農業をしない人が農地相続の際に検討できる選択肢
まず、農業をしない人が農地を相続する場合に検討できる選択肢として、以下の四つが挙げられます。
- 農地を農地のまま売却する
- 農地を農地のまま貸し出す
- 農地を転用して活用・売却する
- 相続放棄をする
農地を農地のまま売却する
まず一番効率的な対処方法として挙げられるのは、農地を農地のまま売却する方法です。この方法であれば手間も最小限に抑えつつ農地を処理することができます。
ただし農地の場合、農業を専業とする個人・法人にしか売却できないという制限があります。
これは、農地法第3条により、農地の売買が規制されているためです。農地を農地のまま売却するには、買い主が以下三つの要件を満たし、農業委員会の許可を得ていることが条件となります。
- 農地の全てを効率的に利用すること
- 周辺の農地利用に支障がないこと
- 必要な農作業に常時従事すること
近隣に農地を求めている農家がいればスムーズですが、厳しい条件があるため、農地を農地のまま売却する手段というのは難しいのが実状です。
参考文献:農地法第3条の2
農地を農地のまま貸し出す
次に、相続した農地を現役農家や法人に農地のまま“貸し出す”といった方法も考えられます。
耕作用として貸し出す場合は、農地売却と同様に農業委員会の許可が必要になるものの、農地集積バンクを利用して貸す方法や、市民農園を開設して貸す方法などもあり、これらの方法であれば農業委員会の許可が不要な場合もあります。
農地の管理を任せつつ賃料も得られるため、すでに相続した農地に活用予定がない場合は良い選択肢となるでしょう。
農地を転用して活用・売却する
宅地をはじめとした一般的な用途に使える土地であれば、相続した土地を売却・活用することが可能です。
しかし、農地の場合は、農業を専業とする個人・法人にしか売却できません。これは、農地法第3条により、農地の売買が規制されているからです。
このような特徴から、農地を農地のままで売却・活用することを考えるのではなく、農地を宅地などに転用し、活用や売却するという選択肢もあります。
ただし、農地を転用するためには「立地基準」と「一般基準」をクリアしたうえで、農業委員会の許可を受けなければなりません。
立地基準では、市街地として発展する可能性がある区域にある「第2種農地」か、市街地にある「第3種農地」に該当する必要があります。
一般基準では「本当に申請通りの目的で転用されるか」「転用後の運営が可能な資金計画があるか」「周辺農地に影響がないか」といったことが問われます。
基準としては厳しいものの、農地転用ができれば駐車場や賃貸アパート経営、持ち家の建築など、さまざまな方法での活用が可能です。資産価値も高まり、農地のときより高値で売却できる可能性もあるため、一度検討してみる価値はあるでしょう。
相続放棄をする
相続予定の農地に売却や活用の見込みがなく、相続するデメリットが大きい場合は、相続放棄をするのも一つの手です。
ただし、相続放棄をすると農地だけでなく、被相続人から相続する全ての財産を放棄しなければなりません。農地以外にも相続する財産がある場合は、他の財産とのバランスや利益を考慮して慎重に考えましょう。
農業をしない人が農地相続すると発生するデメリット
ここまでご紹介した通り、農地を相続した場合、その農地を売却、もしくは上手に活用できれば収益化できる可能性はあります。
しかし農地相続によるデメリットや負担のほうが大きいケースも多く、特に以下の4点には注意が必要です。
- 相続税や固定資産税の負担が大きい
- 維持管理に大変な労力がかかる
- 活用・売却・転用できない可能性がある
- 相続トラブルが発生する恐れがある
相続税や固定資産税の負担が大きい
農業をしない人が農地相続した場合、「相続税の納税猶予制度」が受けられないため、農業を続ける人と比べて相続税の負担額が大きくなります。
これは、相続人が農業経営を続けることを条件に受けられる「相続税の納税猶予制度」が、農業をしない人には適用されないからです。
相続税の納税猶予制度は、農業を営んでいた被相続人から農地を相続した相続人が、一定要件を満たした場合に相続税の納税猶予を受けられる制度です。相続人が要件を満たしている限り納税の必要はないため、生涯農業を続ける人であれば、実質「納税が免除される制度」と考えてよいでしょう。
このような経緯から、農業をしない人の農地相続においては、相続税の納税猶予制度を受けられないため、引き続き農業をする人と比べると相続税が高くなるといえます。
それだけではなく、土地の価値に応じて毎年課される「固定資産税」も、農業を続ける人と比べて高くなる可能性があります。
通常、農地の固定資産税は「農地の固定資産税 = 固定資産税評価額 × 1.4% × 限界収益修正率(0.55)」という計算式で算出されますが、耕作予定のない農地には限界収益修正率による補正がなされません。
結果的に農業をしない人の農地相続では、農業を続ける人と比べて約1.8倍の固定資産税が発生することになります。
参考文献:農林水産省「遊休農地の課税の強化」
維持管理に大変な労力がかかる
農地を相続した場合、何もせず放置していると雑草の繁茂や鳥獣被害が発生する可能性があります。
農地近隣の農家や住民にも迷惑がかかり、トラブルや損害賠償問題にまで発展する恐れもあるため、定期的な管理は必須です。
主な管理としては、除草作業が挙げられますが、農業に慣れていない方にとっては、非常に過酷な作業といえるでしょう。また、農地の維持管理には、面積によって年間数千〜数万円ほどのコストがかかります。農地が遠方にある場合は、現地に行くだけでも多くの時間や労力が必要です。
管理業者に任せれば手間がなく安心ですが、その分コストが増えていくことは避けられません。
活用・売却・転用できない可能性がある
相続した農地には、農地のままで貸し出し・売却したり、宅地などに転用してから活用・売却したりと、さまざまな選択肢が検討できます。
