タマネギ生産の動向
2016年の全国的なべと病の大発生以来、府県産地では安定生産に向けた取り組みが模索され、また、新規産地でのタマネギ生産も注目を浴びるようになりました。
作型別での動向を見ると、気象への不安が続く中で、在圃(ざいほ)期間の短い早生(わせ)タマネギの重要性が高まっています。しかし、その早生タマネギの作柄も、冬場の天候に左右されやすく、抽苔(ちゅうだい)や分球が発生するなど、年々不安定になっているのが現状です。
早生タマネギは大玉の青切り出荷が定番ですが、暖冬の年には肥大しすぎで供給過剰となり、市場価格が安定しない要因の一つになっています。
そこで、「安定した晩抽性を備えた玉じまりのよい早生タマネギ」を目標に育成を行ってきた成果を、「ボルト」と命名して発表します。近年の暖冬でも対応できる晩抽性と、早生種としては皮の色つやにすぐれた高品質性を生かし、安定生産につなげられるように、品種特性と栽培のポイントを紹介します。
「ボルト」の特性
甲高で玉ぞろいのよい早生種
早生種としては比較的甲高で、球形のそろい性にすぐれます。暖地では4月中旬から、中間地でも4月下旬から収穫可能です。
抽苔や分球が少なく作りやすい
抽苔や分球の発生が少なく、さらに病害に対しても比較的強いため、安心して栽培できます。また、草姿立性で葉折れが少なく、育苗時の苗立ちもすぐれ、栽培管理作業が行いやすいという特長もあります。
玉じまりが良好
「ボルト」は従来の早生タマネギと比較して、玉じまりがすぐれているのが大きな特長です。厚く色つやのよい皮が玉に密着しているため、収穫作業中や出荷時に玉が傷む心配が少なく、安心して作業できます。
寒さに強い
冬の寒さによる葉傷みが少なく、低温期の肥大性にすぐれます。そのため、基本的には暖地での栽培が適しますが、中間地での栽培も可能です。
タマネギ栽培3つのポイント
栽培しやすい「ボルト」ですが、その特性を発揮するためには、以下の3つのポイントを押さえることが重要です。
①適期の播種・定植を守る
早生種としては晩抽の「ボルト」ですが、適期の播種(はしゅ)・定植は他品種と同様に重要です。
早どりをねらって早まき・早植えすると、生育が進みすぎて抽苔・分球の危険性が増すほか、葉枚数が多くなりすぎ、かえって熟期が遅くなったり、過繁茂によって病害が発生しやすくなります。逆に播種が遅れると、年内の生育が不十分になり、生育不良や肥大不足になる可能性があります。適期表を確認し、栽培地域に適した播種・定植期を守って栽培を行いましょう。中間地では11月上旬、暖地では11月中旬ごろまでが定植の目安です。
②早春からの肥効を高める
定植後は速やかに活着させ、早春から肥効を高めることが、収量を確保するにあたって重要です。
基本はマルチ栽培で、元肥一発肥料などを使用し、全量元肥で施用します。露地栽培では3分の2程度を元肥とし、残りを追肥として施用します。
追肥は12月下旬〜1月上旬と、2月上中旬を目安に、2回程度施します。肥料の遅効きは葉勝ちになりやすく、肥大の遅れや病害発生の危険性が増すため、注意が必要です。
③早めの病害防除
「ボルト」は早生種としては草姿が立性で、茎葉はかたくしまります。そのため病害には比較的強いのですが、べと病に対しては、他の品種同様に早めの防除を心掛けてください。特に生育期間の短い早生種は葉のダメージが玉肥大に大きく影響を与えるため、予防的な防除で病気を出さないことが重要です。
「スパート」との使い分け
「ボルト」は、タキイ種苗のタマネギ晩抽早生種「スパート」より収穫期が5日ほど早く、玉のしまりがすぐれるのが特色です。「スパート」は、より生育が旺盛で収量性にすぐれます。両品種ともに晩抽性が安定しており、安心して作ることができますし、「ボルト」の後に「スパート」を収穫する、というリレーも可能です。
収穫は晴天の日に
早生品種は球形状が仕上がり次第、青切りで収穫されることが多いですが、「ボルト」の玉じまりを生かす場合は、倒伏ぞろい約1週間後の収穫を目安としましょう。収穫は晴天の日をねらい、皮を圃場(ほじょう)で乾燥させることで、色つやのよく品質の高いタマネギに仕上げることができます。
(執筆:タキイ研究農場 鈴木良平)