なぜ「日本一高い」干しブドウを売るのか 農家2人の挑戦

マイナビ農業TOP > 販路・加工 > なぜ「日本一高い」干しブドウを売るのか 農家2人の挑戦

なぜ「日本一高い」干しブドウを売るのか 農家2人の挑戦

窪田 新之助

ライター:

なぜ「日本一高い」干しブドウを売るのか 農家2人の挑戦
最終更新日:2021年03月16日

大分県宇佐市・安心院(あじむ)で6次産業化に取り組む株式会社ドリームファーマーズJAPANは、ブドウの加工品の製造と販売をしている。なかでもシャインマスカットで作った干しブドウは「おそらく日本一値段が高い」という。共同代表の宮田宗武(みやた・むねたけ)さんと安部元昭(あべ・もとあき)さんはそれぞれブドウの大規模生産者。個々の経営は「順調」という。それなのになぜ同社を創業したのか。加工品づくりの要点とともに聞いた。

周年で販売できる商品づくり

カフェ外観

海上貨物コンテナを事務所や直売所、カフェの店舗として使っている

安心院の名物であるワインを製造する安心院葡萄(ぶどう)酒工房。その広々とした園地を向かいに眺める景観のいい場所に、ドリームファーマーズJAPAN(以下、ドリームファーマーズ)の事務所と直売所、カフェを併設した建物がある。建物といっても海上貨物コンテナで、採用した理由は「宇佐市の場合、固定資産税がかからないから」。

カフェの中

カフェの中の様子

ドリームファーマーズ商品

ドリームファーマーズJAPANが直売所で売っている商品

そう説明してくれた宮田さんの案内で直売所に入ると、「シャインマスカット」や「巨峰」などのドライフルーツ、いわゆる干しブドウのほか、ブドウのジュースやクッキーなどの商品が並んでいた。最も高額なシャインマスカットのドライフルーツは直売だと1袋35グラムで1200円(税別)。
どれもデザインが凝っているのが印象的だ。少し意外だったのはTシャツが飾られていること。「一年通して安心院を知ってもらうには、腐らない商品をつくることが大事なんです」と宮田さん。ドリームファーマーズを創業した目的の一つは、ブドウの産地としての安心院を知ってもらうことにある。

ドリームファーマーズが耕作するブドウ園は2ヘクタール。そこでの収穫物以外に周囲の農家から買い取ったブドウで加工品の製造と販売をしている。販路は自社の直売所やサイトで販売するほか、飲食店に卸している。後編でも触れるが、全国の農家が情報を発信する拠点「農村BASE(ベース)代官山」を東京都渋谷区で2020年から運営しており、そこにも置いている。年商は3300万円に及ぶ。
それにしても2人はともに個々の農業経営をしながら、なぜ別に会社を作って6次産業化の道に入ったのだろうか。

ドラマ「高校教師」に憧れ農大へ

宮田さんと安部さん

共同代表の宮田さん(右)と安部さん(左)

「もともとドラマの『高校教師』に憧れて、女子高の教師になりたかったんです」。宮田さんはこう語り出した。進学した東京農業大学では迷うことなく教職課程を取った。ただ、教育実習の期間中に教職の現場に違和感を覚えたことから方向を転換。代わって目指したのは「農村の教師」になることだ。
「安心院をはじめ農村の魅力を消費者に伝える教師になろうと思ったんです」
卒業後は実家に戻り、祖父と父とともに安心院にある4ヘクタールの園地でブドウを作る。同時にジュースやジャムの製造を始めて、売れ行きを伸ばしていく。そこには季節を問わず安心院を知っておいてもらいたいという思いがあった。

4Hクラブで芽生えた地域への思い

一方、安部さんは高校卒業後に農研機構・果樹研究所ブドウ・カキ研究拠点で2年間の実技の研修を受けた後、実家で就農。祖父と父とともに2.5ヘクタールでブドウを作ってきた。
2人が出会ったのは、若い農家が交流する全国農業青年クラブ連絡協議会(以下、4Hクラブ)の宇佐地方の支部。ここで安部さんに一つの思いが芽生えた。
「4Hクラブでの活動で地域の多くの人と触れ合うなかで、園地が耕作放棄地になることや農家が儲からないという状況を何とかしたいなって思うようになったんです」

