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人工授精師に聞いた! 牛飼いを支える仕事と現場のリアル

人工授精師に聞いた! 牛飼いを支える仕事と現場のリアル

牛飼いにとって欠かせないのが牛の種つけ。それをするのが「人工授精師」という職業。雄牛の精液を使って雌牛に人工授精する仕事だ。
「授精師ってどんな仕事?」「どうやったらなれる?」など、授精師のアレコレを聞くために、兵庫県北部にあるJAたじまで働く人工授精師歴7年の高木雪華(たかぎ・せつか)さん(31)を訪ねた。

人工授精師は「神秘的な仕事」

兵庫県但馬(たじま)地域は、日本全国の黒毛和牛の血統の元祖「但馬牛(たじまうし)」の産地。但馬牛の中で厳しい基準をクリアした牛があの有名な神戸ビーフになることもあり、熱心に牛を育てる農家が多い地域だ。
高木さんは、その由緒ある地域にあるJAたじまで、競り市の管理や子牛の登録管理など幅広い業務を担当している。中でも業務のメインである授精の仕事では、テキパキとした作業や牛の扱いがうまいことで地域の農家から頼りにされている。

高木雪華さん

高木雪華さん

高木さんが授精師になったきっかけは中学生までさかのぼる。職業体験で但馬牛を育てる牧場を選び、産まれて間もない子牛と触れあったことで牛の仕事への興味が湧いたという。農業高校畜産課から、校内で肉牛を飼っているという宮崎大学へ進学。学生の間ずっと牛に触れ続け、いざ就職するとなった時に、牛に関わる数ある職業の中で人工授精師を選んだ。

「自分が種をつけたら牛が産まれる。とても神秘的な仕事だと感じました。やってみたいなあと思いました」(高木さん)

授精師の資格は国家資格。
高木さんの場合、大学で必要な授業を履修すれば授精師の資格が取得できたという。

ちなみに、農業系の大学を卒業していない人が授精師になるにはどうしたらいいか?
「家畜改良増殖法」に基づき、各都道府県や民間企業が開催する講習会に約1カ月通い、試験に合格すると免許がもらえる。兵庫県の講習会は隔年開催で30人の定員。開催頻度、定員は地域によって変わってくるので興味のある人は地域の開催要項を確認してみてほしい。

家畜人工授精に関する講習会(農林水産省)

さて、授精師になろうと地元のJAに就職した高木さん。最初は別の課に配属になったが、4年後に念願かなって畜産課に異動。いよいよ授精師として活動し始めたのは25歳の時だった。

但馬牛の子牛

競り市に出される但馬牛の子牛

現場経験は必須! 経験と技術がものをいう仕事

「大変だったのはここから」と苦笑いする高木さん。

授精師は大学の授業を受けていたため取得できた資格。意気込んで現地に行ってみたものの、授精の仕方が全くわからない。牛の体の中に手を突っ込もうとしても、まず手が入らない。入っても力の加減がわからない、どこまで手を入れていいかもわからない。入った先で何をしたらいいかもわからない。

「それもそのはずですよね。大学では実習は数えるほど。無からのスタート。この時期が一番しんどかったです」

高木さんは当時をそう振り返る。種をつけると言っても、その作業はとても複雑で経験と技術がいる。牛の体の中での作業なので先輩に口でアドバイスをもらっても限界がある。自分の手の感覚でコツをつかまないと始まらない。ベテランの先輩について回り、見よう見まねで挑戦すること2カ月。ようやく「コレかも!?」というコツをつかみはじめ、授精師としてひとり立ちできるようになった。
「私にもできたので、数をこなせば誰にでもできる職業だと思う。けど、そのためにはそれなりの覚悟、やる気と根気はいると思います(笑)」

現場回りに同行!

さて、今回はそんな高木さんの種つけ巡回に同行させてもらった。高木さんは、農家から「牛が発情している」と電話をもらったら、その翌日に種つけに行く。

高木さんが乗る車の中

高木さんが乗る車には、授精に使う道具が整理されて積まれていた。いろんな雄牛の冷凍精液が入ったボンベをはじめ、現場で使う使い捨ての手袋や、長靴などなど。

今日種つけするのは、地域でいい牛を作ると評判の農家の母牛。さっそく種つけ開始!

膣鏡で膣の中を覗く高木さん

膣鏡(ちつきょう)で発情適期かをチェック

まず、牛がちゃんと発情しているかを改めて確認。膣鏡という道具を使い陰部を観察。子宮の入り口や粘液の状態を見て発情がきているか、そろそろ排卵するかを判断する。

「適期を間違えると種つけしても子ができないことになる。発情の見極めは重要な仕事」と高木さん。

発情適期と判断したら、牛の体に腕を突っ込み、精液注入器という大きい注射器のような道具を使って雄牛の精液を母牛の子宮に注入し、種つけ完了となる。

高木さんの種つけはあっという間の作業で、写真を撮るのに焦ってしまうくらい。でもこのスピード感が「なるべく牛に負担をかけたくない」と思っている農家にとってはありがたい。

高木さんはこの種つけを1日に何頭もする。この地域では特に春に種つけが集中し、その頃になると一日中車を走らせ、多くて1日7〜8軒の農家を回り、20頭ほどの母牛に種つけをするという。

自分がつけた子が産まれ、競り市に出てきた時は感動!

授精師をはじめて7年。
「最初の頃より授精にかかる時間が短くなり、スムーズに種つけできるようになりました。これまで種がつかなかった母牛に種がついたと聞くとうれしい。やっててよかったなあと思うのは、自分が種つけした子が産まれて競り市に出てきた時。やりがいを感じます」と高木さんは話す。

高木さんの永遠の課題は「受胎率の向上」だ。
発情の適期を見極めるだけでなく、授精が成功するよう母牛の体型管理から農家に提案したいと思っている。母牛の体型によって種がとまりやすい(種がつきにくい)ケースがあるためだ。

「しんどかった時期があるから、これからは何でもできる、やればできるって思います」

高木さんは、今後さらに授精師として地域の牛飼いを支える存在になっていくだろう。

最後になるが、この地域ではJAが雄牛の種の管理をしているため、高木さんのようにJAに授精師が集まる。これは地域によっていろいろで、個人の人工授精所に所属する人、牛飼いをしながら時々授精師として働く人と、形はさまざまだ。授精師の免許を持っていれば自分の牛の種つけもできる。授精師の免許をとって、自分にあった働き方を考えてみるのも面白そうだ。

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