夏の農産物の発送って悩みの種ですよね。何月からクール便を使ったほうがいいの?冷凍商品も普通のダンボール箱に入れていいの?など、農家である筆者も気になることばかりです。食品の包装技術に詳しい石谷孝佑(いしたに・たかすけ)さんにお話を聞きました。
■石谷孝佑さんプロフィール
日本食品包装協会理事長。1943年鳥取県生まれ、農学博士。農林水産省食品総合研究所食品包装研究技術ユニット室長、農業研究センター作物生理品質部長、国際農林水産業研究センター企画調整部長・国際研究総括官、日中農業技術研究開発センター首席顧問(北京)などを歴任し、2005年より現職。著書に「食品包装の科学」「トコトンやさしい包装の本」(日刊工業新聞)など。
常温? それともクール便? 温度と農産物の関係
久保田
石谷さん:
果物と野菜、その種類にもよりますが、青果物は夏に限らずできるだけ冷蔵で発送したほうがいいですね。鮮度の持ちが全然違いますよ。
久保田
石谷さん:
青果物は生き物なので温度変化にとても敏感なんです。5度の違いで非常に大きな差が出るんですよ。大事なポイントは「呼吸量」と「蒸散量」です。
久保田
石谷さん:
温度が高いと野菜や果物はたくさん呼吸をします。呼吸量が増えるとまず酸(有機酸)が、次に糖(ぶどう糖)が減ってきます。果物では味が変わります。
久保田
石谷さん:
産地から遠いところの消費者は、果物の本当のおいしさを知らないということにもなります。ボケた味を本当の味だと思っている人も少なくないと思います。そんなところに、採れたての美味しい果物をクール便で送ってあげると、驚かれるでしょうね。
石谷さん:
呼吸量が多いほど劣化しやすくなると覚えておきましょう。青果物は収穫後にできるだけ早く予冷をして、包装後は素早く集荷センターに持っていくといいですね。温度変化は植物にとってストレスになり傷みの原因になります。でも、予冷した後、常温で輸送したら結露したりして逆効果になりますよ。
久保田
石谷さん:
集荷センターに低温の設備がない時には、常温流通になってしまいますね。呼吸量の多い青果物を扱う集荷センターでは、低温化を心掛けてもらってください。
それから、呼吸の量は温度だけではなく作物の種類によっても大きく変わります。特に呼吸量が非常に多いのは花芽野菜、芽野菜、未熟豆類、キノコ類、山菜、カット野菜などです。その次が葉野菜、キュウリやナスのように完熟しないうちに食べる未熟の果菜類、トマトといった果菜、そして呼吸量が最も少ない根菜類と続きます。
久保田
石谷さん:
そしてもう一つのポイントの「蒸散量」ですが、人間が暑いと汗をかくように植物も暑いと体内の水分が抜けていきます。全体の水分の3~5%が抜けると葉物野菜はしおれ、ナスだとつやがなくなります。さらに抜けた水分が袋の中で結露すると腐敗の原因にもなります。低温で管理すれば蒸散を抑えることができます。
久保田
石谷さん:
そうです。ですから夏においしいまま長持ちさせるならば、野菜も果物も冷蔵便で発送すべきです。たとえば桃は収穫後に5℃の低温を保ってやれば2週間は品質良く保存できますよ。欧米やタイなどの低温輸送流通が発達している国では青果がとても長持ちするんです。日本では青果物の低温流通ができていませんから、特に夏場は産地から直接発送ならクール便で送り、受け手がすぐに家庭の冷蔵庫に入れるのが理想的ですね。
久保田
冷蔵での商品梱包のポイント
久保田
石谷さん:
これは常温でも同じですが、まず野菜や果物をそのままダンボールに入れるのはよくありません。箱ですれて傷ついてしまいます。傷がつくと呼吸量が増えて、品質が低下しやすくなります。必ずポリ袋にいれたり、フルーツなら傷防止のキャップをつけたりしましょう。
久保田
石谷さん:
防曇OPPは袋がくもりにくく、見た目がよいので陳列用に好まれますね。ただし発送する場合は中身をきれいに見せる必要がないのでもっと低価格な包材を利用できます。スーパーでよく見かける薄いポリ袋はわかりますか?
