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6次産業化の事例をタイプ別に紹介 ポイントやサポートなども

6次産業化の事例をタイプ別に紹介 ポイントやサポートなども

「6次産業化」に取り組んでいる、あるいは始めてみたい農家も多いでしょう。直売所やインターネット販売(EC)、カフェや飲食店の運営、加工品の開発や製造……。6次産業化には、所得アップや廃棄のロスなどさまざまなメリットが見込まれます。しかし一方でデメリットはないか、本当に儲かるのか?なども気になるところです。この記事では事業例や補助、相談先などを紹介します。

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6次産業化とは何か? メリット・デメリットは

言葉の定義

6次産業化とは、農林漁業者(1次産業)が、加工・製造(2次産業)や、流通・販売(3次産業)にも取り組む経営形態を指します。
1次×2次×3次の掛け合わせで“6次”産業とされます。1+2+3も6ですが、相乗効果により新たな価値を生み出すという意味合いから、“掛け算”とされています。
「6次化」や「6次産業」と略される場合も少なくありません。

6次産業化のメリット

①所得の向上
第一のメリットは所得の向上が見込めることです。
1次産業は、主に農産物の生産だけが売り上げです。一方、6次産業化では加工によって付加価値をつけることで売り上げが上がり、所得の向上が見込めます。

②ロスの削減
規格外品など出荷できず廃棄していたものでも、商品化により売り上げに変えられることも6次産業化のメリットです。
規格外のサイズを逆手に取ってブランド化している例もあります。フードロスの解決にもつながるでしょう。

③雇用の創出
加工や製造、流通、販売を行うことで業務の幅は広がります。そのため、農閑期を有効に使い、安定的な雇用も考えられるでしょう。
新たな雇用の創出により、活躍してくれる人が増えるかもしれません。

④その他
カフェやレストランで観光客などを呼び込んだり、地域の販売業者と連携したりすることは地域振興にもつながります。
これら一連の動きがブランディングとなり、地域の発展につながり得ることも6次産業化のメリットです。

6次産業化のデメリット

①投資コスト

デメリットには、投資コストが考えられます。商品化には、パッケージ、デザイン、流通、販売などについて、時間やお金など少なからずコストがかかります。
何より、商品は買ってもらって初めて売り上げになることは理解しておきたいポイントです。
デメリットの軽減策には、ECの利用も一案です。店舗を持つコストが抑えられ、農場から遠くに住む人も見込み客になるからです。近年は「食べチョク」や「ポケットマルシェ」などのECが農家にも消費者にも浸透しています。
また、後述のサポートや資格の活用などを検討するのもいいでしょう。

②食品事故リスク

食中毒などの食品事故を起こさないための対策も必要です。人が口にする以上、食品事故のリスクは十分に心しておきたいものです。
事故を防ぐためにも、2021年6月から、全ての食品事業者にHACCP(ハサップ:危害分析重要管理点)に沿った衛生管理の導入が義務化されました。農家が、ゆで野菜やカット野菜を販売することも対象になります。

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タイプ別:6次産業化に取り組んだ事業例

では、実際に6次産業化に取り組んでいる農家の例を挙げていきます。

事業例1:栽培から取り組み新商品を開発

茶農家が6次産業化で和紅茶を商品化
まず、生産から新たに取り組んだ事例について紹介しましょう。
茨城県猿島(さしま)郡で和紅茶「SASHIMA CRAFT TEA」の製造販売を営む「さしま茶長野園」。国産紅茶コンテストで入賞するなど、問い合わせも多いお茶園です。その和紅茶を使ってアイスクリームにしている会社もあります。

ゼロからの苦労
「ゼロからのスタートだった」と話すのは、長野園の茶師、花水理夫(はなみず・みちお)さん。
約10年前、紅茶の製造を決意したものの、それまでは緑茶だけを作っていました。「紅茶と緑茶は、設備も作り方もまったく違う」と花水さん。
何万人も来場する展示会に出展しても成約はほとんどなく「こんなに注目されないのかと、現実に直面しました」と振り返ります。以来、地道なプロモーションと改善を続けました。

ターニングポイントは人との出会い

ターニングポイントは2018年。中国茶に精通する人と出会ったことでした。「根本的な製茶指導を受け、昔より格段に品種特性に合わせて作り分けられるようになりました」(花水さん)
名称も現在の「SASHIMA CRAFT TEA」とし、パッケージも見直し。
これらの結果、先述の展示会にもう一度出展したところ「今度は、いろいろなお客様と出会えた」と花水さんは手応えを感じています。まったくのゼロだった紅茶の生産量は現在600キロまで増え、2021年の2番茶は完全に紅茶の栽培に特化させました。

商品化のポイント

花水さんは商品化の工夫を次のように話してくれました。
「説明できるものを作って売ることです。お茶に関して言えば、基本的に、お茶だけを飲むお客様は少ないでしょう。ですから、どんなシーンでどんな食事と合うのかが伝えられないとダメ。必ず消費者の立場で考えて商品化しています」

事業例2:カフェを設けて飲食展開

農園内にカフェを新設

6次産業化では、飲食施設を作る例も少なくありません。
静岡県袋井市でクラウンメロンを栽培する村松農園の農園内に「メロンカフェ」が新設されたのは2010年のこと。
古民家風の店内の雰囲気も魅力となり、クラウンメロンを使った「クラウンメロンパフェ」や「クラウンメロンカツカレー」などのメニューが人気となっています。

