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石垣牛とは? 沖縄の農業の一翼を担うブランドに急成長した秘密を探る

石垣牛とは? 沖縄の農業の一翼を担うブランドに急成長した秘密を探る

全国の農家を渡り歩いているフリーランス農家のコバマツです。今回は石垣島で「石垣牛」を繁殖・肥育する和牛農家の元を訪れました。沖縄の飲食店ではよく「石垣牛」の看板を目にします。沖縄県外の人でも石垣牛の名は耳にしたことがあるでしょう。なぜ全国に知れ渡るほどのブランド牛が石垣島から生まれたのでしょうか。自然豊かな亜熱帯地域だからこそできる牛作り、地域一丸となって作り上げてきた石垣牛ブランドの魅力に迫ります。

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石垣牛とは

今回コバマツが訪れているのは沖縄本島よりさらに南下した石垣島。

八重山諸島の主島であり、日本最南端の市ともなっています。
3月下旬に取材に行きましたが、この日はなんと26℃! さすが南の島。
北海道民のコバマツにとってはもう夏の気温です。

石垣島の丘から見た風景。ひたすらにきれい

自然が豊かというだけではなく、一次産業も盛んという話を聞きつけてやってまいりました。サトウキビやパイナップルなど、亜熱帯地域ならではの農産物の生産が盛んなほか、タバコやイモ類なども栽培されているようです。

そんな中でも今回取材に訪れたのは──

立派に育った石垣牛

石垣牛の繁殖・肥育農家です。

石垣牛、皆さん一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
石垣島では、肉用牛の生産が増加傾向にあり、島の主要産業となっているようです。

内閣府沖縄総合事務局「沖縄農林水産統計年報」2006年より(現在は市町村別の調査なし)。沖縄総合事務局石垣島農業水利事業所ホームページのデータをもとに筆者作成

どうして南の島で肉牛の生産が盛んなのか?

そもそも、石垣牛って何?

石垣島だからこそ生み出せる、秘密があるはず。
そんな石垣牛について、実際に生産者の元を訪問し、いろいろと聞いていきたいと思います!

■多宇司(たう・つかさ)さんプロフィール

農業生産法人株式会社とー家ファーム司(とーやふぁーむつかさ)代表取締役。沖縄県石垣島出身。八重山農林高校畜産科卒業後、茨城県の鯉淵学園農業栄養専門学校に進学。24歳のとき実家で新規就農、つかさ牧場を立ち上げる。現在は妻、息子、娘、アルバイト5人で、45ヘクタールの牧場で肥育牛と繁殖和牛の飼育を手掛ける。
遊休地を活用した大規模な輪換放牧、低コスト生産が高い評価を受けて、農林水産祭の畜産部門では、沖縄初となる天皇杯受賞。全国草地畜産コンクールでも農林水産大臣賞を受賞したほか、多くの賞を受賞している。
将来は家族と一緒に、自分達の牧場で育てた石垣牛を提供できる飲食店を経営することが夢。

石垣牛の定義

コバマツ

石垣牛って、誰もが知っているブランド牛ですよね! そもそもの石垣牛の定義ってあるのでしょうか?
石垣牛はJAおきなわが取得している登録商標で、JAおきなわの規定に沿った和牛のことを言います。

多宇さん

具体的には、

  1. 八重山地域内(現在は石垣島、竹富島、与那国島)で生産・育成された登記書及び生産履歴証明書を有し、同地域内で生後おおむね20カ月以上肥育管理された純粋の黒毛和種の、去勢牛及び雌牛であること。
  2. 出荷期間は、去勢牛で24~35カ月、雌牛で24~40カ月の出荷範囲以内であること。
  3. 品質表示は、日本食肉格付協会の格付を有する枝肉であること。
    特選:歩留等級(A・B)肉質等級(5等級・4等級)
    銘産:歩留等級(A・B)肉質等級(3等級・2等級)

