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改正肥料法で何が変わるのか 偽装防止で規制強化も

山口 亮子

ライター:

改正肥料法で何が変わるのか 偽装防止で規制強化も

肥料の規格や登録、検査などを定めた肥料取締法が改正され、2019年12月に「肥料の品質の確保等に関する法律」(以下、改正肥料法)が交付、施行された。改正の要因には、輸入に頼っている肥料の原料が値上がりしつつあることや、日本の農地で地力の低下が年々進んでいることなどがある。農林水産省は2021年7月、改正内容を説明するオンライン説明会を開いた。今後、肥料の管理制度がどう変わるのか、説明会で語られたことを踏まえつつ解説する。

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原料の海外依存から国内資源の有効活用へ

2019年の法改正まで、日本の肥料制度は「20年くらい見直していないので、いろいろな課題がある」(農水省消費・安全局農産安全管理課)状況だった。中でも深刻な問題が二つあり、オンライン説明会の冒頭で農産安全管理課長の及川仁(おいかわ・ひとし)さんが言及している。一つ目は、海外からの原料調達の不安定さだ。

「我が国は、肥料の原料を海外に大きく依存している状況です。世界的にも肥料の需要が伸びており、将来にわたって肥料の原料を安定的に確保、供給していくためにも、国内で調達可能な堆肥(たいひ)、産業副産物をより有効活用していくことも重要です」

実際、国内の肥料のプライスリーダーであるJA全農は、2021年度の秋肥価格を軒並み値上げしている(参考:化学肥料の値上がり当面続くか、国際的な需要高で 農家がとれる対策は?)。世界の肥料消費が増加基調にある中で、日本の消費量は世界全体の0.5%(2018年)に過ぎない。そのため、原料の産出国や、中国、インド、米国、ブラジル、インドネシアといった大消費国の動向に価格が大きく左右されてしまう。

そこで、国内の畜産や下水道から出るものを原料とした堆肥や、産業副産物として出てくる未利用資源を使うことで、輸入への依存度を下げようというわけだ。産業副産物というのは、要は産業廃棄物に当たる食品残渣(ざんさ)や汚泥など、肥料としても使えるものを指す。

汚泥肥料

下水汚泥を乾燥させた乾燥汚泥(左)と、さらにペレット化して散布しやすくしたもの(奥)。下水汚泥肥料は、化学肥料に近い肥効を持つものとして期待されている

規制緩和で堆肥を使いやすく

課題の二つ目は「土づくり」の危機だ。
「我が国の農地利用においても、堆肥の施用の減少、化学肥料中心の施肥によって、土壌の栄養バランスの偏りといった問題が発生しているところです。適切な農業生産をしていくためにも、土づくりの重要性は増しています」(及川さん)

水田での堆肥の施用を調べた農水省の農業経営統計調査によると、30年間で投入量は約4分の1に減少している。

これら二つの課題を解決するために、改正肥料法は米ぬかや堆肥、魚かすといった「特殊肥料」と化学肥料などの「普通肥料」を配合できるようにした。こうしてできた肥料は、散布しやすいように造粒することもできる。特殊肥料どうしの配合も認め、造粒しやすくする物質や、固結(固まること)や悪臭を防止する物質も使えるようにした

特殊肥料はそのままの形状だと、まくのに労力を要するものが多い。加えて、化学肥料だと窒素、リン酸、カリウムといった必要成分が組み合わされた商品があるのに対し、特殊肥料はこれまで製造時に別の特殊肥料と混合することが認められていなかった。そこで、足りない成分をまた別途まくか、農家が自前で混合する必要があった。そんな不便さを減らそうというのだ。

ただし、何でも混ぜていいわけではない。肥料が品質低下を起こさないように、使用できない原料や組み合わせが決められている。
「新たに生産できる肥料について、今年の7月に150銘柄の届け出がされています。その多くが、土づくりを進めると期待される特殊肥料や、土壌改良を目的とする肥料ということです」(及川さん)

偽装防止に原料の管理で規制強化も

一方で、製造業者への原料帳簿の作成と備え付けの義務化といった規制強化もある。

これは、法改正のきっかけの一つである2015年に発覚した肥料の偽装事件が影響しているはずだ。肥料は見た目で成分を判別しにくく、農家は製造業者による成分表示を信じて購入する。しかし、肥料製造会社・太平物産(秋田市に本社を置いていたが経営破綻)は成分表示と異なる製造を長年にわたって続けていた。有機質肥料と信じて購入したのに化学合成された物質が含まれており、生産物が有機栽培の基準を満たさなくなった農家も出た。

農水省が同社の工場へ立ち入り検査を続けてきたにもかかわらず、偽装に気づけなかったことも批判を浴びた。太平物産は有機質肥料に強みを持つはずだったが、実際には有機質の原料の調達量が、製造量に比べて明らかに少なかった。改正肥料法は原料の偽装を帳簿の備え付けで防ごうとするのに加え、製造者自身による品質の確保を求めている。

原料管理の義務化や、届け出できる肥料が増えることを反映して、改正に伴い法律の名称が「肥料取締法」から「肥料の品質の確保等に関する法律」に変わった。
「企業自らの品質管理がますます重要になっている。ますますのご努力をお願いしたい」(及川さん)

農産安全管理課としては、製造業者の自己規制の強化に期待しているのがうかがえる。産業廃棄物の肥料への活用を促す以上、重金属といった汚染物質が基準値を超えないことも含め、原料の品質保証は重要性を増す。法制度上、肥料の品質が確保される体制が整ったということになるのだが、現実に品質が担保されるのかどうかは、注意して見ていかなければならない。

* * *

改正肥料法はすでに段階的に施行されてきた。原料の管理制度などの改正は、2021年12月に施行される。肥料袋の表示の簡素化など、農家の身近でもすでに改正法施行の影響はある。改正に関心を持った人は、農水省の「肥料制度の見直しに係るオンライン説明会の開催について」というページに詳しい資料が公開されているので、参考にしてほしい。

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