小さくない借入には苦労も
一方で、「借入は小さくはありませんでした」と開業当初の苦労を語った店主の村松(むらまつ)さん。しかし、税理士に経費の判断基準などの細やかなアドバイスをもらうなどして、10年という短期間で完済。
「カフェは農園内に建てたため家賃がないようなもの。おかげでローン返済の苦労も和らぎましたね」と村松さん。お客様も増え、「コツコツやればお金がついてくるという実感があります」と話してくれました。

地域の資源を大事に

メロンカフェでは地域の資源を活用することにも積極的です。
地元の障害を持つ子どもたちが作った野菜を使うなどして、地域一体となるようなメニューを提供しています。客数も増え続け、地域貢献にもつながっています。

事業例3:規格外品も活用して経営の柱へ

認定事業者として6次産業化に取り組む

さらに、廃棄ロスの削減も6次産業化で見込める一つのメリットです。
山形県天童市で「王将果樹園」を運営する株式会社やまがたさくらんぼファームは、廃棄ロスの削減と販売期間の長期化を考え、新事業としてサクランボの商品化を企画し、6次産業化の認定事業者(後述)になりました。
そして2015年から、冷凍保存したサクランボを活用したソフトクリームを売り出しました。

スモールスタートながら成果に結びつく
同社の代表取締役、矢萩美智(やはぎ・よしとも)さんは「当初は正直、うまくいくとは思っていなかった」と振り返ります。
そのため、ソフトクリームを作る機械は無償で借りるなどの工夫で、スモールスタート。
ただし6次産業化のために、20代の女性を1人雇用しました。
「想定するメインターゲットに近い人材を入れたいと思い、雇用を決断しました」(矢萩さん)
結果、初年度の6次産業での売り上げは矢萩さんの想定を上回る約150万円、ソフトクリームだけで6000本を売り上げました。

売り上げは14倍にまで成長

この結果を受けて、同社は6次産業化をさらに展開。
商品ラインアップにフルーツパフェを増やしました。2016年に建てた新社屋には、本格的なカフェも設置。
2019年の6次産業での売り上げは約2100万円となりました。

「あの店はこれ」という商品で地元客も増やす

成長の秘訣(ひけつ)を矢萩さんに聞きました。
「『あの店ならあの商品!』というものを早く作りたかった。うちの場合、パフェがそうした商品になりました。商品化には女性の力が大きかった。私自身は、6次産業化は女性が活躍しやすい分野であり、活躍してもらわないとヒット商品が生まれないとすら思っています」
以前は地元客の来園は少なかったものの、現在はパフェが目玉商品となり来園が増えているそうです。

6次産業化に取り組む際のサポートや資格

6次産業化サポートセンターへの相談

6次産業化に取り組む際の相談先として、よく知られるのが「6次産業化サポートセンター」です。
各都道府県の農業公社などに設置されています。島根県には6次産業化サポートセンターが設置されていませんが、代わるものとして、県の農業経営相談所で相談できます。

6次産業化プランナーに相談

6次産業化サポートセンターには、6次産業化の専門家である「6次産業化プランナー」が登録されています。
6次産業化に取り組む農林漁業者が相談すると、その内容に合わせて6次産業化プランナーが派遣されるなどの支援が受けられます。
一口に6次産業化プランナーと言っても、経営コンサルタントや、デザインPR会社、飲食業者など専門は多岐にわたります。それぞれで持っている強みが異なりますし、相性もあることは留意しておきましょう。

食の6次産業化プロデューサー検定制度

また、6次産業化を担う人材の認定・育成を目的とした検定制度として「食の6次産業化
プロデューサー(愛称:食Pro.)」というものもあります。
6段階により、高校の修了レベルを想定したレベル1から、トップ・プロフェッショナルのレベル6までの認定があり、雇用や提携をする相手が取得していれば、6次産業化におけるスキルを推し量ることも可能でしょう。また、自身のスキルアップのために取得を目指すのもいいかもしれません。

補助金や助成金はある?

農林水産省の2021年度予算に6次産業化の推進のための予算はありますが、2021年7月27日現在、詳細は未定です。

認定事業者への特例

農林水産大臣の認定を受けることも一案です。
6次産業化に向け、その目的やターゲット、スケジュールなどの事業活動の計画(総合化事業計画)を作成して、農林水産大臣の認定を受けた事業者を「認定事業者」と呼びます。認定事業者となることで、農業改良資金の無利子の融資を受けられるなどの特例もあります。

農業改良資金の借入条件

金利 無利子
償還期限 12年以内(うち据置期間3~5年以内)
限度額 個人 5000万円、法人・団体 1億5000万円

また、総合化事業計画を作成することで今後の事業の目標などを「見える化」できます。
作成する段階では6次産業化サポートセンターでサポートを受けることができます。

6次産業化は“新事業への参入”

6次産業化は、新しい事業を起こすような取り組みです。
新しく学ぶことも、関わる人も多くなり、生産以外に時間をとられることは自然と増えます。従来のやり方ではうまくいかないこともあるでしょう。
ただし、これはチャンスが広がった結果。ネガティブにとらえすぎないこともポイントです。リスクを和らげるサポートや、多くの好事例も生まれています。参考にしながら、取り組んでみてはいかがでしょうか。

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