久保田
石谷さん:
実はあの袋、高密度ポリエチレンは発送用としても万能なんですよ。ここでもポイントは「呼吸量」と「蒸散量」です。高密度ポリエチレンという材質は空気(酸素)はよく通すので酸欠になりません。けれど水分はほとんど通さないので蒸散しても水分が外部に逃げず、野菜がしおれることを防いでくれます。鮮度保持袋に似た性質を持っていると言えるでしょう。冷蔵で輸送する場合はあの袋で密閉してしまっても大丈夫です。ただし常温の場合は呼吸量が増えて酸欠になる危険がありますので、密閉はさけましょう。
久保田
石谷さん:
あとは新聞紙も利用できます。包んでも空気は通すでしょ。しかも水蒸気は吸収してくれるので結露を防げます。
久保田
石谷さん:
アセアンの途上国では、ポリ袋に入れるときに、新聞紙にくるんでから袋に入れています。
彼らはよく知っていますね。
ダンボール箱の選び方
久保田
石谷さん:
ダンボールの種類にはいろいろあって、葉物野菜など軽いものであれば、両面ダンボールと呼ばれる一般的なダンボールを使います。果物など重量物を送るなら、両面ダンボールを2枚重ねた厚さの複両面ダンボールだと安心でしょう。強度については耐荷重が記載されていると思うので商品仕様欄を見るといいですね。
久保田
石谷さん:
紙は高温から氷点下まで使用できる万能な素材なので大丈夫です。発泡スチロール箱で輸送しているのを見ることもあると思いますが、あれは中に砕氷などを詰めて発送する際に使います。アメリカから来るブロッコリーなどは砕氷を詰めていますが、耐水ダンボールが使われています。
久保田
石谷さん:
ダンボールが湿気を吸うと確かに強度が弱くなりますが、心配なのは結露した場合です。結露の原因は温度変化なので、箱ごと冷蔵庫に入れたあとに常温で運んでまた冷蔵庫に入れて……と繰り返すのはやめましょう。卸売市場でも、ミカンの箱がぐにゃっと座屈しているのを時々見かけます。
久保田
石谷さん:
濡れたら困るものはポリ袋に入れて同梱するといいですね。
冷蔵・冷凍品を宅配便で送るには
効果的な包装とは何かがわかったところで、配送のプロ・佐川急便株式会社に冷蔵・冷凍品の正しい配送方法を教えてもらいました。
──冷蔵・冷凍便を使った場合は何度で発送されるのでしょうか。
飛脚クール便の管理温度は、冷蔵は2~10℃、冷凍は-18℃以下です。輸送工程の中では冷蔵温度帯による作業を行います。アイスクリームなど、管理温度の範囲を超えるお荷物(氷温冷蔵域管理品、-18℃より管理温度の低い冷凍品等)はお取り扱いできませんので、ご了承ください。また、集配車への積み込みや集荷・配達時には一時的に外気に触れる場合があります。
──青果物を発送する場合に、常温と冷蔵便の使用の切り替えの目安はありますか。
外気温が管理温度外となることが懸念される場合は、飛脚クール便での発送をお願いいたします。北海道などの寒冷地では、外気温(常温)のほうが冷蔵温度より低温になり、野菜や果物が冷凍焼けのようになる場合がございますので、届け先の気温も考慮して便種をお選びください。
──発送前の準備について教えてください。
飛脚クール便はお荷物を冷却するサービスではありません。お荷物をあらかじめ冷やした状態(冷蔵品8℃以下で6時間以上、冷凍品-18℃以下で12時間以上)でご準備いただきますようお願いいたします。
久保田
──冷蔵・冷凍品発送用の資材は何がいいですか。
冷蔵・冷凍問わず、ダンボールでの梱包は冷気を通すためクール便の輸送に適しています。発泡スチロールの梱包は冷気を通さないため適しておりません。
──その他、冷蔵・冷凍品の発送の際に気を付けることはありますか。
お客さまご自身で当社指定のケアマークシール(※)を貼付していただき、冷蔵・冷凍が明確になるようお願いいたします。また、冷蔵・冷凍問わず、お届け可能地域かどうかの確認を必ずお願いいたします。
※ 荷物の取り扱いに関する注意事項などを示すシール。
──発送伝票を手書きするのが大変です。なにかいいサービスはありませんか。
当社では送り状発行サポートとしてe飛伝シリーズをご用意しております。パソコンとプリンターで簡単に送り状を作成・発行できるなど、出荷に関する作業の手間を軽減いたします。
久保田
大切に育てた農産物は最高の状態で届けてこそお客様から高い評価を得られます。農家は栽培には並々ならぬこだわりを持って尽力しますが、産地直送を行う場合は発送技術についても同じくらいプロ意識を持って取り組むことが必要となるでしょう。正しく発送してより一層農産物の価値を高めていきましょう。