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産後の牛にみそ汁を飲ませる? 酪農業界の絶え間ない努力の積み重ねを見た!

千田 一徳

ライター:

産後の牛にみそ汁を飲ませる? 酪農業界の絶え間ない努力の積み重ねを見た!

みそ汁を分娩(ぶんべん)後の母牛に飲ませると良い。酪農家さんにはそんな話をする人もいます。果たして本当なんだろうか? 疑問に思って調べてみると「グリソイ500」というみそを原料に含む飼料を開発している企業を発見しました。どうして開発に至ったのか? どんな効果があるのか? 根掘り葉掘り聞いてみました。

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昔から産後の牛にみそ汁を飲ませていた!?

「牛にみそ汁を飲ませる酪農家がいるらしい」 
そんな話を聞き、気になって調べてみると、昔から酪農家さんの間で民間療法的に子牛を生んだばかりの母牛にみそ汁を飲ませていた事例があるということがわかりました。
また、牛にみそ汁を飲ませることにどんな効果があるのか、と大学で研究をした事例もあるようです。

牛がみそ汁を飲んている様子

牛がみそ汁を飲んでいる様子(写真提供:科学試料研究所)

「これは、何かみそ汁に秘密の効果があるんだろうか」とさらに調べると、みそを原料の一つとする「グリソイ500」という飼料の存在に行き着きました。このグリソイ500を製造・販売している株式会社科学飼料研究所の鳥居伸一郎(とりい・しんいちろう)さんに話を聞きました。

株式会社科学飼料研究所
1967年に設立された飼料、飼料添加物、動物用医薬品の開発・製造及び販売を行う会社。豚、牛、鶏、養魚向けの幅広い飼料を取り扱っている。

分娩直後の牛の状態を改善

そもそも何のために牛にみそ汁を飲ませるの?という疑問がわいてきます。

鳥居さんにこの疑問をぶつけると「分娩直後の牛がどのような状況か」ということから教えてくれました。

鳥居さん

分娩後の牛はお産によって体力が消耗し、脱水気味になってしまっています。
グリソイは、このような状態にある分娩直後の母牛に対しての水分・栄養補給を目的に開発しました。

母牛には水分、栄養素(エネルギー、ビタミン、ミネラルなど)を分娩後数時間以内に補給することが望ましいそうです。

ということは、それらをみそで補給できるということかと考えましたが、そういうことではないそう。

鳥居さん

みその味つけによって嗜好(しこう)性が高まり、牛が水をよく飲んでくれるので水分補給という面で特にメリットがあります。そこで水分とともに必要な栄養も補給できるように、ビタミン各種とグリセリンなどを加えました。

みそで「おいしく」して、牛にたくさん飲んでもらうことができるんですね。
みその中に栄養素を入れておけば不足する栄養分も補給できると。

「第四胃変位」を防ぐ

また、牛ならではの病気を防ぐためにも、分娩直後の水分補給は非常に重要なんだそうです。

鳥居さん

子牛が体の外に出たことで、母牛のお腹の中に大きな空洞ができてしまっているんです。これをなるべく早く水分によって満たすことが必要です。

牛は胃が4つありますが、妊娠中は胎内に子牛がいるためそれらが押しやられている状態になります。
出産時、子牛は30~40キロもの大きさに成長していて、それが体外に出ると母牛のお腹の中に隙間(すきま)ができます。
そのままの状態にしておくと、「第四胃変位」と言って胃の位置がずれてしまい、消化の障害や閉塞といった疾病につながる危険性があります。
こういった事態を回避するために、胃を水分で満たし「ズレ」るのを防ぐことが重要だそう。

そのための「産後の牛にみそ汁」だったんですね。
酪農業界における「牛にきちんと水分をとってもらう」ことへの工夫は本当にすごいです!

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その他にも産後数週間はケトーシスや脂肪肝など多くの疾病にかかる可能性があり、酪農家さんは、母牛を早く正常で元気な状態に戻し、多くの乳を出してもらえるようさまざまな処置を施します。
そのタイミングや内容も、分娩の当日のみ行うことや、産後数日間行うことなど多岐にわたり、それらに対応するさまざまな飼料が販売されています。

みそ入り飼料を作ったワケ

牛が飲むみそ汁。グリソイ500

グリソイ500。原材料に「みそ」とあるのが分かる(写真提供:科学試料研究所)

みそを原料に含むグリソイ500ですが、そもそもなぜこれを作ったのでしょう?

鳥居さん

以前から、産後の牛にみそ汁を飲ませる方がいらっしゃるというのは聞いていました。
札幌事業所の営業社員からも「みそはどうだろう」と提言があったことで、本格的な商品開発を検討し始めました。

その後、大学との共同研究なども行い2007年にグリソイ500を発売したそう。

ここでふと疑問が。
グリソイ500に使われるみそは、人が食べるものと同じなんでしょうか?

鳥居さん

みそは同じですが、グリソイは100%飼料用に別途ラインを設けて製造してもらっています。

牛などの「反すう動物」の飼料は、農林水産省のガイドラインによって「A飼料」と「B飼料」に分類されていて、A飼料以外のものを与えないことと定められています。
A飼料は原料に「動物由来タンパク質が入っていないもの」です。
製造から流通、給与(エサを与えること)の全てのプロセスで、ガイドラインに沿って動物由来タンパク質が混入しないように管理されます。

グリソイ500も牛に与えるA飼料として、それらの混入防止のために独立した製造ラインで作られているそうです。

こういった飼料の製造・流通の厳密化は牛海綿状脳症(BSE)の発生に端を発したものだそう。
知らなかったー!!

ということで、厳格な品質管理のもと、牛がみそ汁を好むという「昔ながらの現場の知恵」も生かして製品化したのがグリソイ500なんだそうです。

酪農業界の「創意工夫」の積み重ねに驚き


「産後の牛にみそ汁を飲ませるってなんでだろう?」
という素朴な疑問から始まった今回の取材でした。

調査・取材を進めるうちに

  • 産後の牛は体に大きなダメージを受けており、分娩直後はもちろん、継続的に対処する必要もある
  • 対処するためにさまざまな飼料が開発されている

ということがわかりました。

グリソイ500が特に「分娩直後、数時間以内のケア」を目的として開発されたように、酪農業界に携わる人たちが熱意を持って創意工夫を連綿と積み重ねていることに驚きました。

また、いつもの牛乳がもっとおいしく感じられるようになりました。

取材協力:
株式会社科学飼料研究所

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