しかし一方で、いずれも簡単にできるものではありません。例えば、農地の転用には農業委員会の許可を得る必要があります。申請しても必ず受理されるわけではないうえ、手続きには多くの書類や時間が必要であり、ハードルは高いといえるでしょう。
また農地として貸し出しや売却するにしても、売却先は農業委員会の許可を受けた農家や法人に限られているため、買い手が見つからない可能性も十分に考えられます。
売却も活用もできない農地は、コストと手間ばかりかかる荷物となり、結果的に子や孫世代までに及ぶ「負の遺産」となるリスクがあるのです。
相続トラブルが発生するおそれがある
農地相続の際、共同相続人のなかに農業をしている人がいない場合、以下のような相続トラブルが発生する恐れがあります。
- 遺産分割がまとまらない
- 誰も農地を相続したがらない
- 農地相続の手続きがわからない
上記でご説明した通り、農業をしない人にとって農地は「負の遺産」となりうるものです。そのため、誰も農地を相続したがらず、相続人の間で議論に発展する事もあります。このように、農地相続を原因として、親戚や兄弟間の関係性が悪くなる可能性もあり、共同相続人全員にかかわる大きなデメリットといえるでしょう。
もしも上記のような相続問題が発生する可能性がある場合、事前に専門家による無料相談を活用して、慎重に検討することをおすすめします。
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農地の相続手続きの流れ2ステップ
上記のようなデメリットを踏まえた上で、農地を相続するという選択肢をとった場合、当然ですが手続きが必要になります。そこで下記からは農地相続の手続きの流れを解説します。農業をしない人の農地相続手続きは、以下の2ステップです。
- 法務局での相続登記
- 農業委員会への届け出【期限あり】
順番に見ていきましょう。
1.法務局での相続登記
農地を相続することになったら、まずは農地がある地域を管轄する法務局にて、相続登記を行います。相続登記とは、農地所有者の名義を被相続人から相続人に変更する手続きのことです。登記申請には以下のような書類が必要です。
- 登記申請書
- 戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続する人の住民票
- 遺産分割協議書など
なお、登記申請時に、農地の固定資産税評価額の0.4%の登録免許税を支払います。相続登記は自分で申請することもできますが、報酬を支払って司法書士に依頼するのも一つの手です。
2.農業委員会への届け出【期限あり】
農地を相続する場合、農業を継続する・しないにかかわらず農業委員会に相続する旨を届け出なければなりません。届け出の際に必要な書類は以下の通りです。
- 農地の相続等の届出書
- 農地の権利を取得したことがわかる書類(例:相続登記済みの登記簿謄本)
なお、農業委員会への届け出は、相続の発生から10カ月以内におこなう必要があります。
期限内に届け出なかった場合は、10万円以下の過料に処せられることがあるため、忘れないように注意してください。
いらない農地を相続放棄する場合の注意点
ここまで農地を相続する際の手続きについてご紹介してきましたが、実際のところ、農地の相続についてはデメリットが多く、相続放棄をするという選択肢を取られる方も少なくありません。
しかし相続予定の農地を相続放棄する場合、全ての財産を放棄しなければならないこと以外にも、さまざまな注意点があります。ここでは、農業をしない人が農地相続をする際に取れる「相続放棄」という選択肢の下記の注意点について詳しく解説します。
- 相続放棄には期限がある
- 相続放棄しても管理義務は発生する
相続放棄には期限がある
相続放棄は、相続の開始を知った日から3カ月以内に手続きしなければなりません。相続放棄の手続きは家庭裁判所に申し立てることになっていますが、そのためには相続放棄申述書や戸籍謄本などの書類を集める必要があります。
また、被相続人の預貯金をはじめとした財産を調査しなければならず、相続について詳しくない人にとっては煩雑な手続きとなります。
そのため、相続放棄の手続きは、本記事でご紹介しているココカラ相続を始め、司法書士や税理士などに依頼することも視野に入れましょう。
相続放棄しても管理義務は発生する
相続放棄すると、次の順位の法定相続人に相続の権利が移ります。
被相続人の配偶者は常に法定相続人となりますが、配偶者以外の法定相続人には以下のように優先順位が定められています。
- 第1順位:子
- 第2順位:親
- 第3順位:兄弟姉妹
たとえば、子が相続放棄した場合は被相続人の親に、その親も相続放棄した場合は被相続人の兄弟姉妹に相続の権利が移転します。
全員が相続放棄した場合は、「自己の財産におけるのと同一の注意義務を持って財産を管理しなければならない」とされており、相続財産管理人を選任しなければなりません。
つまり、「相続放棄をすれば、それで終わり」ではないことに注意しましょう。
農業をしない人の農地相続は慎重に検討しよう
本記事では、農業をしない人が農地を相続する際の注意点やデメリット、相続時に取れる選択肢などを解説しました。
農地は農家でないと取得できませんが、相続は可能です。しかし、農地はそのままでは耕作以外には使用できないため、現実的に非農家の方が売却・活用することは困難ではあります。
また、相続税の問題もあるため、相続放棄や有償での引き取りも含め、長期的な視点で判断する必要があります。一方で相続や農地に関する知識を持たない方が、一人で適切な判断をすることは難しい、というのも現実です。
そのため、農地を相続すべきか悩んでいる方や、すでに相続した農地の扱いに困っている方は、相続の専門家に相談しながら手続きを進めましょう。
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「何から始めたらいいのかわからない」「多くの書類を作成する時に間違えそう」「仕事が忙しくて手続きに時間がなかなか割けない」そのような方におすすめです。
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