作業機の持ち上げや旋回も可能に
GPSガイダンスシステムとは一言でいえば「農業版カーナビ」。地球を周回するGPS衛星が発信する信号を受けて、トラクターの位置を即時に把握。操縦席に取り付けたモニター画面に走るべき経路を表示してくれる。
一方の自動操舵装置は人がハンドルを握らずとも勝手にそれを切ってくれるもの。以前は真っすぐに進むだけで、自動的に作業機を持ち上げたり、旋回して再び走り出したりすることはできなかった。それが「ここ数年でいずれもこなせるようになった」(道庁技術普及課)。
図はGPSガイダンスシステムと自動操舵装置の全国と北海道での出荷台数の推移だ。いずれも道庁が井関農機やクボタ、ヤンマーアグリジャパンなどの主要農機メーカー8社に調査をした数字である。それぞれの累計の出荷台数は北海道が全国の76%と82%を占めていることが分かる。
ただ、ここ数年は北海道での伸びが鈍化していた。ところが2020年は一転して出荷台数はそれぞれ4300台と3730台で、対前年比でともに1.5倍以上となった。
コロナ対策の支援金が普及を後押し
なぜこれだけ増えたのか。道庁技術普及課は「メーカーによると、新型コロナウイルス対策の経営継続補助金と持続化給付金の効果です」と説明する。
農林水産省が用意した経営継続補助金とは、新型コロナの感染防止対策をすることを前提に、経営を継続するのに必要な機械装置や広報費などに対し100万円(補助率4分の3)を上限に補助する制度。
一方経済産業省が用意した持続化給付金は、コロナの影響で2020年の売り上げが前年同月比で50%を下回った事業者を対象に、中小企業なら200万円、個人事業主なら100万円を上限に支給する制度だ。
いずれも対象となれば総額で中小企業なら300万円、個人事業主なら200万円を手にできた。同課によれば、GPSガイダンスシステムと自動操舵装置をともにそろえるのにかかる費用は300万円ほどなので、持ち出しはわずかで済む。
出荷台数は2019年までの3年間の伸びが鈍化していた。このため道庁は「もはや頭打ちで、2020年は前年とほぼ同じになる。いや、むしろ減るのではないか」とみていた。それが一転して出荷台数が急増したことに対し、技術普及課は「畑作地帯を中心にまだ普及しきっていないようだ」と説明する。
肝は作業の精度向上と負担軽減
もちろんGPSガイダンスシステムと自動操舵装置の出荷台数が伸びたのは作業上の利点があるからだ。道庁によると、農家からとくに多く挙がるのは「作業精度の向上」と「作業負担の軽減」である。技術普及課は「田植え機にはこれまで3人が乗って1人が運転しながら別の2人が苗の供給をしていた。それが自動操舵になることで、1人か2人が乗るだけで済んでしまう」と話す。一緒に作業をする人数が減ることはコロナ対策にもつながっている。
さらに一度はオペレーターから退いた高齢者が再びトラクターや田植え機に乗る機会も生んでいる。「乗っていても操舵する必要はないですからね。何かあればブレーキを踏むだけで済む。現役世代はその分機械に乗る時間がなくなり、別の仕事ができるので助かるわけです」(技術普及課)
大型農機を自動で操舵するにはGPSなどの衛星測位システム(GNSS)を使って位置情報を補正する「RTK‐GNSSシステム」が不可欠である。道庁が同システムを活用している市町村数を179市町村を対象に調査したところ、70市町村だった。活用を検討しているのは11市町村。活用していないのは98市町村だった(いずれも2019年2月8日時点)。これほど広がったのは、自治体が独自予算で設置したほか、産地が設置する場合にホクレンが独自の補助金を支給したためだという。
調査から3年近くが経った現時点について、同課は「以後は調査はしていないものの、当時から微増しているのではないか」とみている。先駆的に導入してきたのが十勝やオホーツクであることから、これらの地域を参考にほかの地域での普及もこれから進んでいくだろう。