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肥料を節約できる菌とは? リン酸資源の枯渇に福音か

山口 亮子

ライター:

連載企画:連続講義 土を語る

肥料を節約できる菌とは? リン酸資源の枯渇に福音か

陸上植物の8割の根に共生する微生物「菌根(きんこん)菌」。微生物資材として販売されていて、ネギ栽培に使うと根からのリン酸吸収を促し、リン酸肥料を節約できる。肥料の三要素の一つであるリン酸は、原料のリン鉱石がいずれ枯渇してしまう。菌根菌の可能性を山形大学農学部教授の俵谷圭太郎(たわらや・けいたろう)さんに聞いた。

根と菌根菌の切っても切れない関係

■俵谷圭太郎さんプロフィール

1995年、北海道大学で博士号(農学)を取得。専門は土壌生物学、植物栄養学・土壌学。菌根共生系のリン応答と持続的作物生産・環境修復への応用研究で、2020年度日本土壌肥料学会賞受賞。

──菌根菌はどういうものなのでしょう。

菌根は、土壌中のある種の菌類と、植物の根の共生体のことです。カビの仲間が根と共生していると考えると、分かりやすいでしょうか。この菌根を作る菌を、菌根菌と言います。土の中にはさまざまな微生物がいて、植物の根から炭素をもらおうと根に集まってきます。これ自体は、病原菌も菌根菌も同じです。菌根菌は、根から炭素をもらったら、代わりに植物にリン酸を供給するため、相利(そうり)共生と呼ばれる互恵関係にあります。

菌根菌にもいろいろあって、よく知られているのは、アカマツと共生するマツタケですね。これは、アカマツの根と共生する外生菌根(根の外へと伸びる菌根)です。コチョウランといったラン科の植物は、ラン菌根という特有の菌根菌と共生します。

私が研究する「アーバスキュラー菌根菌」は、宿主つまり共生する植物が非常に多いです。ただし、菌根菌と植物がいつも互いに利益があるかというと、そうではありません。アーバスキュラー菌根菌も条件によってはあまり植物の生育に影響を及ぼさなかったり、逆に足を引っ張ったりします。

樹枝状体

アーバスキュラー菌根菌は根の内部に侵入した後、根の中で内生菌糸を伸ばし、根の細胞内に樹枝状体(アーバスキュール、濃い青色の部分)を形成する。この樹枝状体で植物から糖を受け取り、外生菌糸を伸ばしていく(資料提供:俵谷圭太郎)

菌根菌のはじまりは、胞子です。ミカンに生えたカビに触れると、白っぽい粉が手に付きますね。あれが胞子です。菌根菌は土の中に胞子という形で存在して、胞子が根の中に入ると、炭素をもらって外生菌糸を伸ばします(下図参照)。すると、根から25センチ以上といった遠いところからでもリン酸を運んでこられるので、より多くのリン酸を吸収できるわけです。

植物は菌根菌がなくても育ちますけど、根の周りのリン酸しか吸収できないので、根の周りにリン酸欠乏領域を生んでしまいます。ですから農家は、リン酸が不足しないように、大量のリン酸肥料をまくんです。

リン酸吸収促進機構

アーバスキュラー菌根菌の構造と菌糸によるリン酸の吸収(資料提供:俵谷圭太郎)

必ず来るリン酸資源の枯渇という“Xデー”

──そのリン酸肥料は2008年に高騰しましたね。

リン酸肥料の原料はリン鉱石で、日本は100%を輸入に頼っています。リン酸資源はいずれ枯渇するとされ、リン鉱石を産出しない日本は、枯渇に備えなければいけません。

たとえばリン鉱石を産出するアメリカは、自国の農業に優先的に使うため、1990年代からリン鉱石の輸出量を徐々に絞り、今では禁止しています。中国もリン鉱石を産出し、日本に輸出していますが、生産量が減ると輸出が減るかもしれません。

リン酸資源の枯渇に備えて、私たち植物栄養学者は三つの対策を考えています。まず一つ目は、リン酸肥料の無駄な投入を減らすことです。リン酸肥料は与えすぎてもあまり害が出ません。そのため農家はリン酸が作物の生育途中で足りなくなったら困るし、値段も安いからと、肥料の販売業者に言われるままに投入してきたところがあります。過剰な投入を減らすうえで、菌根菌が役に立つという話は、後ほどします。

二つ目は、作物がリン酸を獲得し利用する能力を改善することです。つまり、リン酸肥料を少なくしても作物が育つようにするのです。こういう発想は、日本にはありませんでした。たとえば山形県は米どころで、つや姫や雪若丸といった有名な品種がありますが、肥料を十分に与える条件ではじめて、収量が高く、おいしくなります。肥料を少なくすると満足に育たないのは、この2品種に限りません。これからは、肥料が少なくても育つような育種が求められます。

三つ目は、国内におけるリン酸資源の再循環です。最終的にリン鉱石が海外から全く入って来なくなるので、国内でリン酸資源をうまく回さなければいけません。

ネギに菌根菌でリン酸肥料を大幅節約

──菌根菌はどんな作物の生育を良くするのでしょうか。

最初からターゲットにしているのは、ネギです。ネギ類は根が伸びないため、農家は限られた根からできるだけ多く吸収させようと大量に肥料を与えます。こういう作物に菌根菌を使えば、根と外生菌糸でより広い範囲のリン酸を吸収でき、生育が良くなるはずだと、10年以上前から研究してきました。
菌根菌は日本で唯一、微生物資材として1996年に政令で指定されました。JAでも取り扱いがあります。その一つ、Glomus(グロムス)R-10という資材を使って、ポット試験と圃場(ほじょう)試験をしました。
写真を見てください。

