農業も働きやすさ大切、繁忙期も休みを
「農業も、働きやすさを求めていかないとダメだと思っています。農業って、休みが少ない業界です。さらに残業が多くて、繁忙期も出て当たり前というのは、働き方としてちょっと違うと考えています」
ぶった農産専務で採用を担当する佛田和弥(ぶった・かずや)さん(冒頭写真)がこう切り出した。同社の休日は有給休暇を除いて年間87日、就業時間は1日7.5時間だ。農業は、労働基準法(労基法)で定める労働時間や休日の規定の適用から除外されている。だが、同社のこれらの労働条件は、労基法に定める一般企業が守るべき水準を満たす。それでも和弥さんは「うちは休みが少ない」という。
「だからこそ、従業員にしっかりと休みを取らせたいという思いがあるんです。稲刈りの時期でもできるだけ計画的に休みを取るし、ムダな残業や早出をさせないように、すごく注意しています。繁忙期だから休みなしというのは、絶対にしません」
多様な働き方認めたい
和弥さんが働き方を気にするのは、大学卒業後に大手の食品会社に勤めてから家業に入った経歴が影響している。ぶった農産は、和弥さんの祖父・佛田孝治(こうじ)さんが農業を始め、1988年に事業を法人化した。今は父の利弘(としひろ)さんが社長を務め、およそ30ヘクタールでコメを中心に野菜も生産し、農産物の加工や販売も手掛ける。
同社は加工・販売部門を持つこともあり、もともと従業員に占める女性の割合が高い。社員で見ても、8人いるうちの5人が女性だ。それもあって、子育てや学校行事など、必要に応じて勤務時間を調整できる体制をとってきた。
有給休暇をめぐっては、取得の権利を持つ従業員に年間5日を取得させることが2019年4月に全企業の義務になった。ぶった農産はそれよりも前から、5日の有給取得を社員に対して奨励していた。有給休暇を5日連続でとるよう推奨し、リフレッシュにつなげ、柔軟な働き方ができるよう気を配っている。
それでも、一般企業を経て2014年に家業に入った和弥さんは、改善の余地が大きいと感じ、行動してきた。農業法人として、一般企業並みの働き方を念頭に置きつつ、単に普通の会社は目指さない。キーワードは、多様性だ。
「仕事を頑張っている人が偉い、長時間働く人がいいみたいな風土は、どの会社にもあると思います。でも、人それぞれの生活があり、考え方があって、仕事に来ているので、ただただ『もっと頑張れ』と全員に強要すべきじゃない。最近、このことをずっと言い続けているんです」(和弥さん)
仕事で成果を残すために残業も苦にならない人もいれば、仕事はほどほどで早めに退社したい人もいる。にもかかわらず、日本の企業には個人差にあまり配慮せず、単一の働き方を求めるところが少なくない。和弥さんは「それぞれ考え方が違っても、違う役割を与えればいい」と考えている。
キャリアや学歴よりも人間性を見る採用
和弥さんが採用を担当するようになって、戦略をもって求人を出すように変わってきたと社長の利弘さんは振り返る。
「ここ数年は、採用の選考基準として、こういう人材がほしいというターゲットをある程度明確に持っています。人間力が高く、行動力と思考力があって、周囲との親和性が高い。そういう人を面接で選ぼうという共通認識があるんです。それまでは何となく、その人の過去のキャリアや学歴を見てしまっていたところがありましたね」
2020年以降、毎年2、3人を採用してきた。高卒、大卒に加え、院卒も1人いる。学歴にこだわりはなく、院卒を社員に採用した理由はひとえに「良い人材だったから」(和弥さん)。
経歴よりも、その人自身の魅力や、入社した場合にどんな活躍ができそうかを重視する。採用基準が不明瞭だったころは、過去にこんな仕事を手掛けているから、こんな学歴だから職場で活躍してくれるだろうと思い描いて採用しても、期待通りにならないことがあった。雇用する側と働く側、双方のミスマッチを減らす工夫は、今後も積み重ねていくつもりだ。
和弥さんは「社会人にとって大切なのは、素直さ、他を受け止める力、向上心の三つ」と話す。この三つを社員と共有しつつ「それぞれに合ったポジションに配置することで、さまざまな人が自分の力を発揮できる会社でありたい」と考えている。