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30年後の農業ビジョン「みどりの食料システム戦略」とは?有機農業やスマート技術が肝に

伊藤 雄大

ライター:

30年後の農業ビジョン「みどりの食料システム戦略」とは?有機農業やスマート技術が肝に

2021年3月、農林水産省から「みどりの食料システム戦略」という、これからの日本の農業をどうしていくかについて、30年先を見据えたかなり長期的なビジョンが発表されました。果たして、その内容は?

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「みどりの食料システム戦略」とは?

「みどりの食料システム戦略」は、「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現させるため、中長期的な観点から戦略的に取り組む政策方針」とされています。
農林水産業全体の生産力を、持続可能性と矛盾することなく高めていくことを目標としており、2030年まで、2040年までと10年ごとの達成目標が設定されています。
最終的には「2050年までに目指す姿」が具体的に示されており、30年後の農業の方向性を見据えた、長期的かつ大胆な戦略となっています。

「みどりの食料システム戦略」が目指す30年後の農業とは?

では、「みどりの食料システム戦略」が目指す30年後の農業とは一体どのようなものなのでしょうか?
農業に関わる項目を抜き出すと、目標として設定されているのは、主に以下の4つです。

「みどりの食料システム戦略」の目標

  • 農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現
  • 低リスク農薬への転換、総合的な病害虫管理体系の確立・普及に加え、ネオニコチノイド系を含む従来の殺虫剤に代わる新規農薬等の開発により化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減
  • 輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減
  • 耕地面積に占める有機農業の取り組み面積の割合を25%(100万ヘクタール)に拡大(国際的な有機農業の基準で)

現状の日本の有機農業というと、2017年時点で、耕地面積当たりの有機農業の取り組み面積(有機JAS認証取得面積のみ)は0.2%程度にとどまります。有機JAS認証を取得していない面積も含めると0.5%。これに市民農園や家庭菜園なども含めるともう少しは増えるでしょうが、おそらく微増する程度でしょう。

これに対し、化学農薬や化学肥料の使用量を低減するなどして、結果的に有機農業を耕地面積の25%まで拡大するというのです。これは、相当意欲的な目標です。

ねらいは、環境保全のほか、農産物輸出の拡大もあります。
EUの「Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略」など、有機栽培が進む世界各国に足並みをそろえつつ、世界でも戦えるような、国際基準の輸出農産物をつくる。つまりは、有機農産物を軸に据え、環境保全と矛盾することなく農業経済を活性化させようというビジョンで、政府としてはそれを実現するための技術開発や支援政策をしていくことになるでしょう。

地域資源活用と、スマート技術の開発・推進が軸か

この壮大な目標をどうやって、具体的に実現していくのでしょうか。
全体としては、これまで日本の農家が実践してきた昔ながらの手法と、AI活用や新薬開発などを両輪として行っていくようなイメージです。以下に挙がっているようなものが、今後、重点的に研究開発されたり、支援政策が行われたりすると推測されます。

化学農薬の低減

家庭菜園でもおなじみの防虫ネットや、イネの種もみの温湯消毒、天敵活用など、現在も当たり前に実践されている技術のほか、目新しいところでは、ドローンで害虫の位置を特定してその部分だけ農薬を散布する「ピンポイント防除」、除草の手間を省力化するための「除草ロボット」小型レーザーによる殺虫技術などが挙がっています。
また、化学農薬使用量は50%低減するとありますが、これは単純に量を減らすというのではなく、農薬による環境的・人体的リスクを考慮した「リスク換算」での数値を50%低減するというものです。リスクの低い新しい農薬や、ミツバチなどに影響を及ぼすとされ世界的に問題となっているネオニコチノイド系農薬の代替品なども開発されていくようです。

化学肥料の低減

家畜のふんの活用、緑肥による地力増進などのほか、これまであまり利用されなかった汚泥などの地域資源を肥料的に活用する方法も検討されていくようです。賛否両論ありそうなところでは、「肥料吸収効率の高いスーパー品種の育種」というのもあります。

30年後の農業をどうしたいか、家族や仲間と話し合おう

いまある日本の自然環境や、自然豊かな農村環境は、政治家や活動家ではなく、農家一人一人の日々の労働によって維持されてきました。それと同じように「みどりの食料システム戦略」を実際に実行するのは農家です。

戦略の中に組み込まれている項目には、おそらく補助金や支援政策が組み込まれていくはずです。
AIなどの最新設備を取り入れるのは小さな農家には難しいかもしれませんが、たとえばいままで使っていたビニールマルチを生分解性マルチにしてみたり、包装用の防曇袋を新聞紙に変えてみたり、あるいは緑肥や堆肥(たいひ)をまいてみたり、日々の忙しさに追われて、これまでチャレンジしにくかったことから始めてみるのがいいかもしれません。
なにも、いますぐ焦る必要はありません。30年後にどんな農業をやっていきたいか、じっくりと、家族や地域の人たち、周囲の仲間たちと話し合い、少しずつ変えていくきっかけになればいいと思います。

【参考】
みどりの食料システム戦略(農林水産省)

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