日本一早い新米は石垣島から! 沖縄の稲作の特徴「二期作」に迫る
公開日:2021年06月02日
最終更新日:
全国の農家さんを渡り歩いているフリーランス農家のコバマツです。前回に引き続き、石垣島に来ています。ここ、石垣島では日本一早い新米が生産されているとの情報を得て稲作農家のもとを訪れました。更に、暑い気候を生かして、二期作が行われているとのこと。
島の稲作の歴史や、暑い島ならではの生産現場について取材してきました。
超早場米! 石垣島の米は6月に収穫
3月下旬ですが、この日の石垣島は26℃! 北海道では8月の気温ですけど! 南国ならではの日照りにコバマツはやられています。
暑さにバテ気味のコバマツ
稲作と言えば東北や北海道!と、広い土地を持ち、年間を通して寒暖差がある地域をイメージしがちです。
南の島でどうして稲作の取材をするのか?
なんと、石垣島では米の収穫は5月から始まるそうで、日本一早い新米が収穫される地域として密かに有名なのです。
私が今回取材のために石垣島の稲作農家さんにアポイントを取ったのが3月上旬頃。
電話の向こう側では「ちょうど田植えが終わったから、植えてあるところが見られますね」とのこと。
3月上旬に田植えが終わっているだと……?
確かに3月現在とっても暑いけれども、石垣島は一年を通してどのような気候なのでしょうか?
石垣島の気候は年間を通して20~30度ほど。5~6月は梅雨の時期で降水量が増すようです
たしかに、これだけ暖かければ作物は十分に育ちそうです。
しかも、日本一早いだけではなく、この温暖な気候を生かして米の二期作も行われているそうです。
北海道民のコバマツにとっては「?」が深まるばかりです。
石垣島の稲作について、実際に生産者の話を聞いてみることにしました。
下地良男(しもじ・よしお)さんプロフィール
さんだ農園代表。沖縄県石垣市出身。大学卒業後、サービス業などさまざまな職種を経験した後に実家で就農する。実家はもともとサトウキビ農家だったが、自身は米作りに憧れを持っており、25年前に縁あって1反(約10アール)の田んぼを譲り受け念願の米作りを始める。現在は、無農薬・無肥料でうるち米、黒紫米を生産し、石垣市内の個人やレストラン、八百屋などに販売している。
暑い石垣島でなぜ稲作?
下地さん
取材の前に、お腹すいたでしょう。うちでとれた玄米と黒紫米のおにぎりでも食べながらゆっくりお話をしましょう。
え!? そんな、出会って早々いいんですか!?
いただきます! コバマツ初沖縄産の米を食します!(早速いただく)
コバマツ
石垣島産の玄米と黒紫米のおにぎり。まぶしすぎる
!! とーーーってもおいしいですね! 久しぶりにお米のおいしさに感動しました!
ごめんなさい、亜熱帯地域のお米って、勝手に硬そうとか、食べにくそうとか、そんなイメージを持っていました……。
コバマツ
下地さん
本土の人にとっては沖縄で稲作をやっているイメージってあまり湧かないですよね(笑)。でも、石垣島でも本土に負けないおいしいお米作りができるんですよ。
出だしから石垣島のコメのおいしさに衝撃を受けて取材はスタートしました。
沖縄での稲作の歴史
お米の産地といえば、北海道や東北地方などが思い浮かべられますが、沖縄でも稲作が昔から盛んだったようですね! とっても意外です!
コバマツ
下地さん
昔の方が稲作は盛んでしたね。戦後のピーク時ではおよそ1万2500ヘクタール生産していたけど、それ以降は減少して、今ではピーク時の10分の1以下になっていますね。その中でも5割近くは石垣島で生産されているんですよ。
沖縄県の稲作の5割が石垣島ってとっても多いですね。何か理由があるのでしょうか?
