事故を起こしてしまいました。不幸中の幸いで相手は無事でしたが、大森さんの体には後遺症が残ってしまいます。

リハビリに励むなか、本州に住む友人からサウナを勧められました。試しに近くの施設に足を運ぶと、停滞していた血行がめぐり、体の機能がゆっくりと回復していくように感じました。生真面目な大森さんが、心からリラックスできる唯一の場所。いつしかそれがサウナになりました。

次第に、「自分を癒やしてくれたサウナに恩返しがしたい」と考えるようになったといいます。そして日本では入手困難とされるヴィヒタの存在を知り、サウナ文化を盛り上げるアイテムとして、国産品の生産を思い立ちました。

次の世代も、ヴィヒタ作りができるように

北海道の白樺林

北海道の白樺林

サウナやスポーツ関連のイベントでヴィヒタ作りのワークショップを開催するなど、国産ヴィヒタの魅力を広める活動もする大森さん。毎年完売し問い合わせも増えているので、今年は1シーズン2000本を目標に増産しつつ、商品の幅を広げていきたいと話します。

携帯用の“ポケットヴィヒタ”

ファンのアイデアから生まれた、携帯用の“ポケットヴィヒタ”を制作中。「ポケットに忍ばせて、嫌なことがあった時などは嗅いでリラックスしてほしい」(大森さん)

昨年、大森さんは1000本の白樺を植樹しました。
「北海道には白樺が多く生えていて、ヴィヒタの材料には困らないと思ってしまいがちです。けれども実際は国有林などが多く、意外と民間が自由に使える木は少ないです。工業製品ではないので、いきなり大量生産できるものでもありません。

今植えても、使えるのは30年以上先ではありますが、せめて自分が使った分の木は植えて、次の世代が材料の調達に苦労をせずに、ヴィヒタ作りができるように引き継いでいきたいです」

大森さんに聞く! ヴィヒタQ&A

いらすとやのヴィヒタ

ブームを受けて、「いらすとや」でもヴィヒタの素材が配布されていた

――ヴィヒタはどこで使えばいいですか?
どうしても葉が落ちてしまうので、銭湯などに持ち込むのは控えて、ヴィヒタの備え付けがある施設(※)か屋外のテントサウナで楽しむのがいいですね。(※大森さんのヴィヒタは、「ウェルビー」や「ジートピア」「湯らっくす」などで取り扱っています)
――良いヴィヒタの見分け方は?
ずばり、香りが良いのが良いヴィヒタ。見た目でいうと、緑色が濃いものがおすすめです。
――ヴィヒタ作りは農家さんにおすすめできますか?
ビジネスとしての“勝ち筋”だけを考えれば、人件費が安い国から輸入するのが一番利益率が高く、体への負担も少ない方法です。ただ、品質の高いものを作ることができれば、必ずお客さんに喜んでもらえる商品なので、その点ではおすすめできます。限られた期間に人を雇って稼働できて、売り先が開拓できれば、特に林業も兼業している方にはいいと思います。しかし、お客様となるサウナを愛好される方々は、「サウナグッズを作る人がサウナ好きか否か」にとても敏感です。いくらおしゃれで質の高いグッズであっても、愛情なき者の作るものは売れていません。なので、サウナが好きでなければヴィヒタ作りはおすすめできません。
――読者にサウナの魅力を教えてください!
農家は経営者の方も多いですし、気が付くとずっと仕事のことを考えてしまって、どうしてもオンオフの境目があいまいになってしまいますよね。そんな農家さんにもサウナを「スイッチ」にして、心からリラックスする時間を過ごしてほしいです。

写真はMoi!Vihita Facebookページより

Twitterアカウント
https://twitter.com/moi_vihta?lang=ja
instagramアカウント
https://www.instagram.com/moi_vihta/

大森ガーデン

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