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平田牧場に聞くブランド化 健康とサステイナビリティーがカギ

山口 亮子

ライター:

平田牧場に聞くブランド化 健康とサステイナビリティーがカギ

有名ブランド豚「平田牧場三元豚」で知られる山形県酒田市を本拠とする平田牧場。3種のブタを交配する三元豚を生んださきがけだ。1970年代半ばに最大の取引先だった大手スーパーとの取引をやめ、まだ珍しかった産直取引にかじを切った。飲食店を経営し、ウインナーやハムといった加工品も手掛ける。2代目社長の新田嘉七(にった・かしち)さんにブランド化の肝を聞いた。

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サステイナブル目指しいち早く産直へ

──平田牧場はもともとダイエーが最大の取引先でしたが、値下げを求められて取引を停止し、消費者と直接取引する産直に変えていったそうですね。養豚で産直に踏みきったのは、かなり早い方だったのではないかと思うのですが。

当時、産直はあまりなかったと思うんですね。いいブタを育てるためにはコストがかかって、それに見合う売り方をしないと、生産できなくなります。そう理解して食べる消費者がいて、はじめて生産が成り立つわけですよね。
買いたたかれたら我々がもたないわけで、買う人、食べる人、生産者の皆がいい状態じゃないと、サステイナブル(持続可能)じゃない。だから、産直取引にしていかざるを得なかったところがあります。

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新田嘉七さん

──生産の規模を教えてください。

生産頭数は20万頭ほどで、自社農場に加えて、東北を中心に北海道や関東に約50の提携農家がいます。当社で、日本の養豚全体の1%を出荷している計算です。年商は、グループ全体で200億円ほど。従業員は約1000人います。

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平田牧場三元豚は、肉の繊維がきめ細かく、柔らかさもありながら心地よい歯ごたえが特長という(以降写真提供:平田牧場)

「三元豚」を名乗った元祖

──今でこそ全国でブランド豚が増えていますが、1974年に開発を始めた平田牧場三元豚は、そのはしりなのでしょうか。

3品種を掛け合わせた「三元交配種」という言葉を短くして三元豚と言い始めたのは、弊社なんですね。おいしい肉を作りたいと、私たちは種にこだわっています。もちろん飼育方法にもこだわりますが、一番のこだわりは種。

ふつうの三元豚は、ランドレース種(L)と大ヨークシャー種(W)、デュロック種(D)を掛け合わせたLWDです。一方で私たちは黒豚のバークシャー種(B)を種雄として使う、LDB(ランドレース種×デュロック種×バークシャー種)です。LDBは、脂が乗りやすく、筋繊維がきめ細かく脂の質が良いなど肉質が非常に優れています。
「西の鹿児島黒豚、東の(平田牧場)三元豚」と並び称されたんですけど、今は「○○三元豚」と名前がつくブタが非常に多くなってしまいました。三元豚は優れているという認識が広がって、皆が三元豚という名前を使いだしたんですね。

三元豚を商標登録するという発想がなくて、あるとき「商標をとっているんですか」と聞かれて。それから商標登録しようとしましたが、時すでに遅し。「もう三元豚という言葉は広がって一般名になっていますから、商標はとれません」と却下されてしまったんです。そこで、「平牧三元豚」で商標登録をしました。

──そうだったのですか。平田牧場三元豚(平牧三元豚)は、今ではブランドとしてすっかり定着していますね。

飼料の国産化で飼料用米にたどり着く

──三元豚のほかに、金華豚というブランド豚も育てているとのことですが。

平田牧場三元豚と並ぶブランドの柱である金華豚は、パンダのように頭とでん部が黒い、希少なブタです。肉質は極上で、飼育に時間がかかります。三元豚も金華豚も、ほかと圧倒的に違う種にこだわってきました。
金華豚を導入したのは、粗飼料つまり牧草で育つブタはいないだろうかと探していたからです。中華料理の高級食材として有名な金華豚も含め、6品種のブタを中国から導入しました。

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純粋種の「平田牧場純粋金華豚」。より生産効率を高めた交配種「平田牧場金華豚」もある

──粗飼料で育てられないかというのは、つまり飼料の国産化ができないかということですか。

そうです。日本は、コメは別として穀物の生産が少なく、トウモロコシやダイズといった濃厚飼料(穀物を主とするタンパク質が多く含まれる飼料)を輸入に頼っています。そこで、稲わらで育たないかとか、いろいろ考えたんです。ただ、ブタを粗飼料で育てるのは非常に難しいと分かりました。実験はうまくいかなかった一方で、導入した金華豚は平田牧場三元豚と並ぶブランドになりました。

──飼料でいうと、飼料用米の活用を1997年というかなり早い時期に始めていますね。

全頭に飼料用米を与えて「こめ育ち豚」と呼んでいます。このコメは減反で転作しなければならない田んぼを利用して作るんです。日本の食料自給率はずっと低いままですが、気候変動が進む中で農地をきちっと守っていかないと、将来、飢饉(ききん)に陥る可能性だってあると思っています。田んぼが耕作放棄地にならないように、コメを作って、家畜に食べさせるという発想で始めました。

