マイナビ農業TOP > 農業ニュース > 日本の食料基地の物流問題  ドライバー不足対策の「最強のカード」とは

日本の食料基地の物流問題  ドライバー不足対策の「最強のカード」とは

窪田 新之助

ライター:

日本の食料基地の物流問題  ドライバー不足対策の「最強のカード」とは

生産した農畜産物と加工品の45%を都府県に移出する北海道。物流環境では地域的に特異な課題を抱えてきた中、昨今のドライバー不足やJR北海道の路線見直しといった事態が加わり、従来通りに移出できるかどうかが危ぶまれている。北海商科大学商学部の教授で、日本の食料基地が抱える物流の問題に精通している相浦宣徳(あいうら・のぶのり)さんに話を聞いた。

twitter twitter twitter

北海道特有の問題「季節波動」と「片荷」

──北海道における物流課題について教えてください。

これまでの課題は他地域に対する北海道という地域の特異性にありました。このうち産業構造に起因する問題としては「季節波動」と「片荷」が挙げられます。北海道では多くの地域が第1次産業に特化しているので、道外に輸送する物量や輸送時期は農作物の収穫時期につよく関連します。つまり道外への移出量は9~10月の農繁期は多く、農閑期は少ないという「季節波動」が発生します。
また、農繁期に農産品の移出が増えると、道外から北海道へ移入される日用品などの物量よりも出ていく物量が多くなり、帰りの荷物がない「片荷」という状況が発生します。逆に農閑期の1月から初夏にかけては道外から入ってくる荷物が、北海道から出ていく荷物よりも相対的に多くなり、逆方向の片荷が発生します。このほかにも、北海道には他地域と異なる地理的条件に起因する課題がいくつもあります。

「青函共用走行問題」と「並行在来線問題」

──そうした特異性に加えて、昨今は物流環境ではどんな変化が起きているのでしょうか。

まず鉄道貨物については「青函共用走行問題」があります。これは、新幹線と貨物列車が青函トンネルを含む約82キロの共用走行区間ですれ違う際の安全性に関する問題のことです。北海道新幹線は2030年に終着駅が現在の新函館北斗駅から札幌駅まで延伸され、それに伴い、新幹線は現在よりも高速で走行することになる可能性があります。新幹線の高速走行に伴い、貨物列車のダイヤ変更や走行時間帯が制約される恐れがあります。現在、貨物列車は往復で1日平均約40列車が走行しており、年間で約460万トンの荷物を輸送しています。もし、貨物列車のダイヤ変更があったり走行時間帯が制約されたりした場合、2030年以降はいまのように需要に応じた輸送ができなくなる可能性が高いです。

「並行在来線問題」についても慎重に議論しなくてはなりません。新幹線の札幌延伸に伴い、函館線の並行在来線を存続するかどうかが議論されています。もし廃線になると、鉄道貨物も走行できなくなります。これは北海道だけの問題ではなく、全国の並行在来線にも影響する問題です。多くの並行在来線は、貨物列車が走行することによって支払われる線路使用料により経営が支えられています。例えば、北海道からの貨物列車がなくなってしまうと、東北の並行在来線も収入が激減し経営が成り立たなくなる恐れがあります。

「JR北海道の経営問題」

──在来線にはそのほかにも問題がありますか。

はい、JR北海道の経営問題があります。JR北海道は2016年11月18日に「当社単独では維持することが困難な線区」を公表しました。このうち貨物列車が走行している線区は根室線と石北線、そして室蘭線があります。根室線では富良野地域から、石北線ではオホーツク地域からの農産品を輸送する貨物列車が走行しています。それぞれの地域は貨物鉄道輸送のシェアが非常に高い地域、すなわち、貨物鉄道輸送への依存度が非常に高い地域です。室蘭線には旭川や帯広から関東・関西への直行列車が通過します。そして、3線区を通過する物量は青函トンネルを通り本州方面へ輸送される物量の3分の1にも及びます。まさしく、北海道における物流の要所であり、農業の存続に関わる問題です。

