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いまさら聞けない「農協」とは【第1回】~協同組合ってなに?~

いまさら聞けない「農協」とは【第1回】~協同組合ってなに?~

日本農業を理解するうえで避けては通れない「農協」。なんとなく知っているつもりではいるけど……。農業に携わる人も、これから農業を志す人も、押さえておきたい基本をやさしく解説します。第1回は、なぜ農協は「協同組合」なのか?について。

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登場人物

まりっちnormal まりっち
食いしん坊が高じて、農産物を売るベンチャー企業に入ってしまった新入社員。
社長 社長
農産物を流通させるベンチャー企業を経営している。最近の悩みは社内で威厳がないこと。

協同組合のいろいろ

(ある日、仕事の合間のランチで)

まりっち

この定食屋さん、「JA○○」のお米を使ってます、って書いてありますね。そもそもJAとか農協ってなんですか?
え、いまさらだなあ。そんなことは自分で調べなさい。

社長

まりっち

えー。社長って意外とケチなんですね。
く……。じゃあ、ちょっとだけ……。まず、農協(JA)って、何の略だと思う?

社長

まりっち

農業……協同組合……?
そうだね。そしたら、「協同組合」ってなんだろう?

社長

まりっち

う~ん?
「農協」を理解するために、まずは協同組合とはなにか、というところから話をしようか。
協同組合は、じつは生活のまわりにもいろいろあるんだよ、農協以外にもね。

社長

まりっち

あ!生活協同組合とか、漁業協同組合とか聞いたことあります!
そうだね。まりっちは、大学に入ったときに大学生協って使わなかった? もし使っていたら、まりっちも大学生協の組合員の一人だったはずだよ。

社長

まりっち

大学生協の食堂でランチ食べてましたけど。いつのまに私、組合員になってたの……。
それから、よくCMをやっている「県民共済」や、金融機関の信用金庫といったものも協同組合の仲間だね。広義の協同組合にはこんなものが含まれるよ。
(下表)

社長

(1次産業) (消費者)
漁業協同組合、森林組合、農業協同組合 生活協同組合(コープ、大学生協など)
(金融) (商工業)
信用金庫、信用組合、共済(県民共済や全労済など) 商工組合、商店街振興組合
ちなみに、地域ごとに個別の組織だという点にも注意が必要だね。「生協」という看板を掲げていると、統一された経営母体があるのかと思いがちだけど、「A生協」と「B生協」はそれぞれ独自に活動しているんだ。「C信用金庫」と「D信用金庫」がそれぞれ独立した組織なのと同じだね。農協は全国組織があるからやや事情は複雑だけど、でも地域ごとに独立していることに変わりはないよ(※)。農業界を知らない人からすると、「農協」はぜんぶひとくくりにされちゃうけど、実際には経営スタイルは地域によってかなり異なるんだ。

社長

※ 現実に、全国組織である全農と取引をしていない総合農協もある。
なお、マニアックな話だが、この会話での「農協」は、一般に「総合農協」と言われる農協を指している(メディアがJAと言うとき、多くの場合は総合農協を指す)。対して「専門農協」が別の概念としてあり、いわゆるJAグループに属していない場合が多い。つまり、ひと言に農協と言っても多種多様である。

One for all, all for one.

まりっち

協同組合は結構、身近にあるんですね。農協以外にも。
日本では、1900年には法制化された組織の形(法人形態)だよ。戦争もあって、いろいろ変遷はあったんだけどね。
協同組合はもともと19世紀にドイツのライファイゼンって人が唱えた組織の形なんだけど、彼は、One for all, all for one(ひとりはみんなのために、みんなはひとつの目的のために)(※)という言葉をよく使ったらしいよ。

社長

※ 「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」という訳が広く使われているが、最後のoneは「ひとつの目的」が正確という解釈もある。

まりっち

あ、なんか聞いたことあります。ラグビーのドラマで聞いたような?
ざっくりと言えば、助け合って一緒にやろうってことなんだけど、農協に限らずどんな協同組合も、ドライな資本主義や弱肉強食の考え方だけだとちょっとつらいよね、っていうところから生まれてきてるんだ。
小さいもの同士が集まって対抗しようということだね。農業でいえば、ひとつひとつの農家の経営単位は小さいから、助け合う必要があったし、一緒に肥料を買ったり、一緒に農産物を販売したり、そういう必要性から生まれたんだ。
協同組合的な考え方っていうのは、仲間うちは「相互扶助」、外の経済や団体に対しては「数で対抗」が基本だ。これは農協以外の協同組合も同じだよ。

社長

JAの利点

まりっち

なるほど! 「赤信号、みんなで渡れば怖くない」って感じですね。
ちょっと違う気もするけど、まあ、いいか。
組合は、それを作りたい人たちがお金を出し合う、つまり出資をして、作ったあとの運営はみんなで話し合って決める。基本は1人1票。お金を出した人を「組合員」と呼ぶ。農協では農家さんがお金を出して作っているから農家さんが組合員ということだね。

社長

株式会社と協同組合

株式会社 協同組合
誰が持っているのか? 株主 組合員(農協は農家)
誰に決定権があるのか? 株主にあり、出資額が多い方が発言権が強い 組合員。組合員同士は平等(1人1票)
配当 あり あり(制限あり)
利用者 不特定多数 組合員(例外あり)
営利目的の事業 OK NG

