「メタボな畑」がもたらす悪循環
足立区の閑静な住宅地を歩いていると、突如として畑とハウスがあらわれました。まさに、ポツンと一軒屋の逆転現象。代々農業を営んできた横山家の畑です。
現在は横山家13代目の横山辰也(よこやま・たつや)さん(39歳)が、父と母、妻と協力しながら60aの畑を引き継いでいます。メインの野菜はワケギと季節の野菜。豊洲市場に出荷し、料亭などで使われているそうです。
見せてもらった横山さんのワケギは、ころっとした白い根元に、傷ひとつない若々しい葉っぱ。これだけ美しいものをつくるには大変な苦労があったようです。
「夏場のワケギ栽培は非常に難しく、株が弱ってくると葉っぱがクシャクシャになるんです。そんなふうに育ちが悪くとなると肥料をやって解決をしようとしていました。すると、肥料過剰になって、ますます生育が悪くなっていく。だから、また肥料を足す。つまり、悪循環になっていたんです」と横山さんが昔を振り返ります。
もう一度、土を見直す
肥料で「メタボ」になった畑では病気や害虫が頻発しました。ワケギで特にやっかいなのが、青い葉っぱにかすり状の傷をつくるスリップスと、サビのような茶色い斑点がつくサビ病。こうした食害や病気が出ると出荷できなくなってしまいます。
「だから、週に2〜3回も防除していました。農薬がつきやすいように展着剤を入れたり、害虫に抵抗性が出ないようにローテーションを考えたり……。それを繰り返しているうちに、もう、なんか、イヤになっちゃいました」と、横山さんが苦笑いします。
父親から畑を引き継いだ横山さんは、あらためて「土」を見直すことにしました。
土壌の酸度をみるpH計や、残肥の具合をはかるECメーターを取り入れたり、仲間たちと勉強会に参加したり、様々な資材を試してみたり……。
そんななかで、横山さんが効果を感じているもののひとつが、「竹」と「カニ」を主体にした資材だといいます。一体、どんなものなのでしょうか。
サラサラっとまくだけで、サビ病が出なくなった
その資材とは、「肥料と土の勉強会」でたまたま知り合った東京の肥料屋さん・大栄物産株式会社の社長・野呂義崇(のろ・よしたか)さんから紹介された『竹カニ合戦』。その名のとおり、粉砕した竹とカニ殻を混ぜて好気発酵し、有用菌がたくさんいる酵素で醸した土壌改良材だそうです。
なんだか奇妙な取り合わせのように感じますが、横山さんにはピンと来たようです。
「竹にたくさん含まれるケイ酸は生育にいいと聞くし、カニ殻もいいことは知っていて、よさそうだなぁと思いました」。
資材の効果がよくわかると案内してくれたハウスには、手を伸ばしても先端の雄花に届かないほど、立派なトウモロコシが植っていました。過去最高の生育だそうです。
「ここには、こんなふうに竹とカニの資材をまいたんですよ」と横山さんがトウモロコシの株元に散布してくれます。
驚くことに、ほんのわずかな量をサラサラっと表面にまく程度。思わず、「たったこれだけで、そんなに効果がありますか!?」と、ちょっと失礼な質問をぶつけてみました。
「僕も不思議なんですが、まいたところにフワっとした菌が増えて、トウモロコシの細かい根っこが張っていくんですよ」と横山さん、それがいい効果をもたらしているのではないか、と感じています。
竹とカニの意外な関係
この肥料の開発に携わった野呂さんによると、竹粉とカニ殻には共通点があるそうです。それは、どちらも微生物の大好物だということ。
発酵させる資材(ミラクル酵素)にもともと含まれている放線菌が畑に定着し、竹粉とカニ殻をエサにしてドンドン増えていくと、土の中にいる作物に悪さをする菌を分解してくれます。
「竹カニ合戦に使われている菌自体も、スゴい菌だと思うんですよ」と横山さんが付け加えます。
横山さんが感心したのは、その分解力でした。いつもは収穫残渣を積んで約1年かけて堆肥にしていたのですが、「ミラクル酵素」を投入するとそれがたった1〜2カ月、ほとんど切り返すこともなく、堆肥化しているのです。
積んだ堆肥のニオイを嗅いでみると、都市農業でよく問題となる独特の発酵臭もなく、ほとんど無臭。中には、大量のミミズが元気よく働いていました。
いつもの肥料と土壌改良資材の見直しも
土壌改良剤である『竹カニ合戦』の効果には満足している横山さんですが、元肥や追肥として使っている肥料についてはまだ検討中。「なかなか、自分の考えている肥料や土壌改良資材が市販されていないんですよ」と横山さん、野呂さんにたびたび相談しているようです。
誰もがさまざまな条件の畑を持っているのに、近頃は各メーカーとも製造する肥料の銘柄を絞っており、ピッタリ合うという肥料にはなかなか出会うことができません。たとえば、横山さんの要望は「有機質が主体で、元肥に入れたら追肥をせずに済むような肥料」。
「できますよ」と、即答する野呂さん。じつは、大栄物産では、豊富で多種多様な肥料原料(無機質・有機質)の配合のノウハウを生かし、各農家の要望や、畑、作物にピッタリ合わせた肥料をつくる「オーダーメイド肥料」の製造もしています。最小ロットは50袋以上(1t以上)と、小規模農家でも気軽に注文できる量です。
「またお願いしようかな」と横山さん。それと同時に土壌改良資材として現代では貴重となった馬糞を原料にした馬糞堆肥の投入も検討し更に地力アップを目論んでおります。
野菜の病気を農薬だけで解決しようとするのではなく、基本に立ち返り、これまで使っていた化成肥料や資材を見直し、環境負荷の少ない資材を使用するためのアドバイスを野呂さんに求めた横山家の新しい農業は、新展開をみせています。
これまでの市場出荷だけでなく、お客さんと直接繋がる「庭先直売」も絶好調となり、その楽しい様子を丁寧にまとめた写真アルバムで見せてくれました。
「何度も農薬をまくのがイヤになっちゃった」から始まった横山さんの土づくりを主体にした農業は、これからも進化していくようです。
【取材協力】
■横山農園
東京都足立区
【資材や肥料に関する問い合わせ先】
■大栄物産株式会社
野呂義崇(ノロヨシタカ)
090-4550-3830(直通電話:月~金 9:00~17:00)
Email:daiei.noro@gmail.com
■有限会社井関産業
〒950-0813 新潟県新潟市東区大杉本町6-18-7
電話:025-250-3825
http://www.iseki-sangyo.com