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気温は家畜のストレスになる? 畜産農家が知るべき天気の知識

気温は家畜のストレスになる? 畜産農家が知るべき天気の知識

温暖化などの影響で、天気の移り変わりが激しい昨今。近年では北海道や東北でも40度に迫る猛暑に見舞われたり、九州で大雪が降ったりと、日本全国どこでも暑さ・寒さに翻弄(ほんろう)される状況になっている。
その天気が「家畜の健康に今まで以上に大きな影響を与えている」と話すのは、北里大学獣医学部動物飼育管理学研究室准教授の鍋西久(なべにし・ひさし)さん。鍋西さんが長年続けてきた「気温が家畜の健康に与える影響」についての研究と、それに基づき新しく開発したアプリについて話を聞いた。

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■鍋西久さんプロフィール

北里大学獣医学部動物資源科学科動物飼育管理学研究室准教授。
1973年生まれ、宮崎県出身。北里大学大学院を修了後、2001年宮崎県庁入庁。
農業改良普及センター、畜産試験場などを経て、2016年3月北里大学に着任。
これまで、受精卵移植技術、家畜に及ぼす熱環境の影響評価と対策技術の開発、ICTを活用した繁殖性向上技術に関する研究に従事。研究成果の社会実装によって畜産農家の経営力向上に寄与すべく、2020年8月に北里大学発ベンチャー“ライブストックジャパン合同会社”を設立、CEOに就任。

暑さ・寒さで家畜はぐったり、生産性が落ちる原因に

家畜のストレスにはさまざまなものがある。まず、家畜にとって特にストレスになるのは「暑熱」。畜種ごとに快適な気温があるが、夏場が近くなってくると、家畜も人間と同じで暑さのせいで熱中症になり死に至る場合もある。
「僕の暑熱ストレスの研究の始まりは乳牛で、高温多湿の我が国では乳牛は暑さのストレスを特に受けやすい。乳量が落ちるなど生産性に悪影響がある」と鍋西さん。他にも、肉用と言われる肥育牛や肥育豚、ブロイラーも影響を受けやすいという。暑熱ストレスを受けた家畜は、まず体温を上げないためにエサを食べなくなる。結果、肉用の場合は太らないということにつながる。
また、繁殖用の場合、雌は発情が来ない、雄は精子の数や活力が落ちる。採卵鶏の場合は、産卵率が落ちたり、卵の殻が薄くなったりするなど、すべての家畜に悪影響が出てくる。

寒さは、暑熱のように直接家畜が死に至ることはないが、「主に幼畜(子牛、子豚、鶏のヒナ)がその影響を受けやすい」と鍋西さんは話す。体温調整がまだ自分でうまくできないために風邪を引いたり、下痢をしたりして、その後の成長に大きな影響を与えるという。子豚や鶏のヒナは畜舎に暖房機能がほぼ付いているのであまり心配はないが、農家によって畜舎の構造が違う牛の場合は要注意。生後すぐから、固形飼料をとり始める3カ月齢までは寒さ対策が必須のようだ。
また、寒さの影響がないように見える肥育牛や繁殖牛も実は注意が必要。肥育牛は寒いと水を飲まなくなって冬に尿石症が増える。また肉用の繁殖雌牛では冬の寒さで繁殖成績が落ちるという研究結果が最近発表された。暑さも寒さもどちらも侮れないのだ。

カーフジャケットを着る子牛

子牛にジャケットを着せるのも寒冷対策のひとつ

家畜の快適・不快が見える化! 暑熱・寒冷対策最前線のアプリ誕生

鍋西さんは、天気が家畜に与える影響について研究する中で、2011年に乳牛用の暑熱ストレス指標計「ヒートストレスメーター」を開発した。これは、気温と湿度から感じる快適・不快環境を数値化した「温湿度指数(THI)」を使って、乳牛の暑熱ストレスの程度をわかりやすく表示するもの。これまで鍋西さんが研究してきた、乳牛の体温測定結果や繁殖成績、死亡廃用事故発生状況などのデータが反映されており、ひと目で牛が快適か不快かがわかるようになっている。今まで全国各地の畜産農家で活用されてきた。

ヒートストレスメーター

ヒートストレスメーター。下半分は温度計と湿度計。上がTHI計。色が変わるほどに乳牛が暑熱ストレスを受けているのがわかる

開発から約10年、今回、鍋西さんは気象予報サービスを展開する株式会社ウェザーニューズと、ヒートストレスメーターを発展させたアプリ「ちくさん天気」を共同開発したという。
 
「ちくさん天気」とは、その名のとおり畜産農家向けのお天気アプリ。ただの天気予報と違うのは、THIを用い、家畜の快適・不快環境を1週間先まで予測してくれること。
まず自分が飼っている畜種(乳用牛、肉用牛、子牛、豚、鶏)を選び、住所を登録。すると、登録した地点の天気予報はもちろん、24時間先までのTHIの予測、向こう1週間の最高・最低THI予測が日ごとに表示される。
すごいのは、住所登録の際に標高も反映されること。なんと、1平方キロメートルという細かい単位で気温などが表示されるのだ。山の上の畜舎でも平場の畜舎でも、ピンポイントで情報を手に入れられるのが魅力的だ。

ちくさん天気のアプリ画面

アプリの画面はこちら。試しに肉用牛で見てみると、THIは数値によって色分けされており、グラフの白い部分(THI60〜70)が肉用牛にとっては快適な環境。水色から青みが増すほど寒冷ストレスを、黄色から赤みが増すほど暑熱ストレスを受けていることがわかる。暑熱・寒冷対策をスタートする目安は「白から色が変わり始めた時」。農家によって対策は一様ではないが、客観的な数値を参考に、暑くなったら扇風機を回したり、寒くなったら直接牛に寒風が当たらないようにしたりするなど、おのおのの対策を始める目安にしてほしいそうだ。
ちなみに、寒さに比較的強い乳用牛、畜舎に暖房機能がしっかり付いている豚と鶏には、寒冷ストレスの色分けはなく、暑熱ストレスだけがわかるようになっている。

人と家畜では快適な環境にズレがある

最後に、鍋西さんの話を聞いて驚いたのは「人の快適な環境と家畜の快適な環境とにズレがある」こと。
例えば、牛の場合。THI70で人間は快適だが、牛にとってはもう暑い状況。また、THI60も人間にとっては快適だが、子牛にとってはもう寒い環境なのだという。つい、これまでの自分の経験や勘で家畜の状態を判断してしまいがちだが、データで把握することがやはり重要なのだ。

「今からの季節が家畜にとっては厳しい。急に暑くなったり、急に寒くなったりすると、体への負担が大きいからです。僕らが天気予報を見る感覚で、畜産農家にはこれを見ることを日課にして、これからの暑熱対策に活用してほしい」(鍋西さん)

ちなみにこのアプリ、暑熱・寒冷対策以外にも、牧草の収穫にも大活躍。畑の場所を20カ所も登録でき、畑ごとの1週間の天気予報や72時間先までの雨雲の動きを簡単にチェックできる。牧草の刈り取り予定を立てるのもこれがあればバッチリ。

ちくさん天気はこの4月からトライアル期間がスタートしている。半年間は無料で使えるので、ぜひ、暑い夏が来る前から、客観的データに基づいた暑熱対策の準備と、家畜の快適具合の再確認をしてみてはどうだろうか。

▼無償トライアルのお申し込み、お問い合わせ
ライブストックジャパンHP「ちくさん天気」

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