まりっち

この表だと、営利目的はダメってことですけど、利益を出してはいけないんですか? JAの直売所もいろいろな広告を出してますけど、本当はダメなんでしょうか。
そういうことではないよ。法律のうえで、「営利目的の禁止」というのは、黒字をどんどん出して、配当とか賞与をどんどん増やそうっていう方向はダメ、という意味なんだ。事業を継続するために黒字を出していくのは、当然ながら必要なことだよ。

社長

まりっち

なるほど。協同組合の場合、利用者が組合員となってますが、「例外あり」というのはどういうことですか? 私は組合員じゃないですけど、信用金庫のATMを使えますし、生協のお店は普通のスーパーと同じように使えますよね。
確かに一般市民からすると、協同組合と株式会社は見た目があまり変わらないかもしれない。協同組合は、その事業を利用する人を組合員に限るのが原則ではあるんだけど、意外と例外は多いんだ。さっきも言ったように、黒字にならないと事業を継続できないという事情もあるからね。
たとえば、農協がやっている「JA共済」は農家さんでなくても利用できるよ(※)。

社長

※ ちなみに、農家ではないが事業を利用する人を、農協では「准組合員」というカテゴリーに入れる。複雑になるので本稿では詳しくは触れない。

一番大事な点は、協同組合と株式会社は、やっている事業は似たようなことでも、仕組みとしてはかなり違っていて、協同組合は、組合員が重要なことを決める。つまり、農協でいえば、農協の持ち主は農家さんってことになってるんだ。

社長

産地の広い圃場

農協のオーナーは農家さん自身

まりっち

うーん。たまに、農協と農家さんがバチバチ闘っている、みたいな記事を見ます。でも、農家さんが農協のオーナーなんですよね。なのに闘うんですか?
その観点は大事だね。農協は農家さんの持ち物だから、基本的には農家さんのために動くし、大事なものごとを決めている理事は農家さん自身がなるのがふつう(※)。課題はいろいろあると思うけど、そのことを理解せずに表層的なところだけをとらえても、建設的な議論にはならないと思うな。

社長

※ 農協の場合、理事の3分の2以上は組合員でなくてはならない。

まりっち

株式会社では、株主がオーナーということになりますね。株主の利益のためにあるのが株式会社ということですか?
そうだね。でも、株式会社も公共性や地域貢献を重視している会社はたくさんあるから、株式会社がみんな私利私欲に走っているわけではない。その点は注意しないといけないけどね。ただ、株式会社はたくさん出資している人、とくに過半数を出資している人の言っていることは止めにくい仕組み。一方で協同組合は、さっき言ったように、みんなが1人1票を持って話し合うから、特定の人の私利私欲のために組織が使われることは起こりにくい組織形態と言えるね。

社長

まりっち

株式会社は、株主がみんな配当を期待していたとしたら、儲かりそうなことしかできないということですね。
その通り。たとえば農協のケースでは、過疎化が進んでいる島に農協が経営しているガソリンスタンドがあって、やはり赤字が続いて一度は撤退を決めたんだけど、それでは地域の生活が成り立たなくなってしまうという声が組合員からあがって、継続することになったこともあるそうだよ。

社長

まりっち

なるほど、大規模チェーン店は、赤字だと簡単に撤退してしまいますよね。うちの地元でも……。過疎が進んでいる地域も多いですけど、地域の人たちで支え合ってどうにかするっていうのは、協同組合の考え方のひとつ目、「相互扶助」ってことですね。
そうだね。マスコミの報道では、中山間地域や過疎地域での農協のサービスはあまり注目されていない気がするね。そしたら、もうひとつの協同組合の基本的な考えはなんだっけ?

社長

まりっち

「外に向けては『数で対抗』」でした。
じゃあ、具体的に「数で対抗する」というのはなんなのか。いろいろあるけど、一例としては、複数の農家さんの商品を一緒に出荷することで、市場での交渉パワーやブランド力が期待できるってことだね。

社長

まりっち

ブランド力のある地域農産物って、たくさんありますよね!あのイチゴも、あの牛肉も、あのお米も、あと、あれもこれも……。ああ、興奮が止まりません!
あはは。そうしたブランドづくりは農協が担っていることが多いんだよ。そのあたりの、農協が具体的にどんな仕事をしているのは、次の機会に話すことにしよう。

社長

まりっち

ありがとうございました! 社長ってケチじゃなかったんですね! そして、物知りですね!
持ち上げてくれてありがとう。でも、ランチはおごらないけどね。

社長

まりっち

えー。

(第2回につづく)

以下、本日のまとめ。

  1. 農協は協同組合のひとつの形。協同組合は農協以外にもたくさんある。
  2. 農協は個別性、多様性がある。「農協」とひとくくりにするときは注意が必要。
  3. 農協のオーナーは農家だ。
  4. 協同組合は、One for all, all for one(ひとりはみんなのために、みんなはひとつの目的のために)が基本だよ。その意味するところは、仲間うちは「相互扶助」、外に対しては「数で対抗」だよ。
  5. 「数で対抗」の一例として、農産物のブランドづくりがあるよ。

【参考文献】
「新 明日の農協 歴史と現場から」(太田原高明著/農文協)
「地域を支える農協」(高橋巌編著/コモンズ)
「JAの仕組み~協同組織を学ぶ~」(JA北海道中央会Webサイト)
【監修協力】
須藤金一(JA東京青壮年組織協議会 委員長)

第2回 農協の本質は「数で対抗」
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