──「青函共用走行問題」、「並行在来線問題」、そして「JR北海道の経営問題」で輸送手段としての鉄道を利用できなくなった場合、どうなるのでしょうか。

フェリーやRORO(ローロー)船を介したトラック輸送に偏ります。これにより、集出荷施設などから近距離にある鉄道貨物駅までのトラック輸送が、より遠方の港湾までの輸送に延びることになります。これまでの研究成果によると、北海道での平均の走行距離は前者が約32キロ、後者は190キロ弱です。一方、ドライバー不足は今後ますます進みます。さらには、改正労働基準法が順次施行され、運送事業者にも2024年から「時間外労働の上限規制(年間960時間)」が適用されます。ドライバー不足と時間的な制約から、今よりも輸送力は確実に低下します。輸送距離が延び、同時に輸送力がさらに低下するという事態が発生し、これは、北海道の農産品の多くが運べない、または、輸送費の高騰による消費地での北海道農産品の価格が上昇するということにつながり得ます。

ドライバー不足対策の「最善のカード」

──トラック輸送の問題の解決に向けて何ができますか。

ドライバーの「手待ち時間」(待機時間)や「手荷役」(人手による積み降ろし作業)をなくさなくてはなりません。現在、全国農業協同組合連合会、ホクレン農業協同組合連合会を中心として、パレットを用いた機械荷役の取り組みが進められています。パレットの普及にはその管理や費用の負担などで多くの課題があるものの、ドライバーの不足や長時間労働を解決するうえでの「最善のカード」です。輸送業務の生産性の向上やドライバーさんの労働環境の改善がなされれば、人材の雇用にもつながります。

物流分野ではなく当事者が解決すべき課題

相浦教授

物流は「農業関係者が当事者として解決すべき課題」と説く相浦さん

──農業関係者はどういった姿勢で課題に臨むべきでしょうか。

一般に、これまでは物流事業者に対して、生産者や消費者らの荷主が優位な立場にありました。その関係は変わってきています。荷主が運送事業者を選ぶ時代から、運ぶ側が荷主や荷物を選ぶ時代になりました。選ばれる荷物であるため、選ばれる荷主であるため、そして選ばれる地域であり続けるために、現在直面している課題について「物流分野が解決すべき課題」としてではなく、「農業関係者が当事者として解決すべき課題」と捉え直すことが求められます。

関連記事
大分県産の青果物は関西に運べなくなる!? ドライバーの働き方改革「2024年問題」とは
大分県産の青果物は関西に運べなくなる!? ドライバーの働き方改革「2024年問題」とは
九州地方のJAが目下直面している最大ともいえる課題は物流改革だ。既存の体制だと、3年後には一番の得意先である関西地方に現状の質と量の青果物を輸送できなくなる。大消費地から遠くにある産地に立ちはだかる「2024年問題」とは何か。…
全国的なドライバー不足にどう対応? 青果物流の中継拠点の効果と課題とは
全国的なドライバー不足にどう対応? 青果物流の中継拠点の効果と課題とは
JA全農おおいたが2019年に開設した大分青果センターは、県内の全4JAにとって物流の中継拠点。各JAから青果物を一元的に集荷して予冷した後、分荷して全国に送り届ける。目的は物流費の抑制と市場での有利販売にある。期待した効果は得ら…

あわせて読みたい記事5選

関連キーワード

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

タイアップ企画

公式SNS

「個人情報の取り扱いについて」の同意

2023年4月3日に「個人情報の取り扱いについて」が改訂されました。
マイナビ農業をご利用いただくには「個人情報の取り扱いについて」の内容をご確認いただき、同意いただく必要がございます。

■変更内容
個人情報の利用目的の以下の項目を追加
(7)行動履歴を会員情報と紐づけて分析した上で以下に活用。

内容に同意してサービスを利用する