この3つが条件とされています。

この1~3までの条件を満たした枝肉に対して、JAおきなわから「石垣牛」ラベルが発行されます。
店舗販売業者は、この石垣牛ラベルで表示するように求められています。

多宇さん

左が石垣牛取り扱い店舗が取得する認定証。右が1~3の条件を満たした和牛に対して発行されるラベル(画像提供:JAおきなわ八重山地区畜産振興センター)

コバマツ

なるほど! JAおきなわが定める一定の期間、石垣島、竹富島、与那国島の3島で飼育されたもの、さらに一定の品質を満たしている和牛が石垣牛なんですね!
これほど、全国に知れ渡るブランド牛に成長したのは、なにかきっかけがあったのでしょうか?
2000年に行われた九州・沖縄サミットの晩さん会のメインディッシュで使用されて、各首脳国から高い評価を受けたことがきっかけで一気に有名になりましたね。あれからJAおきなわで流通する枝肉出荷量はうなぎのぼりで、今でも供給が間に合わないほどです。

多宇さん

コバマツ

各国の首脳からもお墨付きをもらうことで、さらに石垣牛ブランドの価値が高まっていったんですね!

ブランド牛として安定した品質を保つための工夫

コバマツ

JAおきなわが定めたルール以外にも、石垣牛の生産者同士で作り上げてきた技術や決まりごとなどあるのでしょうか?
JA石垣牛肥育部会で、石垣牛生産のための共通のエサを開発しました。

多宇さん

石垣牛生産者の共通のエサ

石垣牛は、部会全体のブランドです。皆バラバラのエサを与えていたら、品質にもばらつきが出ます。品質を改善しようとするときも、組合員全員が同じエサを与えていたら行動に移しやすいので、皆で試行錯誤して共通のエサ作りも行ってきました。

多宇さん

コバマツ

地域一丸となって、育て上げてきたブランド牛が石垣牛なんですね!

石垣島での肉用牛生産の現状

子牛を育てて県外に出荷する「繁殖和牛」と肉として出荷する「肥育牛」の両方の飼育を実践している多宇さんに、石垣島だからこそできる農業経営や、島だからこそ大変なこと、などを聞いてみました。

和牛を育てる上での石垣島の良さとは

コバマツ

多宇さん、農林水産祭の畜産部門では沖縄県で初の天皇杯を受賞したとのことですが、具体的にどのような農業経営が評価を受けたと感じますか? 石垣島だから実現できたと感じる農業スタイルなどありますか?
1つ目に評価された点は、放牧地で自然分娩(ぶんべん)を行っていることです。分娩用の牛舎を建てるためのコストや分娩にかける人の労力の削減にもつながります。

多宇さん

出産1週間ほど前になった雌牛達は放牧地へ移動する

2つ目が遊休地を活用し、牧草を育てる採草地に転換したこと。

多宇さん

遊休地だった土地を購入し、採草地に

3つ目は家族全員で牧場経営に取り組んでいること。このほかにもさまざまな点を評価いただけたのかなと思っています。

多宇さん

家族で力を合わせて牧場を運営しています

コバマツ

石垣島の風景の中で牛が牛らしく育てられているということや、遊休地という地域の課題を牧場経営に取り込み解決している点、そして家族経営が評価を受けたんですね!
石垣島の気候が牛に与える良い影響もありますか?
牛は濃厚飼料以外に牧草も食べます。牧草は食物繊維が豊富で、牛にとって濃厚飼料と同じくらい大切な栄養素です。石垣島は亜熱帯地域で一年中暖かいため、島にある牧場では年に5回牧草を刈り、自分達の牧場で育てた草を牛に与えることができます。その点は石垣島ならではの牧場経営ではないかなと感じています。

多宇さん

自分の牧場で育てた牧草をふんだんに与える

コバマツ

島の牧草を年中与えられる点も、島全体で均一化された品質の牛を作ることに大切な要素となっていそうですね。
一年中暖かい気候だから、自分達でエサもたくさん作ることができるのは、和牛農家として強みになりますね。