コバマツ
下地さん
島国ということもあり、食べ物は自分達が自給しなければという意識があったのはもちろんですが、そのような歴史的背景が強いのだと思います。
八重山歌謡という、琉球時代からある八重山地域の歴史や文化を歌う歴史的な民謡があるのですが、その中でも多く稲について歌われてきていて、稲作は石垣島の人々にとって特別な作物だという思いがありますね。
歌の中にも稲が出てくるなんて、昔から稲作が根付いていたんですね。
コバマツ
石垣島での稲作の現状
石垣島の3月の田んぼ
石垣島ではひとめぼれが多く生産されているようですが、どうしてこの品種が多く作付けされているのでしょうか? 東北で多く栽培されているイメージなのですが。
コバマツ
下地さん
沖縄のお米の収穫時期の1回目が6~7月。ちょうど台風が来る時期に収穫なので、被害がなるべく少なく済むように、他の品種よりも背の低いひとめぼれが多く生産されているんです。
背が高い稲だと台風で倒れてしまって収穫できなくなる被害などが出てしまいますもんね。そんな理由があったんだ。
コバマツ
下地さん
あとは、岩手県と石垣島の交流が普及の要因にもなっています。
コバマツ
下地さん
1993年に、岩手県が大冷害にあって、翌年の種もみを充分に確保できないという事態が起こりました。そこで、岩手県から石垣市に「冬の間に石垣島で稲を育てて増殖し、翌年の種もみを確保させてもらうことはできないか」という話が持ちかけられました。
石垣市はその依頼を受け入れ、岩手県からやってきた職員と現地の生産者達が二人三脚で米作りをしたというストーリーがあります。
そんなことがあったのですね! 岩手県からそんな重要な依頼がくるということは石垣島の稲作は一目置かれていたんですね。
コバマツ
下地さん
それ以来岩手県と石垣島は長年交流があり、岩手県で栽培しているひとめぼれが島でも普及していった要因の一つになっています。
年中暖かい気候の石垣島だからこそできたことですね!
石垣島で稲作を行う上でのメリットやデメリットだと感じることは何かありますか?
コバマツ
下地さん
メリットは、やっぱり暖かいから二期作ができる点かな。私はパイナップルとお米の2品目作っているけど、限られた面積でも、稲作一本で経営を成り立たせている人もいます。
石垣島は2~3月に田植え、6~7月に稲刈り、8月に田植え、11月に2回目の稲刈りと一年中稲作ができます。
1期目は1月、2期目は7月頃にもみまき
1期目は2~3月、2期目は8月に田植え
6~7月、11月と2回収穫が行われます
限られた面積でも、2回収穫できればそれなりの量を確保することができそうですね!
コバマツ
下地さん
あとは、意外にも水に恵まれている地域なんで、その点も石垣島で稲作を行う大きなメリットになっていますね。石垣島の中だけでもダムが5つあるんですよ。
石垣島のダム
大きな川もないし、水の確保どうしているんだろうと思っていたのですが、島の中だけでもそんなにあるんですね!
コバマツ
下地さん
デメリットはやっぱり台風ですね。こればっかりはどうしようもないんですけど。台風前に収穫しきれるかが重要になってきます。
あとは害虫による食害と野生のカモによる被害が課題ですね!
稲を食べてしまう害虫
台風は厄介ですね……。稲が倒れてしまったら収穫しにくくなってしまいますし。
そういった沖縄ならではの気候のリスクとも付き合っていかなければならないのですね。
コバマツ
沖縄の米の流通事情
コバマツ
下地さん
石垣島や沖縄本島にも流通しますが、ほとんどが関東の方に流通します。都会の方が高い価格で取引されますから。
日本一早い新米ということで、やはり国産の新米をいち早く食べたいという需要があって高い価格で取引されるようです。
確かに、初物ってなんでも価格が高いですよね! 私が住んでいる北海道も、メロン初物セリで1玉何百万とかしますもんね……。日本一早い新米も相当値段が高く取引されそうですね!
コバマツ
下地さん
私はほとんど、石垣島のお店や個人のお店に販売していますが、島の中には日本一早い新米というブランドを生かして本土をターゲットに販売している人もいます。
でも、ブランドを生かして儲ける!というよりも、琉球時代からこの島に根付いてきた稲作を途絶えさせたくない、守りたいという思いでやっている人が多いと思います。
私も、石垣島で古くから営まれ続けてきた稲作を受け継いでいきたいと思い、稲作に踏み切りましたし。
沖縄でコメを作る意味
「日本一早い新米が石垣島で取れる」
その話を聞いたときは、沖縄で稲作? 南国のお米って、おいしいのかな?
そんなことを思いましたが、下地さんが石垣島で育てたお米は「日本一早い新米」という話題性だけではなく、日本のどこの地域にも負けないおいしいお米でした。
本土とは異なる気候で二期作ができること、出荷時期がかぶらないことは石垣島の稲作の大きな強みでしょう。
沖縄=稲作のイメージはまだまだ浸透していませんが、そんな特徴を持つ石垣島の稲作は、古くから島に根付いてきた文化としてだけではなく、これからもっと勝負できる可能性があると感じました。