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飼料用米をブタに与えることは今でこそ珍しくなくなりました。もとは私たちが田んぼ3枚から始めたことです。きっかけは、消費者が抱いた疑問でした。
私たちは生活クラブ生活協同組合と長年取引があって、毎年、組合員の方たちが見学に来るんですね。山形という米どころでも、減反のために休んでいる田んぼがあるわけです。休耕田がたくさんあるのを見て「ブタの飼料はどこから来るんですか」という質問があって、ほとんど輸入だとお話しすると、「なぜ田んぼでお米を作って与えないんですか」と。

それから、畜舎の隣の田んぼで多収米の栽培実験をしたり、稲わらを発酵させたホールクロップサイレージにして与えたりしました。ホールクロップサイレージだけだとエサとして不十分で、どうしても穀物が必要だからとコメを食べさせたところ、肉に含まれるオレイン酸が増えて、甘みとうまみのある非常に良い肉質になりました。肉質もいいし、ブタの食いつきも良くなって、自分たちの身の回りで作れて、農地も守れる。これは、いい取り組みだということになりました。

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水田に囲まれた畜舎

とんかつ中心に飲食店で情報発信

──ラーメンチェーンの幸楽苑と共に、同社の史上最高額ラーメン「平田牧場コラボWチャーシューめん」を、2019年に期間限定で販売しましたね。平田牧場はすでにブランドとして有名ですが、さらに浸透させるための工夫を今も重ねているということでしょうか。

幸楽苑から、付加価値のあるものを出したいと声を掛けていただいて、我々も金華豚のおいしさを伝えたいと、このような取り組みになりました。いろんなことにチャレンジする方が楽しいですし、それが皆さんが食べるきっかけになれば、なおいいですね。

──自前で飲食店も経営していますね。これは、創業者の嘉一(かいち)さんから代替わりしてからですか。

先代のころから飲食業をやっていましたけど、コックさんの腕に業績が左右されるところがありました。コックさんの腕に左右されない経営にするために、豚肉の良さを一番伝えられる食べ物は何かと考えました。そして、とんかつが分かりやすくてリーズナブルだろうと、とんかつを中心に飲食店を開業していきました。いい食材を、できるだけ無添加、つまり化学調味料を使わないで提供したところ、評判が良くて。

飲食は、グループの売り上げの15%ほどを占めます。飲食店は、生産したものを自分たちで販売できる、伝えることができる場です。お客さんから直接声を聴ける場所でもあります。

平牧三元豚厚切りロースかつ膳_ロースカツ

平牧三元豚厚切りロースかつ膳

健康がキーワード

──ブランド化の秘訣(ひけつ)は何だと思いますか。

消費者が認めてくれるものを作ることです。自分でいくらブランドと言っても、独りよがりになりかねません。消費者が喜んで、安心して食べてくれるものをしっかり作れるか。食べ物なので、おいしくて、体にいいのが一番です。そう考えて行動し続けた結果、今があると感じます。

健康は、経営のキーワードです。経営理念は「より豊かな食生活・食文化を提案する健康創造企業」。豚肉は機能の面で、非常に健康にいいことが知られています。
消費者の健康のために、健康なブタを育てるだけでなく、社員の健康も重視しています。10年以上前からタバコを吸わない会社になろうと「禁煙企業」にしました。口腔(こうこう)の健康、つまり歯を健康に保とうと、地元でよく知られる歯科診療所での社員の歯のメンテナンス費を会社で負担しています。

平田牧場三元豚とコメ

平田牧場三元豚(写真)も金華豚も飼料用米を食べて育つ

食に勝る消費者への寄与はない

──今後の経営をどう考えますか。

とにかく、いい商品を作ることです。体にいいものを作りたいと、今はブタの骨から抽出したコラーゲンも作っていますよ。
「こめ育ち豚」のようにサステイナブルな肉を生産して、社会性を高めることも大切です。あとは、お客様に消費していただくために、きちっと顧客創造をすることに尽きます。そうやって、社会により評価される仕事にしていくことが大事なのではないでしょうか。

──ブランド化をしたい農業者に何かメッセージをいただければ。

弊社の場合、「農業が企業化しているね」「産業化しているね」とよく言われるんです。これから農業で成長するためには、農業だけれども産業になっていることが大事だと感じます。
私たちは、KPIと呼ばれる重要経営指標を設定しています。目標を明確に持って、できるだけ数値化して、いい仕事をする。これを大事にしてほしいです。

──企業化しつつ、消費者が何を求めているかに向き合っていくということでしょうか。

お客さんの役に立って、喜んでもらって、社会に貢献するということです。農業でお客さんに寄与できれば、それは健康につながるわけです。お客様への寄与という意味で、食べ物に勝るものはない。そう思っています。

平田牧場

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