平均年商5000万円をけん引する「渥美半島の伝説」 国内最高級の菊の生産と販売をする集団

マイナビ農業TOP > 農業経営 > 平均年商5000万円をけん引する「渥美半島の伝説」 国内最高級の菊の生産と販売をする集団

平均年商5000万円をけん引する「渥美半島の伝説」 国内最高級の菊の生産と販売をする集団

窪田 新之助

ライター:

平均年商5000万円をけん引する「渥美半島の伝説」 国内最高級の菊の生産と販売をする集団
最終更新日:2021年03月10日

大分県が菊の生産を着実に伸ばしている。立役者は豊後大野市にある3.3ヘクタールの施設で菊を作る有限会社お花屋さんぶんご清川の代表・小久保恭一(こくぼ・きょういち)さん(68)。後進を育成して近くで独立させ、生産した菊の集荷と販売を一括して請け負う。年商5000万円の作り手を続々と輩出する小久保さんの思いと、独立した彼ら彼女らが儲かる仕組みに迫る。

大分県の菊栽培面積の3割以上

輪菊

「お花屋さん」の主力である輪菊

大分県によると、県内での菊の栽培面積は30ヘクタール。このうち12ヘクタールを占めるのは、お花屋さんぶんご清川と同社での研修を経て独立した人たち。
同社は研修生を随時受け入れている。独立後には豊後大野市で平均して2500坪(0.8ヘクタール)の施設を建てて、小久保さんがお花屋さんぶんご清川と代表を兼務する販売会社、有限会社お花屋さん(愛知県田原市)に出荷する。お花屋さんは愛知県と大分県、長崎県の菊の生産者の集まり。後段に記す条件を満たせば、誰でも会員になれる。お花屋さんは会員である個々の生産者が育てた菊を一元的に集荷し、すべて「お花屋さん」のブランドで全国に販売する。

「渥美半島の伝説」

小久保さん

お花屋さんぶんご清川の代表・小久保さん

「お花屋さんを通して売っている生産者の売り上げは坪当たり2万円。年商の平均はざっと5000万円というところだね」
「渥美半島の伝説」と呼ばれた小久保さんは笑顔を絶やさずこう語る。

小久保さんの功績の一つは菊の生産構造を大きく変えたことだ。かつて生産者は一貫生産をしていた。つまり農家は苗づくりから調製までをすべてこなしていた。1980年代、JA愛知渥美町(現在のJA愛知みなみ)周年菊出荷連合の2代目代表だった小久保さんはこれを分業化して、苗づくりは海外に委託して逆輸入し、調製はJAが一括で請け負う体制を整えた。
後にJAの部会を離れてお花屋さんを組織する。現在会員となっている生産者は35戸。年間取扱量は3500万本、総売上高は20億円に及ぶ。

広い土地を求めて大分へ

お花屋さんぶんご清川の施設

お花屋さんぶんご清川の軒が高い施設

小久保さんは17年前、愛知県田原市で築き上げた菊生産の経営をあっさりと息子に譲った。代わって妻と娘夫婦とともに向かった先こそ豊後大野市。大規模な施設を建てるための広大な土地を求めた結果だった。
豊後大野市ではお花屋さんぶんご清川を創業。棟(屋根の最も高い部分)までの高さが5メートルある3.3ヘクタールの施設を建てた。
愛知でもしてきたように、大分でも後進の育成に当たる。これまで独立したのは12人。1人を除いて非農家の出身。独立した12人のうち11人が市内で菊を生産し、お花屋さんに出荷している。総出荷額はお花屋さんぶんご清川含めて年間6億円に及ぶ。
しかもこの数字はまだまだ伸びていく。20代の男性3人が2023年には独立して、計3.3ヘクタールで栽培を始めるからだ。実現すれば、お花屋さんぶんご清川とそこで研修し独立した農家たちの栽培面積は大分県内で15ヘクタールを超える。
「渥美半島なんて狭いところにいないで大分に来ればいい」。小久保さんの口癖だ。「大分県なら農地を集約できる。それに愛知と違って九州は補助金がまだまだ残っている」とのこと。だから大分県に来て、菊を作ってもらいたいという。

