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きこりって実在するの? 林業の仕事を体験してみた

きこりって実在するの? 林業の仕事を体験してみた

国土の7割が森林という国に暮らしながら、あまり身近ではない林業。実はよく知らない熊本の林業について知りたい。そんな思いから、今回は、インドア系20代男子ライターが熊本県の菊池森林組合へ行き、仕事を体験してみることに。林業従事者と言えば「きこり」か? その程度の認識で出かけてみた。

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きこりって絵本の世界の話じゃないの?

ウッド感が漂う菊池森林組合の前に立つしゅん

熊本の地域メディア「肥後ジャーナル」のライター「しゅん」がラフすぎる服装で取材に訪れたのは、熊本県菊池市の「菊池森林組合」。熊本県に15ある森林組合のひとつで、菊池市・大津町・菊陽町・合志(こうし)市が対象地域となっている。

代表理事専務の藤崎岩男(ふじさき・いわお)さん、森林整備課長の宮崎修(みやざき・おさむ)さんに話を聞いた。

森林組合の仕事について身振り手振りを交えて説明する宮崎さん(左)と、藤崎さん(右)

しゅん「初めまして! 肥後ジャーナルのしゅんと申します」
宮崎さん「森林整備課長の宮崎です。好きなスギは『リュウノヒゲ』です」

斬新な自己紹介に動揺しながらも、果敢に攻めるライターしゅん。

しゅん「今日はきこりの取材に来ました。僕きこりになりたいです!
宮崎さん「わかりました。最近はきこりとはあまり言いませんが、とりあえず現場に行ってみましょう」
しゅん「まさかのOK出た」

森林組合は、森林所有者の出資により運営されている非営利団体。
所有者からの依頼を受けて森林の管理や調査を行い、必要に応じて間伐して出荷などの業務にもあたる。私有林のほか、県や市の所有する森林に関する作業も受託している。

2021年3月現在、菊池森林組合の職員は約30人。加えて整備班と呼ばれる現場作業員も約20人在籍している。

とりあえず、きこりになってみた

現場は菊池市内の山林

5ヘクタールほどの広さを持つ現場へ向かった。

きこりになりたいと言いつつも、古着のブルゾン、スキニーパンツにスニーカーという、全力で林業をなめているとしか思えない服装のしゅん。

ヘルメットもボトムカバーもオレンジ色で、遠くからでも目立つ

整備班の班長に「その髪型、葉加瀬太郎が来たのかと思った」と突っ込まれつつ、チェーンソーの刃から身を守るためのボトムカバーとヘルメットを装着させてもらった。

宮崎さん「地(じ)ごしらえと言って、伐採した木の枝などを取り除き、整地する作業をします」
しゅん「木を切るわけではないんですね」

地ごしらえの作業風景

急斜面に立ち、重機の届かない場所に落ちている枝などを拾い、放り投げて下に落としていく。普段はデスクワークのしゅんには、斜面の移動だけでも大変だ。

整備班は毎日木を切っているわけではない。木を切るのは、数多くある作業のごく一部だ。

植え付けを終えたスギの苗木

寒い季節に地ごしらえを行い、春には新しい苗木の「植え付け」に移る。季節ごとの作業があり、どれも大切な工程だ。

最も大変なのは、夏場の「下刈り」。
まだ小さな苗木が雑草に覆われて育たなくなるのを防ぐため、暑い中で雑草を刈り取る。苗木を守るため、除草剤は使えない。
炎天下でも、刈り取り機を用いての人力作業となる。間違って苗木を刈らぬよう慎重に進めなければならない。この下刈りシーズンの過酷さに耐えきれず、辞めてしまう若手も多いという。

軽々と持っているチェーンソーだが、実際はずっしりと重い

地ごしらえの作業中、大きめの枝はチェーンソーでカットしてから扱う。

しゅん「きこりっぽくてかっこいい! 僕もチェーンソー使ってみたいです!」
宮崎さん「ちょっとだけですよ」

チェーンソーを持って斜面に立つだけでも緊張する

チェーンソーは想像以上に重い。急斜面で抱えて作業するのは、なかなかの重労働だ。

先輩の手ほどきを受け、恐る恐るチェーンソーで木を切ってみる

危険を伴う作業のため、すでに切り株状態の木を切らせてもらった。
先輩の手ほどきを受けながらでも、まっすぐに刃を入れるのは難しい。力が入りすぎたせいか、斜めに切れてしまった。

森林組合の仕事はきつい? 収入面は?

重機の入れない急斜面では手作業に頼る

夏は暑く冬は寒く、危険と隣り合わせの仕事でありながら、報酬は決して多くないのが林業に携わる人たちの悩みだ。高卒の作業員などは、一人前でない点を考慮しても給与は低めだ。森林を守るという公益性の高さも、あまり知られていない。

一方で、林業先進国であるドイツやオーストリアでは、林業従事者は尊敬される存在だという。ドイツでは「フォレスター(森林官)」と呼ばれる専門の公務員も活躍している。

日本でも何らかの制度が作られ、社会的地位の向上につながればと考えている関係者は多いが、現状は追いついておらず、危険に見合わない給与には不満がたまりやすい。

しゅん「森や山が好きでも、炎天下の草取りは厳しいですよね。給料安いなって思っちゃうかもしれないです」
宮崎さん「はい。荒れ果てていた森が美しく再生した風景や、森林所有者に喜んでもらうことだけがモチベーションという人も多いかもしれません」

今後の林業の在り方

スギやヒノキの苗木は専門業者の手で大切に育てられている

植え付けた苗木が大きく育ち、伐採されるのは孫の代ほどになってからのこと。

スギやヒノキは、植え付けて40〜50年後に伐採時期を迎える。大きな木を切って倒し、運び出す作業は、数十年サイクルで循環する林業のごく一部でしかない。 何事も長いスパンで考える必要がある。

月に2度開かれる市場のために集められた木材

また、機械化が進んでも重機の入れない箇所もあり、まだまだ地道な手作業は多い。

林業従事者は長期的に減少傾向にあり、高齢化も進んでいる。若者の確保は、大きな課題だ。

熊本県では「くまもと林業大学校」を設置。毎年8月ごろに開催される就職イベント「森林(もり)の仕事ガイダンス」でも、広く門戸を開いている。ガイダンスでは林業の仕事の紹介や就業までの流れについての相談会を行い、林業に興味を持つ人を受け入れる窓口となっている。

しゅん「軽い気持ちで来たけれど、きこりハンパないっすね。林業かっこいい。」

林業はかっこいい。そんな若者たちが一人でも多く就業し、持続可能な林業を受け継いでいくことを願わずにいられない。

編集後記

宮崎さんの「推しスギ」の林

取材の最後に立ち寄ったのは、宮崎さんが管内に生えているなかで一番好きだという「推し杉林」。
空に向かってまっすぐに伸びるスギが整然と並ぶ。この静寂に包まれた美しい森を守り、維持するのが林業だ。

菊池市周辺は、阿蘇山を源流とする菊池川が流れ、良質な湧水も豊富な土地だ。美しく強固な森林によって、阿蘇の山々は守られ、熊本県内の多くの人々の生活を支えている。

ふざけた取材に真摯(しんし)にご対応くださった菊池森林組合に感謝するとともに、林業関係者はもっともっとリスペクトされていいと思った。

林業は、控えめに言って最高にクールだ。

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