生産の苦労やこだわり

コバマツ

逆に島だからこそ、大変なことや、こだわっていることなどはありますか?
繁殖和牛もやっていますが、島からの出荷になるので、どうしても本土までフェリーやトラックで3~4日はかかり、牛の見栄えが悪くなってしまう。
だから、子牛の段階から、消化器官を強くすること、月齢に応じた体づくりを行うことを徹底するよう心掛けていますね。そうすることで、新たな環境に適応して良い牛へと育ってくれます。

多宇さん

石垣島でセリにかけられて出荷される子牛たちのほとんどは、フェリーやトラックに乗り本土へと送られていきます。中には有名なブランド牛の産地に行く子牛も。石垣島の繁殖牛ならば健康な肥育牛を育てられるという信頼があるから、他県から石垣島の子牛を買い付けにくるのだそうです。

コバマツ

大きくおいしい肉牛になるための体づくりをすることが、繁殖和牛農家の役割なんですね! 本土までの距離の不利さを覆すほどの飼育の技術と信頼が、石垣で育つ牛にはあるんだ!

石垣牛の流通事情

コバマツ

観光客によく食べられているイメージの石垣牛ですが、新型コロナウイルスの影響で観光客が減ったことによる消費の影響はあるのでしょうか?
やっぱり石垣牛は観光客に多く食べられてきた牛なので、消費は低迷していますね。
今後はJAが本土のデパートなどに販売ルートを開拓していく予定だと聞いています。

多宇さん

コバマツ

むむむ。やはり、消費への影響は大きいのですね。でも、その課題も地域一丸で解決に取り組んでいるんですね!

研究と実践を繰り返し、築き上げられてきた石垣牛、社会情勢により少し消費が落ち込んでいるようです。そんな中でも未来を見据え、後継者として目を輝かせている多宇さんの息子さん、翔司(しょうじ)さんに話を聞きました。

お仕事中の息子さん、多宇翔司さんにインタビュー

コバマツ

大学卒業後、すぐに実家に戻ってきて就農したそうですね。一般的には、農業は嫌だとか、都会で働きたい!などと思うものですが、そのような考えはなかったのですか?
子供の頃から農業に対して全く嫌な印象はありませんでした。むしろ早くやりたいなと思っていたくらいです。

翔司さん

コバマツ

全く嫌な印象なかったって、それもあまり聞いたことがないですね! 何か幼少期から農業と関わる楽しさを感じる体験などがあったのでしょうか?
子供のときから、おじいちゃんと一緒に牛の世話をしていて、その経験がすごく楽しかったんです。小学生の頃から「自分は牧場を継ぐ」という夢をもっていて。高校も大学も畜産科に進学しました。

翔司さん

コバマツ

どんなところに魅力や可能性を感じていますか?
おじいちゃんの代から、ある程度土地も牛の頭数もいて基盤があって、普通のサラリーマンじゃ稼げないような収入を得ることもあり、やればやった分だけ自分が世話した牛が評価される。そういった点が魅力であり、やりがいになっていますね。

翔司さん

祖父と父の代が築き上げてきた牧場経営を、自分の代でさらに飛躍させたいと意欲を語る翔司さん。自分が努力するほど良質な肉牛が育ち、それが評価される。そのようなところに大きな魅力と可能性を感じているようです。

コバマツが感じた石垣牛の価値

石垣島の基幹産業である肉牛を地域一丸となってブランディングし、作り上げられてきた石垣牛。

その影響もあり、牛肉といえば石垣牛というブランドが作られて、石垣島の肥育牛のみならず、繁殖和牛の人気や信頼にもつながっていったのではないかと感じています。

価値の高い畜産を行うことは、その業界だけの信頼にとどまらず地域全体の信頼や認知度にも波及し、高めていってくれるのだと感じました。

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