儲かる仕組み

お花屋さんぶんご清川で研修を受けたいという人が絶えないのは、小久保さんやその家族の温かい人柄に加えて、「儲かる」ということがある。儲かるのは周年で安定して良質な菊の生産と出荷ができているから。それを実現させる要点は次の3つである。

1つは既存の産地や生産者とは販売戦略がまるで違う点。小久保さんがよく口にするのは「1対9」というマーケット理論である。「1」というのは富裕層で、「9」はそれ以外の人たち。1割の富裕層に向けて良質な商品を作り続けていれば、生き残っていけるという考えである。まず一般的な農家や産地と商売相手が違うのである。

2つ目は品質の良さ。特に花持ちの良さで、収穫してから1カ月は持つという。通常の農家は、収穫の直後に花の鮮度を保つために水に浸けておく“水揚げ”をする。ただ、「水の中に雑菌が含まれているので、かえって日持ちが悪くなる」と小久保さん。この水揚げを行わないことが花持ちの良さにつながっている。

3つ目は適期に適量を出荷すること。そのために10アールを1区画として、それぞれの区画で年に3回作る。大きな面積を細かく区切ることで微調整が利くようになり、周年で時期ごとの出荷量のブレがなくなる。

入会する4つの条件

お花屋さんに入会する壁は低い。主な条件は次の4つ。

入会のための条件

  1. 入会金20万円と出資金(イノチオ精興園への半永久的な種苗の許諾料が含まれる)
  2. 基本的に全量を「お花屋さん」に出荷
  3. 品質不良を理由に実需者から返品があった場合の損失分は自己負担
  4. お花屋さんの出荷規格を守る

1について少し説明すると、種苗の許諾料は日本で最も大きな菊の育種会社、イノチオ精興園に対するもの。お花屋さんは同社が育成者権を持つ菊の品種について、団体での特別な利用契約を結んでいる。

会員の利益を最優先

お花屋さんに入会するメリットを挙げると、まず菊が高く売れる。小久保さんが「うちは日本一高品質で値段も高い菊を作っている」というだけに、予約相対単価は他産地よりも1割以上は高く、競り値はさらに差が開くという。それから農薬や肥料、出荷箱などの資材は共同購入しているので安く買える。また、愛知県や九州での生産者の出荷ロットが増えていることで、輸送費は低く抑えられる。手数料は売り上げに対してわずか1.5%。以上のことから分かるのは、お花屋さんが利益を追求する組織ではないということだ。これについて小久保さんは次のように説明する。

「所属している人たちの経営が良くならないと、組織は10年以上続かない。お花屋さんが金を儲けようとしないから、みんな付いてきてくれるんだよ」
優れた経営者に引き寄せられるように菊を作りたい人が集まり、その産地として着実に成長を遂げる大分県。次回はさらなる発展に向けた課題とその克服への試みに触れたい。

関連記事
消費が減るミカンを増産できる理由 品種、仕立て方、園地…産地が挑む改革
消費が減るミカンを増産できる理由 品種、仕立て方、園地…産地が挑む改革
JAみっかび(静岡県浜松市)にとって、柑橘(かんきつ)経営の理想ともいえる園地がある。後藤健太郎(ごとう・けんたろう)さん(37)が2020年からミカンを作り始めた1.2ヘクタールの造成地だ。その取材を手始めに「三ヶ日みかん」の産…
年商9000万円、JAを一斉退職した男女3人がつくった「農業の何でも屋」
年商9000万円、JAを一斉退職した男女3人がつくった「農業の何でも屋」
福岡県築上町に「農業の何でも屋」を看板に掲げる会社がある。JAを一斉に退職した男女3人が2012年に創業した合同会社・アルク農業サービスだ。地域の農家の悩みを聞いているうちに、農作業の代行から始まった事業は自然と広がっていった…

関連キーワード

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

タイアップ企画

カテゴリー一覧