転機となったのは4Hクラブが毎年開く全国大会でのプロジェクト発表。安部さんが発表したプロジェクト名は「仲間で起こす農村イノベーション ~ブドウ編~」。一年を通して地場産の干しブドウを売ることで、安心院産ブドウのブランド力の向上を図る事業の内容を発表したのだ。

安部さんはその本気度を示すため、全国大会の前年の2012年に農産物の生産と加工、販売を手掛けるドリームファーマーズを宮田さんらと創業。県の補助金を活用した加工場で製造した干しブドウを関東地方で試験的に販売し、事業化に手ごたえを感じていた。それらの内容をまとめた発表は、全国大会で最高の栄誉である農林水産大臣賞を獲得することになる。

「そこからは急速に進展していきました」
安部さんがこう語るように、干しブドウは予期していた以上に売れた。初年度の目標の売り上げは100万円。それが蓋(ふた)を開けてみれば400万円に達した。地元の観光施設や旅館などでも扱いたいという声が上がり、いまでは2000万円以上を売り上げている。

最高の素材を使う

干しブドウ

4Hの全国大会の発表で安部さんに干しブドウを提案したのは宮田さん。その宮田さんに売れた理由を尋ねると、次の答えが返ってきた。
「最高の素材を使っているから。うちの干しブドウの原料は規格外品だけど、ただの規格外品ではない。完熟させたブドウの中で粒が取れたり傷がついたりして、市場に出荷できないものを使っています。甘さは申し分なく、青果で出荷しても十分においしいと言ってもらえるものなんです」

おまけに添加物は一切使わない。過度に乾燥させ、腐敗を防ぐだけだ。水分率をどの程度まで落とすかを確かめる実験は何度も繰り返した。「ブドウ農家だからブドウはいくらでもある。それだから実験がたくさんできたのが良かったですね。開発するまでに40トンくらいは捨てましたから」(宮田さん)

課題は商品の絞り込み

創業後はしばらく加工品といえば干しブドウだけだった。そこにジャム(コンポート)やジュースが段階的に加わっていったのは、自社で農園を持ち、収穫できるようになった4年前から。
目下の課題は商品数をいかに減らすか。同じ商品でも顧客の求めに応じて包装のデザインを変えたことで、60種類を超えるまでになった。

「個人の農業経営は儲かっているといえるんですが、ドリームファーマーズはそうでもない。新しい農園を買うに当たって15年の事業計画を立てたところ、ドライフルーツをいまの価格で売っている限り、ギリギリの経営になりそうなんです。だから経営をスマートにしないといけない。商品数については絞っていきたい。個々の取引先ごとにデザインや量を変える対応をしてきた結果、すごく多くなってしまったので」(安部さん)
同時に手掛けるのが「体験」を売ること。次回はドリームファーマーズのSNSを活用した次なる仕掛けに迫る。

ドリームファーマーズJAPAN

関連記事
6次産業化に挑戦したい人へ。先駆者が語る「6次化を始める条件」とは
6次産業化に挑戦したい人へ。先駆者が語る「6次化を始める条件」とは
トマトの育種から販売まで一気通貫の経営スタイルで、6次化の成功例として評価される株式会社にいみ農園(愛知県碧南市)。保険会社勤務からトマト専業農家に嫁いだ現社長の新美(にいみ)みどりさんが農業に携わってみての第一印象は、…
「農家のため」の6次産業化【ゼロからはじめる独立農家#13】
「農家のため」の6次産業化【ゼロからはじめる独立農家#13】
6次産業化という言葉もかなり定着してきました。しかし本当に農家のためになっているのでしょうか? 一歩間違えると「国破れて山河あり」ならぬ「農家つぶれて加工場残る」になっていないでしょうか。手段と目的。あらためて考えてみま…

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

タイアップ企画

カテゴリー一覧