圃場におけるネギ収量

アーバスキュラー菌根菌接種区と非接種区の収穫時の生育。アーバスキュラー菌根菌は育苗時に与える(資料提供:俵谷圭太郎)

下の数字は、植物が吸収できる形態のリン化合物「可給態リン酸」が100グラムの土に何ミリグラム含まれているかを示します。菌根菌の接種区は土中の可給態リン酸が30ミリグラムでも十分大きくなっています。接種区の30ミリグラムと、非接種区の100や150ミリグラムのネギの大きさは、ほとんど変わりません。

これまで土中に可給態リン酸が100とか150ミリグラム含まれるまで肥料をまかないとダメだったのが、菌根菌を与えると30ミリグラムくらいに減らしても十分な大きさに育つので、肥料を大幅に減らせます。この実験では、菌根菌を接種すると、収量がおよそ1.5~3倍に増えています。

2011年に実験した当時のコストは、リン酸肥料の過リン酸石灰が1キロ57円で、1ヘクタール当たり9800キロほどまくので、ヘクタール当たりのコストは56万円くらい。Glomus R-10という菌根菌の資材は1キロ840円で、500キロほどまくので、42万円くらい。つまり、1ヘクタール当たり14万円ほどしか節約になっていません。

菌根菌の資材の値段は、農家にとって少し高いところがあって、普及するには下がる必要があります。過リン酸石灰の値段は、これ以上下がることはなく、現時点でも当時より上がっています。そうすると、節約額も時間の経過とともに大きくなるはずです。
ちなみに、アブラナ科の植物は菌根を一切形成しないので、大根やカブには使えません。ホウレンソウも菌根を形成しないので同様です。

微生物資材だけに難しさも

──菌根菌が微生物資材として登録されて、25年もたっているとは知りませんでした。

菌根菌の使用があまり広がらない理由としては、まず、リン酸肥料の値段があまり上がっていないことが挙げられます。それから、原料であるリン鉱石が輸入に頼っていることを、農家が知らないこともあります。私が農家と話した限りでは、菌根菌を使って肥料を減らそうという意識はないのが実情です。
加えて、菌根菌は微生物資材なので、肥料をまくのと違って、少し管理も必要です。高温や乾燥した状態に放置しないで、買ったらできるだけ早く使います。

実は1996年の資材としての登録から2000年ごろまで、菌根菌の資材が比較的使われた時期があったのですが、どうもあまり効果が出なかったようなのです。使い方が肥料より面倒で、適切に指導できる人材は、JAや県などの公的機関にもいなかっただろうと思います。土の状態に効果が大きく左右されることも、影響したかもしれません。

菌根菌は、もともと畑の中にも存在します。畑にいい菌根菌がいれば、菌根菌の資材を入れても効果が出ない場合があります。今研究中ですが、もともと畑にいる菌根菌を調べれば、ある程度資材の効果を予想できます。
それと、リン酸があまり含まれない土で使う必要があります。

──リン酸がかなり蓄積した畑だと、使っても意味がないのですね。

リン酸肥料が多いと、菌根形成が阻害されます。植物はリン酸が足りないときは菌根菌の助けが必要なので、菌根の形成を促進するような物質を根から出すと言われます。逆にリン酸肥料が高濃度になると、植物は自分の根だけでリン酸を吸収できるので、菌根を形成したくないわけです。

──こういう性質の土は、菌根菌資材が効きやすいというのはありますか。

どういう土壌で効果が出やすいかは、まだほとんど研究されていません。褐色低地土といった沖積土(河川の氾濫などで土砂が堆積<たいせき>してできた土壌)は、リンがそれなりに含まれていることが多く、効果は出にくいでしょう。ひとまず、黒ボク土だろうと、褐色土や赤色土だろうと、リン酸が少ないところでは効果が出ます。なお、黒ボク土は比較的リン酸の欠乏に陥りやすく、ネギの実験も黒ボク土で行いました。

有機農業にも役立つと最新の研究で明らかに

──菌根菌は有機農業にも使えますか。

菌根菌は土中にいるものなので、使えます。単に使えるだけではなく、有機農業の役に立つということがわかってきています。

──どういう効果があるのですか。

リン化合物には、有機態リンと無機態リンがあります。過リン酸石灰をはじめとする化学肥料は無機態リンです。有機農業では、堆肥(たいひ)といった有機物を施用します。有機物に含まれるのは、リン酸と糖などが結合した有機態リン。この有機態リンは、多くの植物にとって利用しにくいものです。が、一部の菌根菌は有機態リンを使える、つまり有機態リン由来のリンを植物に供給できるということが、私たちの研究で明らかになってきました。

10年ほど前に、農家に“菌根菌ブランド”のネギを作りませんかと声を掛けたことがあるんですよ。微生物で作ったネギだとアピールしたらどうですかと。当時は残念ながら、農家から全く興味を示してもらえませんでした。
今は大豆といったほかの作物での検証を、少しずつ増やしているところです。ちなみに水稲は、水を張っているため、菌根菌が付きにくいと言われています。

──最後に、どんな問題意識を持って研究しているか教えて下さい。

リン酸資源の枯渇がいつ来るかは、分かりません。2030年ごろだという意見もあれば、もう少しもつだろうという意見もあります。いずれにせよ、枯渇してから考えたのでは対策が間に合いません。ですから私たちは、将来のニーズに先駆けて肥料の量を減らすための研究をしているんですね。

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